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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第五章 犬の手を借りる
41/56

◆3

 国道そのものは山と崖に挟まれている、いわゆる田舎の一本道だった。崖側にはどこか頼りないガードレールがあり、その先には森林地帯が広がっている。この時期は紅葉が始まっていることもあって中々風情があった。しかしもし仮に落ちれば木々に体中をぶつけて傷だらけになり、どこが終わりかわからないまま転がり落ちていくことになるだろう。山側はといえばコンクリートで山肌が塗り固められ、風情も情緒も趣もあったものじゃなかった。この町はそんな国道ををまっすぐ行ったところにある、すぐそこまで山が迫ってきているような緑あふれる町だ。むろん電車は通っていない。そこでこの町から一番近い主要駅付近にあったレンタカーショップで車を借り、実際に問題の国道を走ってきた(運転していたエンはオガムが巧みに偽造した免許で車を借り、その危なっかしい運転に真鵬は今日が命日でもおかしくないと生きた心地がしなかった)。


 車を走らせること約二十分、目的の町に着いたのはいいものの誰も外を歩いていない。「田舎町はそんなもんさ」とエンは適当に家を選び、インターホンを鳴らした。友達の家に遊びにきたかのようなその気軽さに真鵬は慌てて刑事らしく見えるように背筋を正した。


 インターホンから住人の声がした。エンは慣れた様子で「すみません、警察のものですが。この辺りを捜査していまして、お時間少々よろしいですか」とインターホンに話しかけた。

「捜査ですか?」と中年女性らしい住人は疑問を抱いている声音をしている。


「ええ。最近この辺りの国道でかぼちゃが散乱してスリップ事故が多発しているという話を聞いたのでその捜査です。なにかご存知ありませんか」

「ああ、そのことですか……」


 女性がなにかしら情報を握っていると踏んだエンは「どんな些細なことでもいいんです。なにかご存知であれば教えてください」とすかさず言葉を重ねた。


「立ち話もなんですし、どうぞ家に上がってください」


 インターホンの通話が切れたかと思うと家のドアが開き、声の主が現れた。五十代半ばから六十代前半といったところか。


「刑事の阪下です」


 エンは軽く会釈をして偽名を名乗り、警察手帳を見せる。真鵬もそれに倣って「同じく大倉です」と名乗って手帳を見せた。

 疑う様子のない女性は「ご苦労様です。さあ、どうぞ。片付けていないので散らかっていますが」と二人を招き入れた。その不用心さに真鵬は驚いたが、逆に自分が女性の立場だったら素直に警察だと信じるだろう、とも思った。さすがに家に入れることはしないが。


 リビングに通された二人はソファーに座るよう言われた。コーヒーと紅茶どっちがいいか聞かれたが、「お構いなく」と返したエンの『普通感』に真鵬は目を見張った。めちゃくちゃな人なのに、普通の人を自然に演じている……いや、エンにとってはいつもの姿が自然であって、今は不自然なのかもしれない。ただ刑事になりすましている時点で不自然な状況であることは間違いない。


「馴染みがあるだろうから」という理由でコーヒーを出してくれたが、馴染みがあるどころかほとんど飲んだこともない。それでもコーヒーカップに口を付けると「大倉さんはずいぶんお若い刑事さんなんですねえ」と言われ、危うくむせるところだった。


「こいつはまだ新米でして」


 エンがさりげなくフォローを入れてくれたが、心臓が喉から飛び出るかと思うぐらいドキドキしている。人を騙すとこんなにも緊張するものなのか。出来ることならもう二度とこんな方法で調査はしたくない。


 女性は小野加代おのかよと名乗った。夫はすでに他界し、長女は違う町に嫁にいった。今はこの一軒家に三十代の息子と二人で暮らしているらしい。その息子は今仕事中とのことで留守だった。


 散らかっていると言っていたがさほどでもない。白を基調にすっきりとまとめられた、こじんまりとしているリビングだった。小野の趣味なのか、壁には小さな風景画が額に入れられて飾られている。サイドボードの上にはかぼちゃの産地よろしく、ハロウィンには欠かせない小ぶりなジャック・オー・ランタンがちょこんと乗せられていた。

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