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呪われた?旦那様、お約束通り半年が経ちましたので離縁させていただきます  作者: 涙乃


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10.旦那様と過ごす日々

メリッサとの話を終えて、エリーが退室すると、クリフォードが引きずられるように部屋へと引き込まれていく。


状況が分からないマクスは、怪訝な顔をしながらも、エリーの無事な姿を見て胸を撫で下ろす。


エリーは、メリッサのクリフォードに対する想いを知り、複雑な気持ちだった。


単純に容姿に惹かれたという理由ではなかった。メリッサは、幼い頃から魔力も強く活発であった。座学よりも実践で学ぶことを好んでいた。ある程度の年齢になると、王族としての所作、知識を身につけることの重要性を理解したものの、当時は立ち居振る舞いなど気にもしていなかった。その為、「メリッサ王女様は、自由でうらやましいですわ」「本当に。随分と乱暴でいらして、くすくす、まるで平民のよう」など、嫌味を言われることは日常茶飯事だった。

もちろん、泣き寝入りする性格ではない。

返り討ちのすることが多いのだが、とある茶会でのこと。


いつものように令嬢達から嫌がらせをされいた所、クリフォードが助けに入ったのだ。同年代の男性に守ってもらったことのなかったメリッサにとって、初めての経験だった。その容姿に思わず見惚れてしまったのも事実。それは、他の令嬢も同じだった。最初は、自分は助けてもらえたという優越感もあった。その場から連れ出してくれて、優しく声をかけてくれて、舞い上がってしまった。運命だと感じたと。それ以来、ずっと好きだったと。


何度もアプローチしたけれど、相手にされなかったと。クリフォードの隣に立つにふさわしい令嬢になる為に、努力を重ねた。

けれど、振り向いてもらえない。


最後の手段として、権力を駆使。王命により結婚することはできたものの、結局、閨を共にすることはなかった。自分の気持ちを受け入れてもらえず、寂しかったのだと……。


それで、失踪時に呪いをかけたのだと。振り向いてほしくて。


もしも、呪いが解けるまで、長期間かかる場合のことも考慮した。

この部屋に、とある魔法をかけたと。


それが、この部屋に入ったマクス達の老化が止まった原因のようだ。


これは、痴話喧嘩がこじれて、周囲が巻き込まれて、とんでもなく被害がでたのでは……?だめだわ、きっと、深く考えてはいけない。


「メリッサ!おい!まだ話が終わっていない!」


エリーが心の中で状況を整理していると、

クリフォードが部屋から投げ出されるように飛び出してくる。


クリフォードは、慌てて立ち上がると、自室へ駆け込んでいく。

すぐに部屋から飛び出してくると、その手にはオルゴールが握られていた。そのオルゴールを、エリーへと突き出すように渡す。


「ちゃんと、渡したからな!」


クリフォードの顔色は優れず、引き攣っていた。


メリッサ様に、脅されたのかしら?


その一件以来、メリッサ様とはお会いしていない。まるで、何事もなかったかのように、約束した通りに平穏な日々を過ごすことになった。



◇ ◆ ◇



最初は別々であった食事も一緒にとるよう

になった。


ギクシャクとしながらも、会話ができるようになった。


そして、クリフォードは、自分の行いを反省して謝罪してきた。


決して、許せることではないけれど、

エリーは、その謝罪を静かに受け入れた。


「こんな僕を受けいれてくれる君は、天使だ」とか、「女神だ」とか、よく分からない言葉を口にするようになってきた。


エリーは、意味不明のクリフォードの言葉は、生活音の一部として、聞き流す術を覚えた。


そんなエリーの塩対応にもめげずに、クリフォードは、エリーを散歩に誘ったり、積極的にアプローチを続けていた。心を入れ替えて改心したとも取れるその様子を見ても、エリーは一向に心を動かされなかった。


エリーに花束をプレゼントしたり、食事の際はエスコートをかかさない。生活に不便なことはないか、何かと気にかけるクリフォード。


クリフォードに笑顔を向けられる度に、エリーは複雑な気持ちだった。


そんな変わらない日々の中、奇妙な贈り物が届くようになる。


毎月、1輪の青いコダが玄関に無造作に置かれるようになったのだ。邸内の誰も心当たりがないと言う。


いったい誰が、置いているのかしら?

