アンディside
闇夜に同化するように、漆黒の髪をもつ一人の青年が佇んでいる。
数日前から討伐遠征に来ている第二王子率いる騎士団の新人だ。
青年の側には、原型を留めていない魔物の死骸が転がっている。
「──アンディ、おい、アンディ、聞いてるのか」
「誰だ?」
「俺だよ、レオナルド。いい加減名前くらい覚えてくれよ。お前、今日も夜勤するのか? ずっと、寝てないだろ?──」
名前か……。どうでもいい。
アンディにとって、全員が石ころにしか見えていなかった。
石ころ以外の魔物を、どちらが魔物か分からないくらいに虐殺していた。
アンディにとって、エリーのいない世界は、もはや生きている意味がない。
「私の髪色は、赤なのか茶色なのかはっきりしない色でしょ?だから、アンディの黒髪が羨ましいわ。」
金髪が好まれ、黒髪が忌み嫌われる世の中で、エリーだけが自身の髪色を好んでくれた。
エリーも、自身の髪色に悩んでいた。だが、僕から言わせると、エリーの髪色は、まるで実りの秋を思わせるような穏やかな赤茶色だ。くりくりと動く瞳は、アメジストを思わせるようなすみれ色。とても綺麗だ。
僕に何かあれば、まるで自分のことのように心配してくれた。嬉しいことは一緒に喜んでくれ、いつでも心の支えだった。エリーは、僕にとって誰よりも大切な存在。だからこそ、一生側で守ると誓った。それなのに……。
卒業式を欠席するなんて、悪い予感がした。でも、まさか……。伯爵家に乗り込んではみたものの、結局門を開けてももらえなかった。くそっ!己の不甲斐なさに腹が立つ。
結婚した事実だけを知らされるなんて!
エリー、どうして何も言ってくれなかったんだ……。今、君は幸せか?
「どけ!!」
アンディは不穏な気配を察知し、レオナルドを押し退けて駆け出す。
「あそこか!」
巨大な獣の前には、石ころがある。アンディは、石ころの前の魔獣を鬱憤をはらすように吹き飛ばした。
その反動で、魔獣の攻撃がアンディの頬をかすめる。
この程度の傷、痛くもない。エリーの苦しみに比べたら……。
遅れて追いかけてきたレオナルドは「すげー」と開いた口がふさがらないでいた。
アンディは、頬の傷を確認する間もなく、神経を研ぎ澄ます。そして八つ当たりのように周囲の魔獣を跡形もなく消し去った。
「助かった、君、名前は?」
石ころがアンディに問いかけていたが、アンディには届いていない。
「エ、エリオット第二王子殿下、こ、こいつは、アンディと申します! ちょ、ちょっと、耳が悪くて……」
レオナルドは、必死にアンディを庇うように言い訳を言い誤魔化していた。
「そうか、戦闘の後だからな。この礼は、改めてしよう。それ相応の褒美を与えると約束する」
「良かったなアンディ! おい!」
エリー、君は幸せか?
自分の目で確かめなければ、納得できない!エリーが幸せならそれでいい。だが、そうでなければ、決闘を申し込む!
必ず会いにいく!
待っていてくれ、エリー。
その後も魔物討伐は、ほぼアンディ一人の功績により、無事に終了する。歴史上最も早く終わったことを、アンディは知らない。




