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天上天下唯が独尊 ~あたしが世界最強になるまで~  作者: はの
カルボナーラ王国編

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第三十七話 カルボナーラ王国

「ゆ、勇者様たちが……」

 

 斥候によって、勇者パーティ敗北の報は、あっという間にカルボナーラ王国の王城へと届いた。

 

 貴族たちはパニックを起こし、大勢がフレッシュへの面会を求めた。

 中には、一時的に他国への遠征を求める者もいた。

 表向きは休暇や視察だが、本音については言うまでもないだろう。

 

 貴族たちのパニックは、商人へ伝わる。

 商人たちは、元々他国とのつながりを持っている者も多い。

 現実味のある王都陥落の噂を前に、そそくさと荷物をまとめ、いつでも国から脱出できる準備を進める。

 

 商人の異変は、王都に住む国民へ伝わる。

 商人と違って正確な情報ではないがゆえ、噂に尾ひれ背びれがついて加速度的に広まっていく。

 曰く、復活した魔王が王都を滅ぼそうとしている。

 曰く、勇者パーティが魔王に寝返った。

 曰く、王族は既に避難を終えていて、現在王城にいるのは影武者である。

 肥大化した噂は国民に恐怖を植え付け、恐怖に支配された国民たちは王城の前へと押し掛ける。

 

「国王様! 魔王が復活したというのは本当ですか!?」

 

「カルボナーラ王国は滅ぼされてしまうのですか!?」

 

「パンチェッタ様がいれば大丈夫ですよね!? 王都は安全ですよね!?」

 

「さ、下がれ! 下がらないか!」

 

 今にも暴動を起こしそうな国民を前に、王城の門を守る兵たちは冷や汗を流しながら、国民を抑え込む。

 まるで爆発寸前の爆弾、

 兵が一言でも迂闊なことを言えば、王都の混乱を収めることができなくなることなど容易に想像がついた。

 

「陛下は、決して民を見捨てたりしない! ただいま陛下は、王国有数の博識な者を集め、この国の未来について話している! 王都陥落など、ありはしない! ここは剣士の国カルボナーラ、その中心地であるぞ!」

 

 故に、兵が行うことは、王族貴族への信頼を崩させないこと。

 まるで噂が偽りだと思わせるように、堂々と偽りを伝えること。

 自信を含んだ兵の言葉に、集まった国民たちは多少の安心を得て解散していく。

 

 とはいえ、兵たちも全貌など知る由もない。

 一仕事終えた兵は安堵の息を零し、フレッシュがいるだろう玉座の間を不安そうに見つめた。

 

「陛下……」

 

 

 

 

 

 

「国民に武器を持たせ、抗戦させる」

 

 玉座の間。

 フレッシュは集まった貴族たちと魔道師団長ストリーキーに言い放った。

 

「正気ですか、陛下?」

 

 有事において、国民を徴兵し、戦わせることは珍しくない。

 しかし、それは最終手段。

 国家が兵を失い、物資を失い、民間人と言う資源に縋りつかねば戦力が足りず、かつ敵対する相手も同様の場合にのみ効果を発揮する。

 云わば、泥時代の策だ。

 

 今は、状況が違う。

 せめてくる相手――唯は、カルボナーラ王国最強の騎士パンチェッタと世界最強の勇者パーティを下した存在だ。

 王都中の国民を徴兵し、戦場に出したところで、泥試合になるどころか泥団子並みに脆弱に潰されるだろう。

 即ち、ここで国民を徴兵することは無駄死にの生産である。

 

「陛下、他国に支援を要請しましょう! あの女の存在は、世界の危機にも等しいものです! 五か国で力を合わせれば、必ずや!」

 

「国民に武器を持たせ、抗戦させる。これは決定事項だ」

 

「陛下!」

 

「何も無策で言っている訳ではない。国民たちには、王家の持つ秘蔵の武器を配る。勇者の持つ神剣にも匹敵する秘蔵の武器だ。必ずや、我が国に勝利をもたらしてくれるだろう。話は以上だ」

 

「陛下!?」

 

