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天上天下唯が独尊 ~あたしが世界最強になるまで~  作者: はの
勇者パーティ編

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第三十四話 狂獣

(まずは、回復を封じる!)

 

 唯の観察眼が、現在の状況を見通す。

 近接攻撃担当は、スミヤキの剣とイカリの拳。

 どちらも転移魔法によって、想像しない方向からの攻撃とどんな体勢からでの回避を可能にする。

 遠距離攻撃担当は、フーの炎とジビエの矢。

 そして、回復担当はどんな傷をも回復させるエル。

 

(この場で最初に止めるべきは、魔法使いか僧侶の女!)

 

 回復したスミヤキが神剣を手にし、転移によって唯の近くへと現れる。

 唯はスミヤキの剣とイカリの拳を回避しながら、地面に落ちていた石を蹴り飛ばしてフーへ飛ばす。

 

 フーは自身に向かってくる石を視認すると、転移魔法によって唯の後方へと移動させた。

 石が、唯の後頭部にぶつかる。

 

「痛っ!?」

 

 小さな痛みで一瞬動きが止まった唯の後頭部に、イカリの拳が追加でぶつかる。

 唯の顔面が地面に叩きつけられ、唯の鼻の骨が折れた。

 唯は力づくで上体を起こし、頭上に乗るイカリの拳を跳ねのける。

 そして、曲がった自身の鼻を折り、元の位置へと戻す。

 

「いい加減に、諦めてくれないかな?」

 

「なんでよ? こんなに心躍ってるのに!」

 

 転移したスミヤキによって振り下ろされる神剣を、先程頭にぶつかった石を拾って受け止める。

 石はあっけなく砕け、石を砕く時間でコンマ一秒止まった神剣を、唯は横から殴りつける。

 

 瞬間、スミヤキとイカリの姿が消え、代わりに炎が現れ、唯の全身を包む。

 

「があああああ……!!」

 

 唯はセーラー服についた火を消すため、ごろごろと地面を転がる。

 セーラー服は三割近くが消失し、穴からは火傷跡の痛々しい肌が顔をのぞかせる。

 顔も、手足も、腹も背も、唯の体で火傷跡が残っていない場所など一つもない。

 

「しぶといな」

 

「あは……。あははははは!」

 

 そんな悲痛な状況においてなお、唯はいっさいの悲痛を表情に出さず、やはり笑った。

 

「決めたわ」

 

 否、こんなに面白い場面を前に、悲痛など感じる余裕もなかった。

 

 唯はいくつも石を拾い上げ、時間差でフーに向かって投げつける。

 いくつかがジビエの矢によって砕かれ、いくつかがフーの元へと辿り着く。

 フーは到着した石を順に、唯に目掛けて飛んでいくように転移させる。

 さらに、石に紛れてスミヤキとイカリを転移させる。

 

 ガンガンと唯に石がぶつかる。

 スミヤキの剣とイカリの拳が唯にぶつかる。

 

 唯の右肩より下が落ち、唯の頭蓋骨が砕けた。

 

(過去最高に、痛いじゃない!)

 

 そんな中、唯の瞳はフーだけを捕らえ、フーへの投擲を継続した。

 フーは、先程と変わらず、石を転移させる。

 

 瞬間、唯は生きている足で大地を蹴り、フーへと急接近した。

 フーは石の転移を辞め、冷静に自身へ転移魔法を使う。

 唯の最高速度でも決して追いつけない距離。

 

 そこへ唯は、急接近する速度状態のまま、斬り落とされた自身の腕をフーに向かって投げつけた。

 

 唯よりも速く辿り着く、唯の最高速度を超える狂気の槍。

 

「……!?」

 

 フーの転移魔法は、唯を転移させることはできない。

 厳密に言えば、転移を望まない生物を転移させることができない。

 さらにもう一つの制約。

 転移魔法を連続で使用する場合、一秒にも満たない僅かな時間のインターバルが存在する。

 

 現在、フーが石を転移させてから一秒未満。

 唯の腕は、フーの腹部を貫いた。

 

「自分の腕を!?」

 

「いかれてんのか、あのアマ!?」

 

 スミヤキとイカリの言葉を背後に、腹部に穴の開いたフーを見ながら、唯は地面を蹴ってさらに加速した。

 意識もうろうとするフーの元へ辿り着き、斬り落とされていないもう一本の腕でフーの首を絞める。

 フーの意識を完全に刈り取る。

 

