第五十三話 報復
転移した唯たちがブオン村に着地すると、転移に気づいたベルヴェと村人たちが近寄って来る。
「お帰りなさいませ、唯様」
「ただいま」
ベルヴェは唯に頭を下げた後、唯の後方にいる集団に気が付く。
プッタネスカ王国の紋賞を刻んだ馬車と、同じく紋章を刻んだローブを纏う魔法使いたち。
「唯様、この方々は?」
「この国に巨大な魔法ぶち込んだ奴らよ」
瞬間、村人たちの手から、手に持っていた武器や荷物が落ちる。
そして、ハーに向かって駆け出し、掴みかかった。
「お前かああああ!?」
「何してくれたんだあああ!?」
「隣町のやつらも全滅したんだぞ! おらの娘が嫁いでたんだぞおおお!?」
「……っ!?」
村人たちの剣幕を見て目を丸くしていたハーは、村人に押し倒され、そのまま顔を殴られた。
「おい!?」
「止めなくていいわ」
ベルヴェは即座に村人たち止めようとしたが、唯はベルヴェを制した。
「何故!?」
「剣を向けた相手は、向けられた相手からの報復を受ける義務があるわ」
「し、しかし」
「それに、嫌なら振り払えばいいでしょ。少なくとも、そこの女は村人全員を返り討ちにできる力はあるわ」
滅国魔法に関わったハーに対し、村人たちは報復する権利がある。
同時に、ハーに報復を行った村人に対し、ハーはやり返す権利がある。
唯の心の天秤は、どちらに傾くこともなかった。
全ては、行動したもの勝ち。
唯の考えを理解したベルヴェは制止を諦め、視線を唯からハーに移す。
ハーは両手で顔を抑えつつ、魔法を使うことなく殴られ、蹴られ続けた。
他の魔法使いたちもまた、同様に。
騒ぎの音は、広がっていく。
ブオン村の家から、一人、また一人と顔を出す。
そして事情を聞き、ハーたちに群がっていく。
「やめて!」
フーが叫んでハーに近づくと、ハーは視線でフーを止めた。
ハーにとっては、自業自得の結末。
現状の痛みと非難を、ハーは甘んじて受け入れた。
村人たちは、止まらない。
報復感情のまま、ハーたちを殴り続ける。
「やめろ! 何をしているんだ!」
だが、救いは理不尽にやって来る。
勇者パーティの剣士スミヤキが家の中から現れ、村人たちの行いを制止する。
五体満足で歩くその姿は、村人たちが手を止めるほど威圧感に溢れていた。
村人たちは、スミヤキとハーの間に道を作る。
「エル。彼女たちの回復を」
「あ、うん」
スミヤキの一言で場は収まり、エルがハーの元へと走る。
スミヤキは事態が落ち着いたことを確認してから、険しい顔で唯の元へと近づいた。
スミヤキからの鋭い眼光に対して、唯は強く睨み返す。
「何故、止めなかった?」
「なんで止めなきゃなんないの?」
「目の前で傷つけられている人がいるんだ。理由などなくとも止めるだろう。人間なら」
「無抵抗で傷ついたのは、その女の勝手でしょ? あたしが同じ立場なら、村人全員殺して無傷だったわ」
スミヤキが一歩踏み出すと、唯もまた一歩踏み出した。
二人の距離が縮む。
二人の威圧感が増していく。
ピりつく空気を前に冷静さを取り戻した村人たちは、自分たちが手を出した相手を見て、改めて恐怖する。
プッタネスカ王国の紋賞を刻む魔法使いたち――強者に対して一方的に危害を加えたのだ。
唯の言葉から、自分たちが返り討ちにあってもおかしくない状況だったと気づき、思わず後ろへ下がった。
「スミヤキ、落ち着いて。唯様も、落ち着いてください」
険悪な雰囲気を察して、フーが即座に仲裁に入る。
スミヤキと唯の間に立ち、両手で二人を制した。
唯はスミヤキを睨みつけたまま、フンと鼻を鳴らす。
「村長、水浴び用のお湯は?」
「はい。家に用意しております」
「マイエラを呼んで」
「はっ」
そのまま、唯はベルヴェの家へと歩いて向かった。
ベルヴェは唯を追いかけつつ、マイエラの姿を探した。
唯がいなくなった後、フーは改めてスミヤキへと向き直る。
「スミヤキ?」
フーがスミヤキの肩に手を置くと、スミヤキの感情はようやく落ち着きを見せた。
「フー」
「唯様がああいう人だってことは、わかっているでしょ?」
「ああ……」
「じゃあ、落ち着いて。今は、彼女の機嫌を損ねちゃ駄目」
スミヤキは、口から出てきそうな言葉を飲み込み、唯から与えられた家に向かって歩き始める。
その後、フーはハーの元へ行き、土にまみれたハーを起こし、土を払う。
他の魔法使いたちも続々立ち上がり、フーの方を見る。
ハーは、フーをじっと見つめながら、口を開く。
「……何があったの? なんで、貴女があの女についてるの?」
「好きでついている訳ではありません」
「じゃあ、何?」
「それが、王国のためと判断したからです」
「王国の?」
「ハーさんも、一緒に来てください。聞きたいこともありますし」
混乱するハーの手を引っ張って、フーはスミヤキが向かった方向へと歩いていく。
ハーは、フーに導かれるまま歩を進める。
それに続き、ハーの部下である魔法使いたちも歩き始める。
「貴女たちはここで待機」
が、フーによって制止される。
村人たちに見守られながら、フーとハーはスミヤキの元へと向かった。




