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天上天下唯が独尊 ~あたしが世界最強になるまで~  作者: はの
勇者パーティ編

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第三十三話 転移魔法

 転移魔法は、条約によって使用に大きな制限がかかっている魔法の一つだ。

 自身と他人を、他の場所へ移動させる。

 こんな魔法を野放しにすれば、宝物庫に侵入して金品を奪うことも、王族貴族の寝室に侵入して暗殺することも自由自在。

 世界が傾くことは必然だ。

 

 それでも制限がかかるのみで済んでいるのは、転移魔法を習得できる人間が一握りであり、かつ習得出来たとしても繊細な操作ができないことに起因する。

 例えば、移動距離。

 転移先を決める際に、現在地から転移先までの距離や角度を正確に把握することが必須であり、現実的には目で見える範囲までが移動の限界だ。

 また、同時に転移可能な人数。

 転移魔法の行使者がおんぶして運べる重量が限界と言われており、現実的には自分を含めて二人から三人が限界だ。

 

 結果、世界を傾けるほどの理想的な使い方は妄想止まり。

 それだけが、転移魔法の使用を認めている命綱だ。

 

 ただし、これは一般的な人間の話。

 勇者パーティの魔法使いフーは、転移したい場所をイメージすれば、現在地からの距離と角度が頭の中に浮かんでくる特異体質だった。

 さらに、転移させる重量にも制限がなく、望めば視界に入る全てを転移させることができた。

 才能に、愛されていた。

 

 この特異な転移魔法の力によってフーが周囲から化け物扱いされ続け、スミヤキに力を見初められて勇者パーティに加入したというのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

「燃えろ。炎魔法」

 

 フーの神杖ケッパーから、炎の球が放たれる。

 

「ぺしゃんこにしてやんぜ!」

 

 イカリの神拳チリが、唯の体に向かう。

 

「おら、サイナラ」

 

 ジビエの神弓ミイトから、光速の矢が放たれる。

 

 唯がスミヤキの斬撃を回避するために跳んだ先は、一瞬で安全地帯から死地へと変わった。

 

(これは、躱せないわね)

 

 唯は背後からの総攻撃に対し、体を丸めて急所を隠す。

 背中に矢が刺さり、全身を炎が焼き、止めに新幹線と衝突した時以上の衝撃が全身を襲う。

 

「ぐう……!?」

 

 唯の体が地面に叩きつけられ、ごろごろと転がる。

 唯は両膝と片手を地面について、体の回転を無理やり止めた。

 そして、もう一方の手で背中の矢を抜きながら、神経を研ぎ澄ませて周囲の気配を探る。

 

 即座に、唯に向かって振り下ろされるスミヤキの刃に気づく。

 

「ちぇええええい!」

 

 引き抜いた矢を剣代わりとし、唯はスミヤキの剣を受け止める。

 瞬間、再び背に矢が刺さり、転移してきたイカリの拳が唯の頬を殴りつけた。

 

「……!?」

 

「動く隙を与えるな! このまま息の根を止める!」

 

 唯の背にできた矢の刺さり傷は、唯が殴られている間もじわじわとふさがっていく。

 唯が異世界転移と共に得た能力の一つ、超自然治癒力。

 人間が本来持つ自然治癒力を極限まで高め、高速での再生を可能にする身体能力強化である。

 それ故、唯は切り傷や擦り傷程度であれば即座に回復し、逆を言えば切り落とされた腕の再生や火傷の跡は残ってしまう。

 

 吹き飛ばされながら唯が自身の腕を見ると、腕には火傷の後がびっしりと刻まれていた。

 痛みも熱さも既にないが、自身が攻撃を受けた証明はしっかりと残っていた。

 

 おもわずエーザロが目を丸くするほどの、唯の不利。

 勇者パーティのメンバー個人の実力は、唯に匹敵していた。

 それが五人だ。

 

 エーザロの脳に、唯の死がよぎった。

 

「あははははは!」

 

 が、唯は笑った。

 

「これよ! こういうのが欲しかったのよ!」

 

 イカリの拳で唯が吹き飛んだ先には、転移によって移動したスミヤキが剣を振りかぶっていた。

 先程よりもタメが長く、それ故先程よりも速く、強力な一太刀。

 

「さらばだ、人間の魔王よ」

 

 スミヤキが、神剣ブラペを振り下ろす。

 

「なにそれ! いいキャッチフレーズね!」

 

 唯が、腕を振る。

 唯に向かって放たれていたジビエの矢を腕で受け、もう一方の手で矢を引っこ抜き流血させる。

 そして、振られた腕が体内の血を体外へと押し出し、唯の腕から矢のように血が放たれた。

 

 放たれた血は、スミヤキの目を潰す。

 

「う……」

 

 目つぶしによって、スミヤキの神剣の軌道が僅かにずれる。

 唯は、その僅かなずれに潜り込み、スミヤキの懐へと入り込む。

 

「しま……!?」

 

「はああ!」

 

 唯の拳がスミヤキの腹部にめり込み、あばらを砕く。

 内臓をペシャンコに潰す。

 

「おぐ……」

 

 瞬間、スミヤキの体が消える。

 同時に、唯を炎の球と無数の矢が襲う。

 唯は地面を思いっきり蹴って、炎と矢を交わし、勇者パーティたちから大きく距離をとる。

 

「スミヤキ!」

 

 唯の視界の先では、転移先で倒れるスミヤキと、スミヤキに駆け寄るエルがいた。

 そして、エルがスミヤキに両手をかざすと神飾マッシュールが輝き、スミヤキの体が回復していく。

 砕けたあばらも潰れた内臓も、何事もなかったかのように元通りとなった。

 

「いいわね、あの回復能力」

 

 唯は、突然現れたイカリの拳を両腕で受け止めながら、口角を上げ過ぎた笑みを浮かべる。

 

 唯が理解したことは、二つ。

 一つは、フーの転移魔法は、唯を転移させることができないこと。

 もしも唯の転移が可能であれば、唯を深海の底の底にでも転移させて水圧で殺せばいい。

 地の底に生き埋めして、呼吸を奪ってもいい。

 もう一つは、エルの回復魔法が、唯の超自然治癒を超えること。

 つまりエルさえ手中に収めれば、唯は今以上に負傷を気にせず戦いを楽しめるということ。

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