「フー!? か、回復を!」

 

 最速が逆転する。

 一瞬の転移を可能とする勇者パーティから、唯へ。

 転移できなくなったスミヤキとイカリが追い付く前に、唯はエルの元へと走る。

 ジビエの矢を全身に受けて片目を失いながらも、唯は気にせず走る。

 割れた頭蓋骨か、唯の脳へと零れ落ちるが、唯は気にしない。

 後から回復できるならば、体の損傷も死んで方がましだと思える激痛も、唯にとっては些事。

 

「くそっ!」

 

 唯の狙いに気づいたジビエが、エルを庇うように立つ。

 限界まで弓を持ち、限界を超えた数の矢を放つ。

 が、唯は矢の雨の中に構わず突っ込み、ジビエを蹴り飛ばす。

 そして、目的であるエルの首を掴んで地面に叩きつける。

 

「うあ……」

 

 スミヤキが、ようやくフーの元へ到着する。

 

「フー! おい、フー!」

 

「ヒュー……ヒュー……」

 

 体から空気が抜けるようなフーの声が、スミヤキを迎えた。

 

 イカリもまた、唯の元へ到着する。

 転移魔法は倒れた。

 回復魔法も倒れた。

 勇者パーティの半数は、欠けた。

 

 唯は口角を上げ過ぎた笑みを浮かべる。

 

「選べ。我が元へくだるか……死ぬか!」

 

「お前が死ねやああああ!」

 

 エルの首を絞める唯に、イカリは容赦なく拳を振り下ろす。

 

「いいわね」

 

 唯はエルを掴んだまま跳び、拳を躱す。

 イカリの拳が大地を砕く。

 唯は、砕けた大地への着地と同時に、大地を蹴ってイカリへ接近し、腹部を蹴る。

 

「効くかよ!」

 

 が、イカリの力を込めた腹筋は唯の蹴りを通さない。

 微動だにせずその場に立ち、イカリは唯の脚を掴んで骨ごと握りつぶした。

 

「いった……!」

 

 唯は掴まれた脚の膝を曲げ、全身をイカリの懐へ滑り込ませる。

 そして、懐の中で自身の頭部をイカリの頭部へと向け、思いっきり膝を伸ばしてイカリの顎に頭突きを食らわせる。

 

「うぐ……」

 

 イカリの脳が揺れる。

 唯は、握る力の弱ったイカリの腕からすり抜け、イカリの首へ肘を叩きつける。

 ゴキリと首の骨が折れる音がし、イカリはその場に倒れた。

 

「イ……カリ……」

 

「僧侶、あんたなら治せるんでしょう?」

 

 勇者パーティは、残り一人。

 エルを掴んで立つ唯の前に、ふらふらと歩くスミヤキがやって来た。

 仲間思いが強すぎる故、仲間が倒れた時に失速をしてしまうのがスミヤキ唯一の弱点だ。

 スミヤキは唯の前で石につまずき、まるで唯にひれ伏すように倒れた。

 

 唯は、スミヤキを見下ろす。

 

「魔法使いと格闘家の傷は、間違いなく致命傷よ。でも、僧侶の力を使えば治せるんでしょ?」

 

 スミヤキは、周囲を見渡す。

 倒れる四人。

 勇者パーティは、五人で勝って、勝ち続けてきた。

 仲間の命と世界の命、天秤にかかったことはない。

 天秤が傾くより先に、戦いは終わっていたのだから。

 

「選べ。我が下僕となって全員で生きるか、全員で死ぬか」

 

 唯が、奴隷の首輪をスミヤキの前に投げる。

 スミヤキは、奴隷の首輪に目もくれず、倒れている体を土下座の体勢へと変えた。

 

「降伏します。だから、仲間を助けてください」

 

「二言はないわね。あんたたちはたった今から、あたしの下僕よ」

 

 唯がエルの顔を見ると、エルは全てを諦めた表情をしていた。

 唯への敗北と、仲間を助けられることに喜んでしまった自分へのふがいなさ。

 

「まずは、あたしを治しなさい? その後、仲間を治させてあげる」

 

 戦いを終えた唯は、晴れ晴れとした顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、唯様」

 

 勝利に満足する唯を、背後からエーザロがねぎらう。

 拍手をしながら、唯へと近づく。

 

「A級」

 

 唯が振り向くより速く、奴隷の首輪を外したエーザロの刃が、唯の首に目掛けて飛んだ。

 

「死ね! 悪魔め!!」

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