 焦る貴族たちの言葉も聞かず、フレッシュは玉座の間を立ち去った。

 残された貴族たちは、顔を見合わせる。

 その表情には、フレッシュの言葉への不信が見て取れた。

 神剣にも匹敵する武器が存在することも信用できず、また万一に存在したとしても国民に配れるほど数があるなどさらに信用できない。

 神剣とは、それほどに強力な武器なのだから。

 

「あれは、本当に陛下か?」

 

「あのようなことを言うお方ではなかった」

 

「既に、唯という女に洗脳でもされているのではないか?」

 

「ありえぬ。陛下は、王都から一歩も出ておられぬのだ。いったい、いつ洗脳ができよう」

 

「よもや、恐怖で錯乱されたのでは?」

 

 フレッシュの言葉に納得できない貴族たちの不平不満が、玉座の間に飛び交った。

 今すぐにでもフレッシュの後を追い、再び会議の場を設けたいところではあったが、貴族と王族の間には壁がある。

 フレッシュが決断した直後に、その決断をひっくり返すような進言など、おいそれとできるものではない。

 

 そんなことが可能なのは、同じ王族か、貴族位を持たずに実力で貴族と同じ場所に立つ者のみ。

 貴族たちの視線が、一斉にストリーキーへと向いた。

 

「……わかりました。私が、陛下に再度進言致しましょう」

 

「おお、やってくれるかストリーキー殿」

 

 貴族に求められるのは面子だ。

 王族に礼を尽くすことが、最重要。

 対し、騎士団長や魔道師団長に求められるのは強さだ。

 王族への礼が多少欠けていようとも、貴族でないからと許容される。

 

 ストリーキーは、内心では面倒なことを押し付けられたと感じていた。

 とはいえ、フレッシュの決定に異を唱えたいのは、ストリーキーも同様だった

 この場において最適なのが自分であること、貴族たちに借りを作れること、いくつかの利益を考えて従った。

 ストリーキーは玉座の間を出て、警備する兵たちにフレッシュの行方を尋ねながら後を追った。

 

 フレッシュの向かった先は、王城の武器庫。

 他国からの侵略に備え、いつでも戦争ができる程度の武器や防具が蓄えられている場所。

 平時では、武器のメンテナンスをする者が立ち入る程度であり、ストリーキーも滅多に訪れることはない。

 

 ストリーキーは武器庫の扉を叩き、武器庫の中へと入る。

 

「……ストリーキー」

 

「失礼します、陛下。先程の徴兵の件、今一度再考を……いただけないかと……」

 

 ストリーキーは、フレッシュを見た瞬間に事前に決めていた言葉をぺらぺらと話し始めたが、フレッシュが手に持つ剣を見て声が出なくなった。

 あるはずのない物を前に、パクパクと口だけが開閉する。

 

「神剣……ブラペ……?」

 

 フレッシュの手の中には、世界に一本しかないはずの神剣が黄金色に輝いていた。

 

 ストリーキーは神剣ブラペを指差したまま固まり、邪悪な笑みを浮かべるフレッシュと目が合った。

 

「見たな?」

 

 武器庫の扉が閉められる。

 ストリーキーが扉の方へ振り向くと、扉の前にはカルボナーラ王国第一王子であるフリークが立っていた。

 その手には、フレッシュと同じく、神剣ブラペが握られていた。

 

「フ、フリーク王子?」

 

 フリークは一瞬でストリーキーとの距離を詰め、神剣を振り下ろした。

 ストリーキーの心臓を通過する、肩から腰への一閃。

 

「ガフッ……」

 

 ストリーキーは、体から血を吹き出しながら、その場に倒れた。

 流れる血の量が、ストリーキーに自身の死を教えてくれた。

 

(神剣が二本……何故……)

 

 命が消えていくストリーキーに目もくれず、フレッシュとフリークは話し始める。

 

「剣と洗脳魔法の準備ができました」

 

「よし。速やかに、国民全員に洗脳魔法をかけろ」

 

「わかっています。しかし、魔力が」

 

「ここにあるではないか。我が国、最高の魔力の塊が」

 

「ああ」

 

(いったい……何が起こって……)

 

 フレッシュの冷酷な視線を受けながら、ストリーキーは息絶えた。

 

 ストリーキーの死体の横。

 フレッシュとフリークの剣が重ね合わされ、エックスの文字を作る。

 

「さあ、戦おう」

 

「全ては」

 

「争いのない平和な世界のために」

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