害はないけれど、気になる。


エリーは、クリフォードと一緒に誰が置いているのかを調べることにした。

物陰に隠れて張り込みを続けてから数日後。


一人の男の子が、門を潜って入ってきた。

その男の子は、玄関前に辿り着くと、1輪の青いコダの花をそっと置く。


その瞬間、クリフォードとエリーは物陰から飛び出して、男の子の行く手を阻んだ。


「止まれ!動くな」


「旦那様、子供相手にそういう話し方は、威圧的だと思います。」


「そ、そうか?別に、普通に話しているだけだが、悪かった。」


「怖がらせてしまいます」


「この私が?私が怖いか?」


クリフォードが、上から見下ろすように男の子に問いかける。クリフォードに迫られて、男の子は咄嗟に被っていた帽子を脱いで胸の前で握る。今にも泣き出しそうなのを必死に堪え、萎縮している。


「旦那様、私に質問させてくださいませ。」


「ここは私の邸だから、私の管轄だ」


「いい加減にしてください。ちょっと、失礼します」


クリフォードを押し退けるようにして、エリーは、男の子の前に進み出る。目線を合わせるように屈むと、にっこりと笑顔を作る。

  

「こんにちは」


知らない人から、笑いかけられても、すぐには緊張が解けないわよね。


「このお花は、あなたがいつも持ってきてくれているの?」


男の子は、こくんと黙って頷く。


「そう。もしかして……私に?」


男の子は力強く頷いた。


「いつもありがとう。一つ聞いてもいいかしら?あなたと、どこかで会ったことあるかしら?

あ、怒っている訳ではないのよ、とても嬉しいわ。ただ、気になったから」


エリーは、男の子を傷つけないように慎重に言葉を選ぶ。


男の子は、怒られる訳ではないと知ると、ほっとしたのか話し始めた。


「た、頼まれたの。このお屋敷の女性に渡すようにって。お、お姉さん、エリーって名前で合ってる?エリーさんに渡してくれって」


「確かに私の名前は、エリーよ。」


「いいお小遣い稼ぎなんだ。お駄賃もくれるし、いつも花をお姉さんに渡すようにって。でも、俺、ちょっとずるしちゃって。

最初はちゃんと渡そうと思ってたんだよ。本当だよ。でも、門のとこで声かけても誰も出てこないし。だから、玄関に置いてたらいいかなって。えへへ。ごめんなさい。

いつもきちんと渡さなかったから、てっきり、それがばれて怒られるかと……」


男の子はバツが悪そうに、帽子を掴む手に力を込める。


「誰に頼まれたんだ?」


クリフォードが、ドスのきいた声で横から口を挟む。


「んっと、俺が下働きしている宿屋の旦那さんからだよ。」


「宿屋の?ほぉそうか。随分と命知らずの奴だな」


クリフォードの表情が段々と険しくなっていく。


「ん?なんだよおっさん。うちの旦那さんは、すげーんだ。俺みたいなもんでも働かせてくれるし、奥さんだってご飯いっぱいくれるし優しいんだ」


「奥方がいるのか?結婚しておきながら、人様の妻に花を贈るとは、図太い神経をしているな。いったいどこの宿屋だ?案内しろ」


「ただでは、やだよ!」


「図々しいガキだな」


先程まで怖がっていたのに、慣れてきたのかちゃっかりと交渉をする男の子。

クリフォードは、文句を言いつつも、懐から取り出した金貨を男の子に渡す。


「わぁっこんなに!おじさん、神様なの! 太っ腹だね、着いてきて、こっち!」


「おじさんではない!せめてお兄さんとか言い方があるだろ」


「えへへ、まぁ、いいじゃん。それより行くよ。早く、早く」


金貨を受け取ったことで、態度を一変させる男の子。

砕けた言い合いをするさまは、同年代の子供同士みたいだ。


それにしても先程、妻と強調していたように聞こえた。

あんな言い方をされると、勘違いしてしまう。まるで、旦那様が嫉妬をしているみたいに聞こえたわ。

ううん、まさかね……。そんなはずはないわ。


男の子の名前は、レオと言うそうだ。


意気揚々と進むレオの後ろを追いかけるように、エリーとクリフォードは歩き出す。

背後に後をつける人物がいることを、二人は気づいていなかった。



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