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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第五章 犬の手を借りる
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◆7

「毎日行っているならもう顔馴染みのようなものだと思うのですが、そんな培覧さんに対してでも暴れるのがちょっと気になりまして。ましてや弔ってからは無縁仏のお墓に花を手向けてたんですよね?ほら、人間同士でもそうでしょう。毎日顔を合わせているご近所さんとかにある日いきなり殴りかからないじゃないですか。霊もそんなものです。最初から悪の権化のような悪霊ならともかく、そうでないとなると疑問点が残ります」


 エンは一気に話したところでしまった、と思った。ただの刑事がこんなに話してしまっては怪しまれる。


「……驚きました。阪下さんは霊に関するお仕事とかされていたのですか?」

「い、いやあ、ただのマニアですよ。自分で怪事件を調べているうちに霊のことも詳しくなってしまいまして」


 誤魔化すように頭を掻くも、冷や汗がエンの背中をつたう。久しぶりすぎる聞き込み調査で感覚が鈍っていた。


「阪下さんならそっちの方でも活躍出来そうですね。福連寺うちに欲しいぐらいですよ」


 ははは、と乾いた笑いでしか返せないエンに真鵬も苦笑するしかなかった。


「そういえばかぼちゃですが、散水町はかぼちゃで有名なんですよ。うちでも育てているぐらいです。今日もちょうどかぼちゃの煮物を作っていたんですよ。よろしかったら召し上がっていってください」


 培覧の言葉に甘えて真鵬とエンはかぼちゃの煮物をいただくことにした。思い返せば今日はまともな食事をとっていない気がする。


 しばらくして二人の前に出てきたのはほかほかと湯気が上がる、綺麗な深緑と山吹色のかぼちゃの煮物だった。あまじょっぱい香りが食欲をそそる。

 いただきます、と手を合わせて煮物を口に運ぶ。一口食べて美味しいと感じるはずだった真鵬だが、異変が口の中に広がった。


 確かに味はかぼちゃの煮物だが、その他になにか別の要素を感じた。美味しいとか不味いとかではなく、明らかな違和感。この世の食べ物ではないような感覚に真鵬は吐き気を催した。


「いかかがですか?美味しいでしょう」


 にこにことしている培覧を前に真鵬はちらっとエンを見た。エンは煮物の違和感を感じないのか、これまたにこやかに「ちょうどいい甘さとホクホクな食感ですね」などと答えている。


 涙目になりながらもどうにかして飲み込んだ真鵬はその場で箸を置いた。これ以上は食べられない。体がこの異質な煮物を拒んでいる。


「なんだ大倉、残すのか。もったいない。まああれだけ朝飯食べてたらそうなるか。よし、俺が残りを食べてやる」


 ──俺朝飯なんて満足に食べてないですけど。


 反論しようと口を開きかけたが、エンがそれを目で制した。普段からは考えられないような鋭い目つきに真鵬は萎縮し、「すみません」としか言えなかった。

 エンは真鵬が食べきれなかった煮物の入っている器を手に取ると、なんら問題もない様子で完食した。


「にしてもなんで人魂たちはかぼちゃを散乱させるんでしょうね。美味しいから食べたいのかな」


 独り言のようにつぶやくエンに培覧は少し間を置いてから「そうかもしれませんね」と微笑んだ。


 聞き出せることは聞き出せたとしてエンと真鵬はお暇することにし、培覧は見送りをしてくれることになった。


 石段を下りる途中、来る時には気が付かなかった看板が真鵬の目に入った。

『南瓜記念館はこちら→』

 矢印の方向は寺の先、さらに山の中を指している。

 かぼちゃの産地とだけあって記念館まで立てるとは力の入れようがすごい。


「培覧さん、南瓜記念館というのは?」

「その名の通りこの町でのかぼちゃ栽培の歴史とかを紹介してる記念館です。ご覧になりますか?」


 培覧の提案に真鵬が言葉を探していると、「それよりも」とエンが割り込んだ。


「あのブルーシートはなんですか?」


 エンが指差す方に目を向けると寺の石段から横に逸れた広い敷地の一角に大きくブルーシートで覆われている箇所があった。


「あそこは大きな井戸があるんですよ。もう枯れてるんですけどね。昔近所のやんちゃ坊主たちが井戸を覗き込んだりして危なかったので、事故が起きないようにああやって覆ってるんです」

「そうですか。しかしあれだけ大きい井戸も珍しいですね」

「井戸があるところ一帯はかぼちゃ畑で、水やりのためにも大きい井戸を掘ったそうです。今はホースを使うので時代を感じますね」

「……そうですね。かぼちゃは順調に育ってますか」

「ええ、そりゃもう。例年になく豊作ですよ」


 嬉しそうにかぼちゃのことを語る培覧に再度お礼を言うと二人は車に乗り込んだ。ふう、とため息をついたエンは運転席に置いていたビニール袋を手に取り、真鵬に渡した。

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