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天上天下唯が独尊 ~あたしが世界最強になるまで~  作者: はの
カルボナーラ王国編

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第四十五話 世界平和

 唯とエルを囲んでいた人々の動きが止まる。

 まるで充電の切れた玩具のように、指一本動かなくなる。

 

 エルがハーゲンへと近づく。

 瞳孔と脈を視認して、ハーゲンの死亡を確認する。

 とはいえ、ハーゲンが人間でない以上、確実にとは言い切れない。

 ハーゲンの動きに注意を払いながら、エルは唯の方へと向かう。

 

 唯は、自身が折った神剣ブラペを拾い、まじまじと眺めていた。

 

「……本物、ですか?」

 

「さあ? あたし、本物見たことないもの。でも、多分本物じゃない?」

 

 神剣ブラペは、現在唯が所有している。

 唯は、神剣ブラペをスミヤキから奪った際、神剣の持つ力を自分のものにできないかと試行錯誤していた。

 結局、自分のものにすることはできなかったが、形や魔力の流れと言った特徴を、細部まで把握していた。

 

 唯が目を凝らすと、神剣ブラペの中に、魔力を循環させるための道が映った。

 道は完璧な循環をしており、魔力を流せば全体に均等にいきわたるだろうことが予想できた。

 唯は、周囲の人々の持つ銀色の剣に視線を移す。

 銀色の剣の中は、神剣ブラペと類似した道ができていた。

 しかし、道自体が細く、同時に流れる魔力の量は神剣よりも少なかった。

 また、ところどころに隙間があり、意図的に不安定になるように作られたとしか思えない痕跡があった。

 

 唯の後ろから神剣ブラペを覗き込んでいたエルも、同様の結論に辿り着く。

 

「この構造。神剣の制作者は、同一人物なのかしら?」

 

「そんなことは……。この銀色の剣をお創りになったのは……神のご意志……」

 

「ふーん」

 

「ですが、神がこんな争いを……望むわけが……」


 エルは、自身の神具、神飾マッシュールに触れる。

 神剣ブラペと同じく黄金色に輝く首飾りは、いつも通りに輝いていた。

 

 唯とエルは、神に対する認識が大きく異なっている。

 唯にとっての神は、唯をこの世界に転移させ、つまんない世界を変えようとしている存在だ。

 だからこそ、神剣に対抗するための道具を作って世界にばら撒き、再度争いを起こそうとする仮定に、なんの疑いもなかった。

 

 対し、エルは神から人類に与えられた神具を持って、魔王を倒して世界を平和にするために人生をかけたのだ。

 エルにとっての神とは、世界の平和を望む完全な存在。

 構造が不安定な武器を作ることも、人々を洗脳するような悪の手に神具に匹敵する武器を渡すことも、想像できないことだった。

 

「あるいは、神具を神が作ってない、とかね」

 

 狼狽するエルに対し、唯が一つの可能性を提示する。

 

「どういう、ことですか?」 

 

「この神剣も、銀色の紛い物も、神が作ったんじゃなくて、こいつが作った物ってこと」

 

 唯はハーゲンの頭の半分をぐりぐりと踏みつけ、蹴って転がした。

 

「あ、ありえません! 神剣ブラペは、神より人類に授けられた神具で!」

 

「あんた、神から神剣をもらったところ、見たことあんの?」

 

「それは、ない……ですが」

 

「じゃあ、なんで神からもらったとか言えんのよ」

 

「伝承では……確かに」

 

「ただの昔話じゃない。あたしの世界にもあるわよ。ヤマタノオロチとかいう化け物を倒したら、剣が出てきたとか」

 

 唯は無神論者だ。

 正確に言えば、自分の目で見たものしか信じない。

 神剣の存在を否定する唯と、神剣に酷似した構造を持つ銀色の剣を見たエルは、神への信仰と存在の揺らぎによって全身が揺すられるような衝撃を受けた。

 エルは、自身の信じていた神の存在への不信、不審に思ってしまった自身への絶望、混濁の感情が全身を縛り付ける。

 

 

 

 

 

 

「固まってる時間はないみたいよ?」

 

 だが、一人の人間の混乱は、世界の時間を止めたりはしない。

 次の未来がやってくることを、遅れさせたりはしない。

 

「何と言うことだ。ハーゲンがやられてしまった」

 

「おお、我が子よ。何と痛ましい姿に」

 

「ハーゲンを甘やかさないでください、母上。ハーゲンは、世界の平和を守るという使命を軽く見ていたのでしょう。いい躾ではないですか」

 

「ヒルズお兄様、そう言うのは後にしてください。今は一刻も早く、神具の秘密に近づいた者たちを消さなくては」

 

「そうですよ。ハーゲンお兄様をもう一度作り直して、手伝ってもらいましょう」

 

 やってきた次の未来が、人生最大の衝撃よりも小さいとは限らない。

 

 唯のエルの前に並んだのは、五つの影。

 

 カルボナーラ王国国王、フレッシュ・カルボナーラ

 カルボナーラ王国王女、クリーム・カルボナーラ

 カルボナーラ王国第二王子、ヒルズ・カルボナーラ

 カルボナーラ王国第一王女、キーラ・カルボナーラ

 カルボナーラ王国第二王女、カミュゥ・カルボナーラ

 

 カルボナーラ王国の王族たち。

 

「そうだな」

 

 フレッシュがハーゲンの頭部に触れると、フレッシュの手がハーゲンの中へ沈み込んでいった。

 そして、ハーゲンの顔の中から肉が盛り上がり、欠損していた半分の顔を復元させる。

 復元した顔からは首が生え、首からは体が生えた。

 筋肉と血管塗れの体には皮膚がはがれ、ハーゲンの瞳が戻って来た。

 

「ああ、生き返った。少々、油断してしまった」

 

 フレッシュがハーゲンの顔から手を引っこ抜くと、ハーゲンの姿は元通りの人間となっていた。

 

「はい、ハーゲンお兄様」

 

「ありがとう。カミュゥ」

 

 ハーゲンは、カミュウが渡した神剣ブラペを手に取ると、再生した体の具合を確かめるように剣を振った。

 

「うん、いい感じだ」

 

 エルは、唖然とそれを見る。

 

「二本目の神剣ブラペ……? どういうこと? どうなっているの?」

 

 エルの視界には、唯の持つ折れた神剣ブラペと、ハーゲンの持つ新品同様の神剣ブラペがあった。

 

「どれ。では、永遠の平和のために、悪を滅ぼそうじゃあないか」

 

 フレッシュが手に魔力を込めると、フレッシュの手に三本目の神剣ブラペが作られる。

 クリームの手に、さらに一本。

 ヒルズの手に、さらに一本。

 キーラの手に、さらに一本。

 カミュゥの手に、さらに一本。

 

 唯とエルの目の前に、六人の王族と六本の神剣が揃った。

 

 混乱、恐怖、絶望でぐちゃぐちゃになるエルの横で、唯は腕を組んだ。

 

「いいじゃない。神剣六本相手は、初めてよ」

 

 唯の口角が上がる。

 天使のような微笑みと、悪魔のような微笑みをもって。

 

 強烈に、凶悪に、笑った。

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