第十八話 宣戦布告
「そうか」
玉座に座るフレッシュは、第五騎士団の生き残りからの報告を聞いて、一言だけ呟いた。
聞きたいことは山のようにあった。
が、今にも気を失いそうなほど恐怖で震える人間に、これ以上聞けることはなかった。
「し、失礼します」
一人で動かせない体を支えられながら、生き残った兵は退席する。
沈黙する玉座の間。
先に口を開いたのはフレッシュだ。
「どう思う、パンチェッタ?」
「たった一人の少女によって、第五騎士団が壊滅させられる。眉唾の様な話ではありますが、嘘をついているようにも見えません。……それに、あんな土産まで持たせられたとあっては」
パンチェッタの脳裏に蘇るのは、帰還した兵の抱えるアフミカータの頭部。
切られたのではなく引きちぎられた首の切断面は、とても人間の所業とは思えなかった。
「アフミカータ。惜しい男を失ってしまった」
「陛下。出陣の許可を」
戦いにおいて国を守るのは、騎士の誉。
たとえ命を落としたとしても、その行動に悔いはない。
だが、アフミカータの身に起こったことは、戦いと呼ぶにはあまりにも無慈悲で無情だった。
パンチェッタ、アフミカータをあっさりと下した唯への警戒心を高めた。
それは、フレッシュも同じ。
「うむ」
フレッシュは玉座から立ち上がり、命じた。
「カルボナーラ王国騎士団長、パンチェッタ! 出陣を許可する! 如何なる手段を用いても良い! ブッチーノ町を奪還せよ! そして、不届き物の首を我が前に献上せよ!」
「御意に!」
捕らえよ、ではなく、首の献上。
即ち、極刑に処せという命。
フレッシュは既に、唯が捕獲できるほど弱い存在だとは思っておらず、極刑以外の裁きを与えようとも思っていなかった。
突然現れた大罪人。
それが、唯への評価だ。
「陛下、でしたら我々も」
「魔道師団長」
フレッシュとパンチェッタのやり取りを聞いていたカルボナーラ王国魔道師長のストリーキーが、しずしずと歩いてパンチェッタの横に立ち、跪いた。
全身に纏った黒いローブ姿は、その腕も脚もすっぽりと隠している。
パンチェッタがストリーキーを見ると、ストリーキーと一瞬目が合った。
「ブッチーノ町は塀で囲まれ、門で閉ざされているそうではないですか。接近戦を得意とする騎士団だけでは、厳しいでしょう。我々魔道師団が、遠距離攻撃でサポートをさせていただきたい」
「魔道師団が協力していただけるとなれば、我々としても嬉しいことです。陛下」
ストリーキーの言葉を後押すように、パンチェッタも進言する。
「ふうむ、よかろう。魔道師団長ストリーキー。そなたたちにも、ブッチーノ町への出陣を命ずる」
「ありがとうございます」
ストリーキーは頭を下げた後、もう要は済んだとばかりに立ち上がり、玉座の間から立ち去った。
途中、再びストリーキーとパンチェッタの視線が合い、ストリーキーの睨みつけるような視線がパンチェッタに刺さった。
「よいのか、騎士団長?」
「ええ。彼らの魔法は、きっと役立つでしょう」
騎士団と魔道師団は、仲が悪い。
というより、魔道師団が、一方的に騎士団を敵視している。
理由は単純。
カルボナーラ王国において、騎士団の方が格上の扱いを受けているからである。
各国には特色があり、国として育成を優先してきた武力に違いがある。
カルボナーラ王国では、剣術を最優先の武力として育ててきた。
それ故、魔法使いよりも剣士の方が広く活躍の場を与えられ、結果大きな功績を築いた人間の大多数は剣士で占められている。
ただし、この結果は決して、魔法使いより剣士が強いという証明ではない。
変わらぬ実力に対して異なる地位を与えられている事実は、当然魔法使いたちにとって面白くはない。
今回のストリーキーの提言は、自身の魔法使いの部下たちに功績を与えるための場作りであり、剣士よりも魔法使いの方が優れているというのをフレッシュに証明する機会の一つなのだ。
「では、私も出陣の準備に取り掛かります。必ずや、朗報を持ち帰ってごらんに入れます」
「うむ。頼んだぞ。せっかく築いた平和な世、私が崩すわけにはいかん」
ストリーキーの想いなど、パンチェッタは百も承知。
そして、そんな想いさえも手玉に取り、目的達成のための計算に含めるのがパンチェッタの思考回路だ。
パンチェッタは一人廊下を歩き、兵たちの溜まる詰め所へと向かった。
ブッチーノ町。
領主の館。
唯は、家具屋に作らせた巨大なベッドの上にゴロンと寝ころんでいた。
「A級。次は、王国最強の騎士団長とやらが動くと思う?」
「おそらく」
天井を眺めながら問う唯に、エーザロは跪いて答える。
「それって、あんたより強いのよね?」
「強いです。私の剣は、騎士団長パンチェッタ様から学んだところもあります」
「楽しみね」
唯は脚を大きく振り上げて、振り下ろす勢いで上体を起こす。
ベッドから降りて立ち上がり、窓から町を見下ろした。
町の中では、魔物たちが町人たちを追いまわしていた。
町人たちは、逃げ惑う者もいれば、配られた武器を使って抵抗をしている者もいる。
生きるための、必死の抵抗。
「じゃ、これで防衛に成功すれば、あたしの考えは正しかったって証明できるわけだ」
唯は、にっと笑った。




