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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第五章 犬の手を借りる
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◆6

「ところで前にその現場にここの住職さんが行ったと聞きましたが……何も手を打たなかったんですか?その時にどうにかしていれば培覧さんだってこんなことにはならなかったのでは?」


 まくし立てるように言うエンに培覧は思うことがあるのか、一瞬迷った後に口を開いた。


「阪下さんやたらそういった事情に詳しいですね。確かに住職が様子を見に行きました。そして無害な人魂であることを確認して、心配することはないとも言いました。それしか出来ない住職なのです。霊感はほとんど無いような人ですから……。正直に言うと霊の姿すら見えていないはずです。本人は見えている前提で住職をやっていますが、それは嘘です。住人たちは信頼しきっているのでこのことを知りませんが」

「そんな……」

「このことはくれぐれも秘密にしておいてください。私がばらしたということになれば居場所がありませんので。大倉さんもよろしくお願いします」


 頭を下げる培覧に真鵬も軽く頭を下げた。


 にしてもこのエンの落ち込みようはなんだろうか。自分が当事者でもないにも関わらずだいぶショックを受けている。顔色が若干悪いようにも見えた。


「培覧さんは人魂を見たんですか?」

「ええ、まあ。ただ岩を避けるのに必死でちゃんと見る余裕もありませんでした。暗かったですし」

「夜のことだったんですね」

「あの人魂の集団は夜しか動きません」

「なるほど……。ちなみに人魂がこんなことをするようになった原因などに心当たりはありますか?」

「それがね、ないんですよ。ただうちの墓地に眠っている人たちの人魂が供養しきれていないのかな、などは思ったりしますが……。真実はわかりません。それでもやはり気になるので手がかりになるものはないか調べました。見つけ出したのは十年前に隣町で大規模な火災があって、その火災で亡くなった人たちをうちで弔ったことぐらいです」


 福連寺では住職が火災について積極的に情報を集めていたらしく、新聞の切り抜きが残されていた。あまり数は多くない上に地元紙の新聞ばかりだった。

 その情報をまとめると、十年前のある日の夜中に散水町の隣にある小さな町で大きな火災があった。延焼に次ぐ延焼で最終的な死者数は五十人強にも及び、事件性が極めて高かったという。出火元は民家の一角からで放火の疑いがかなり強かったが犯人は不明なままで、捜査は打ち切り、迷宮入りとなってしまった。そしてその町で供養しきれなかったおよそ半分の犠牲者は福連寺で弔ったという。結局誰が犯人なのかわからないまま時は過ぎてしまい今日に至る。


 悲しく志半ばで命を落とした人々が成仏できるわけもない。そこは同情する。だが、だからと言って通りすがりの人に誰彼構わず物を投げてもいいわけではない。それとこれとは話が別だ。


「手がかりなし、ですか」

「はい。しかも中には家族がいなかった人もいたらしく、無縁仏となってしまいました。お墓にはもちろんずっとそうしてきましたが、人魂としてあらわれてからは毎日国道の現場に行って花を手向けてはいるんです。しかしやはりそれだけでは魂は浮かばれませんね」


 培覧はひどく悲しそうに本堂の奥にある、御本尊である仏像を見つめた。仏にすがってでも人魂を安らかに成仏させたいのが痛いほど伝わってくる。


「毎日培覧さんが行っているんですか?住職ではなく?」


 不思議そうに尋ねるエンに培覧も不思議そうだった。


「ええ……住職も色々忙しいので私が行っていますが、なにか……?」

「いえ……。他の方が現場へ行く日とかは?」

「ありません。私が担当みたいなものです」

「そうですか……。そうですか」


 腑に落ちない、といった様子のエンが気になる培覧は「あの、やはりなにかあるのでしょうか」と食い下がった。



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