第五十二話 敵
「集まってください」
フーがその場にいる全員を集め、転移魔法を発動する。
全員の姿は一瞬で消え去り、王都に残った瓦礫の付近へと移動する。
「ほんっと便利ね。あたしも使いたかったわ」
唯は未だ転移に慣れないのか、辺りを見渡す。
「おかえりなさい、唯様」
転移で戻って来た唯に、王都へ待機していたエルがかけよる。
「ただいま。変わりはあった?」
「いいえ、ありません」
「そ」
エルはその後フーに近づき、一言二言の雑談を交わした後、唯たちの身に起こったことを質問する。
王都にいたエルでも、僅かな破壊音と人間ではない何かがいることは確認できた。
何があったのか、人間ではない何かはどうなったのか、自身が滞在する王都の残骸に危害が加わることを懸念した。
「大丈夫。唯様が倒した」
「そっか。よかった」
ハーと魔道士たちは、奇妙なものを見るようにその光景を見ていた。
フーとエルの仲が良いのは当然だ。
二人とも、勇者パーティのメンバー。
魔王討伐の旅の中で、深い絆で結ばれているのも納得だ。
異常なのは、そこへ唯が溶け込んでいることだ。
決して、フーとエルのような、友情での繋がりではない。
フーもエルも様付けで呼ぶ当たり、主従関係が適切な言葉かもしれない。
だが、世界の平和を守るために神から選ばれた勇者が、世界の平和を壊そうとしている唯と対等に話す。
どう考えても、異常な事態だ。
ハーがこの場でフーとエルを糾弾したとしても、誰も文句は言わないだろう。
もしもハーが、カルボナーラ王国第一王子フリークの変化を見ていなければ、確実に糾弾していただろう。
「……状況を、説明してくれない?」
ハーが呟くと、唯が振り向いた。
「ねえ。聞きたいことがあるんだけど?」
質問に対し、答えないどころか質問を返されるという唯の振る舞いに、ハーのこめかみがピクリと動く。
副師団長になって以降、ハーの言葉に無礼を持って返す人間などいなかっただけに、唯の行動は余計にハーの感情に刺さった。
が、ハーにとって重要なのは、現状把握。
自身を落ち着かせるため、ハーは小さく深呼吸する。
「……どうぞ?」
「バカでかい光の魔法を放ったのは、あんた?」
唯の質問に、フーとエルが会話を止めて、ハーの方を見る。
ハーは二人の視線を受け、急激に罪悪感を思い出す。
女王からの命令とは言え、国民も勇者パーティも全滅したと聞いたからこそ、国一つ滅ぼす魔法に手を貸したのだ。
だが、事実として、全滅したと聞いていた中に含まれる二人は生きている。
目の前の二人が、ハーの使っていた言い訳を取り上げる。
「……私も、関わりました」
「ふーん。あの魔法は、何度も撃てるの?」
「いいえ。滅国魔法は、五大大国全ての合意がなければ撃てない禁止された魔法。二度目の合意が起きるとは思わない」
「あー、質問を変えるわ。もしも二度目の合意がとられたとしたら、今すぐにでも撃てるの?」
唯は、カルボナーラ王国の王族が人間でないことを知った。
それにより、他国の王族全員が人間でない可能性を考慮していた。
その仮定が正しい場合、五大王国の同意と言うのは、国家間の利害関係ではなく、化け物同士の統一意志。
二度目の合意と言うのは、非常に現実的だ。
対し、ハーはフリークが人間でないことを知った。
だが、あくまでもフリークだけ。
二度目の合意と言うのは、非常に非現実的だ。
すれ違う思考を、唯が前提の設定によって埋める。
ハーはしばらく考えた後、はっきりとした口調で言った。
「無理です」
「根拠は?」
「滅国魔法の使用には、膨大な魔力が必要です。フーが王都にいない今、私なしでは撃てません」
勇者パーティを除けば、ハーは自身の魔力量が世界で一番の自信があった。
事実、一撃目の滅国魔法で最も魔力を注ぎ込んだのは、ハーだ。
「ふーん」
唯は、フーへと視線を向ける。
フーは無言で頷いた。
唯は、フーの行動をハーの発言の肯定と捉え、これ以上のハーへの質問を止めた。
至る可能性を、思い浮かべたから。
「魔法使い。ここにいる全員を、急いで村まで転移させて」
「え?」
「急いで!」
「あ、はい!」
何が何やらわからないまま、フーは再び転移の魔法を発動する。
王都に残る全員を、ブオン村へと転移させた。
唯は考えた。
自分ならどうするか。
仮説の一、もしも、滅国魔法を落とす魔力が足りないなら、威力を抑えてピンポイントで魔法を落とす。
落とす場所は、フリークによって視認された唯の居場所、即ち王都付近。
仮説の二、もしも、王族の魔力がハーに匹敵するのであれば、王族の魔力を使用してカルボナーラ王国全体に再び落とす。
仮説の一が正しければ、王都にいるのは愚策。
仮説の二が正しければ、生き残り全員が集まっているブオン村に集合しておいた方が、生き残り全員を守る効率が良い。
唯たちが転移した直後、カルボナーラ王国の王都に光が落ちた。




