第四十六話 王族
「おお、なんと凶悪な顔だ。さすがは、平和なカルボナーラ王国に宣戦布告し、パンチェッタを下した極悪人」
「あなた、この女は確実に殺さなければなりません」
「そうだな。永遠の平和のために、必ず」
フレッシュが手を上げると、周囲の人々が銀色の剣を持って振りかぶる。
「放て」
そして、フレッシュが手を下ろすと同時に、銀色の剣が投げられる。
剣が空中で弧を描きながら、唯とエルに迫る。
同時に、キーラとカミュゥが走り出す。
銀色の剣よりも速く、唯とエルの元へと到達する。
「何? あっちの爺さんじゃなくて、あんたらがあたしの相手すんの?」
「お父様の手を煩わせるまでもないので」
「そうそう」
第一王女キーラが、唯に神剣を振り下ろす。
第二王女カミュゥが、エルに神剣を振り下ろす。
「あっちのやつにも言ったんだけどさあ、あたしは神具五人を同時に相手して、勝ってるのよ?」
が、唯の動きは、神剣よりも速かった。
唯の足が、深々とキーラの腹部に刺さる。
そして、そのままキーラの腹部に沈み、唯の足が固定された。
「あれ?」
「知ってるわよ。だから何? 勇者パーティなんて、私より弱いやつらと比較されるなんて侮辱だわ」
唯の足を固定したまま、今度はキーラの足が地面に沈み、固定される。
唯がキーラの腹部から足を引っこ抜こうとするも、びくともしない。
「抜けないわね」
「固定完了。さて、カミュゥ?」
任務を完了したキーラがカミュゥの方を向くと、カミュゥは祈りをささげるエルの前で立ち止まっていた。
カミュゥは恐る恐る、キーラの方を向いた。
「ご、ごめんなさいキーラお姉様。この女、結界魔法を張ってて」
「だったら、神剣で壊せばいいじゃない。あなたは本当にどんくさいわね」
「ご、ごめんなさいお姉様。よーし」
カミュゥが神剣を振り上げると同時に、弧を描いた銀色の剣が降って来る。
キーラは再び、視線を唯へと戻す。
キーラの爪が蛇のように長く伸び、唯の腕へと刺さっていく。
そして、爪が唯の腕の中で動き回り、唯が体に力を入れて全身を硬くすることを阻む。
唯が、銀色の剣の爆破さえも防ぐ防御魔法を発動する条件は、筋肉に力を入れること。
唯の肉をほぐすように動き回るキーラの爪が、唯の防御魔法の発動を阻害する。
「生身の体で、これだけの爆破を防げるかしら?」
「無理ね」
「諦めがいいわね」
銀色の剣が、唯の報にも降り注ぐ。
剣が手に届く範囲にまで到達した瞬間、唯は一本の剣を掴み、爆発するより早くキーラに固定された片足と、キーラの爪が刺さる片腕を斬り落とした。
そして、残された足で地面を思いっきり蹴りつけ、後方へと跳んだ。
「はい?」
唯の跳んだ先には、神剣によって結界を破壊したカミュゥと、祈りをささげ続けるエル。
唯は、不要となった銀色の剣をカミュゥの体に突き刺して、カミュゥの体を地面に固定した。
そのままエルの体を掴み、降って来る銀色の剣の射程外へと脱出した。
「そうだったわね。あの女は狂人だったわ」
「痛ーい! 刺されたー!」
キーラとカミュゥに銀の剣の雨が降り注ぎ、その後に大爆発が起こった。
「僧侶! 回復!」
「え? ああ、はい!」
回避直後の空中で、エルが唯に回復魔法をかける。
唯の失った腕と脚が、再び生えてくる。
「やはり、勇者パーティの女から殺した方がいいのでは?」
「そうだな。回復役がいると面倒だ。まったく、勇者パーティが欠けたことを、世界へどう報告すればいいんだ」
生えきるよりも速く、第二王子ヒルズと第三王子ハーゲンが唯たちに接近する。
神剣が狙いを定めるのは、回復魔法を使用中のエルだ。
回復魔法を使用中は、結界魔法を使うことができない。
魔法の発動は、原則同時に一つまで。
「あ」
数秒後の未来を予感したエルが、小さく声を零す。
「回復続けて!」
唯もまた、エルと同じ未来を想像した。
想像ができたから、唯は深く深く息を吸い込んだ。
肺が張り裂けるほど深く深く吸い込み、エルを斬りつけようと飛び掛かって来たヒルズとハーゲンに向かって、一気に吐き出した。
「ぬう!?」
「むお!?」
吐く息と言う風圧が、ヒルズとハーゲンの体を押し返す。
「いっつ……」
負荷によって痛みで悲鳴を上げた肺は、エルの魔法ですぐさま正常な状態へと戻った。
ヒルズとハーゲンが、地面に転がる。
銀色の剣の爆発が終わり、煙が消える。
爆発跡には、人型をした灰色の泥の塊が二つ残っており、泥の塊は抱き合って固まっていた。
灰色は人間の肉の色へと変わっていき、何もない頭部からは髪の毛が伸びていく。
しばらくの後、キーラとカミュゥが形を取り戻した。
「ああ、死んだわね」
「痛かったわ」
六人の王族たちは唯を見ながら、一つの場所へと集まった。
「ふうむ」
フレッシュが顎を掻きながら、困ったような顔で唯を見る。
「大人しく、死んではくれないか? 世界は平和を望んでいるのだ」
しかし、唯の態度は変わらない。
「嫌よ。世界が平和を望んでいたとしても、あたしは最強を望んでいるのよ」
「さっきまで、我が子たちを見ていただろう? 勝てると思うのか?」
「あたしに押されてたじゃない」
エルが、死から蘇ったハーゲンの姿と、灰色の泥から回復魔法もなしに人間の形を取り戻したキールとカミュゥを思い出し、全身を震わせる。
人間という言葉では、決して表現できない何かを前に、人間としての本能がエルに警鐘を鳴らしていた。
「見よ。私たちは回復して無傷だ。それでもまだ、勝てると?」
「勝てるかじゃないわ。勝つのよ! だって、あたしは最強なんだから!」
とはいえ、恐れがあるのはエルにだけ。
唯は、いつも通りに笑った。
「逆に、あんたたちこそ、あたしに勝てると思ってんの? 今降伏して、あたしの下僕になるなら生かしてあげるわ! あんたたちの力を失うのは惜しい!」
そして、フレッシュたちに向かって、手を差し出した。




