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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第五章 犬の手を借りる
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◆8

 数分間車を走らせたかと思うと、福連寺が見えなくなったところでエンは車を停めた。


「吐け」

「え?」

「さっき食べたかぼちゃ、吐け」


 ビニール袋を手に取った真鵬が躊躇しているとエン自身もビニール袋を手に取る。そして車を降りると、おええっと嘔吐する声が聞こえた。


 よくわからないがここはエンに従った方がいいのだろう、真鵬も倣ってビニール袋に向かって吐き出した。


「あのかぼちゃおかしかっただろ。ずっと胃の中に入れたままだったら体がおかしくなる。でもあの場でかぼちゃを残したら怪しまれるかもしれないから食べたけども」


 吐いてげっそりしたエンが再び車を走らせる。


「そういうことだったんですね。俺の分までありがとうございます。俺だけがおかしいのかと思ってました。あの何とも言えない気持ち悪い感じ、なんなんですか?」

「意味合いは変わってくるが、なんていうか、おばけかぼちゃだ」

「おばけかぼちゃ?」

「かぼちゃに邪気が溜まってるんだ。いくら異界の門が開いて邪気が流れ出るからって普通はそんなこと起きないが……。どうなってるんだ」


 ふう、と一息ついてペットボトルのお茶を飲み干したエンは「あそこの住職はやばいな」と国道に向けて走りながらぼやいた。


「やばい?」

「ああ。何の力もない。本当なら住職レベルだったらそれなりの霊力がなきゃおかしいんだ。素質も関係するけど、修行していくうちに養われていくものなんだから住職なら霊力がないとおかしい。それなのに初期の人魂すら成仏させられないなんて無能にもほどがある。人望はあるんだろうけどそれだけだ。まあこんな田舎だったらそれだけで充分なのかもしれないけど、こういう時に困るんだよ」


 ダン、とハンドルに手を叩きつけたエンは明らかに苛立っていた。少しでも触ったら爆発しそうな爆弾みたいな勢いだ。

 寺の住職の霊力のことなんてさっぱりわからない真鵬はただただ前を見て流れていく緑面の景色に目を向けるほかなかった。下手に刺激したら余計苛立たせそうだ。


 日が暮れかけていた山は今や夜闇に包まれている。日が沈むスピードは山の方が街より圧倒的に早いのを実感した瞬間だった。


 小野が言っていた通り真鵬たち以外の車は一台も通らなかった。この地域の住人が警戒しているのを知るには充分すぎる情報だった。

 そのせいでこの世界に二人しかいないような感覚に陥る。それだけはごめんだ、と心の中で呟いた。


「花を手向けに行ってるのは培覧で、住職は行かないって言ってたよな」


 平静を取り戻したらしいエンが真鵬に聞いた。


「確かそう言ってましたね」


 久しぶりに声を発した真鵬の声は少しかすれていた。


「あれは住職じゃ太刀打ち出来ないからだ。最初に人魂の目撃現場に行った時にそれに気付いたんだろ、自分の力じゃ成仏出来ないって。まあ少しは霊感あるみたいだしそれぐらいはわかったらしいな。だからみんなには害のない、安全な霊だから安心しろって説明した。けど本当は寂しいから構って欲しいなんていう可愛い悪戯をする人魂じゃなかった。それを感じた住職はそのことを隠して、自分よりも霊感が強くて霊力のある培覧に成仏させるために国道でも花を供える仕事を任せた。それを続けていれば成仏するとか、どうせそんなことを思っていたんだろうな。でもそんなに事は甘くない。なんせ不慮の火災で死んだ無縁仏もいるんだ、そんな簡単に怨みを捨てて成仏出来たならこの世の中誰も苦労しないさ」


 車のヘッドライトが灰色の絨毯を照らして白く染める。その先に待っているものがただならないものであることは真鵬にも伝わってきていた。

 エンの話に生唾を飲み込んで変わらずにじっと前を見据える。


「さっきも言ったけど顔見知りの、しかも十年間毎日墓に花を手向けてくれる上に国道にまで来てくれるお坊さんに対して手を上げるほど今回の人魂は狂ってるわけじゃない。もしそんな霊なら最初からそうしてると俺は思ってた。でもそこが間違ってたんだ。俺は大前提として異界からやってきた人魂でないなら、『害のない、寂しがりやの人魂』として話を聞いていたけど実際は違う。最初から怨み辛みが募ってる人魂だったんだ。石を投げつけるのも、かぼちゃを撒き散らしてたのも、全部通りがかる人に対しての妨害行為とか悪戯なんかじゃなくて、本当に殺しにかかってたんだ。でも人を殺すには非力すぎた。人魂だと自分だけの力じゃ石を持ち上げるだけで精一杯で殺すには至らない。もちろん人に触ることもできない。しかし強烈な殺意はある。まあ一種の闇下やみさがりか……。これは思っていたより危ないかもしれない。ぼやぼやしてると第二の死者が出る」

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