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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第四章 邂逅
33/56

◆3

 神奈川県の海沿いに人知れず広がる、広大な私有地内に佇む小城。


 ファンタジーの世界に迷い込んだような城の最上階にある扉の前で一人の青年が緊張を露わにして拳を握っていた。


「猩々緋の伊花いのはなハンタです。報告書の提出に来ました」


 扉の前に立っている女はハンタを一瞥すると無表情で扉を開けた。『支部長室』と書かれている焦げ茶色の扉がギッと短く音を立てる。


「支部長、猩々緋の伊花さんです」


 女が機械的にそう言うと、ハンタは一歩踏み出す前に「失礼します」と一礼して支部長室に入った。


 彼を出迎えてくれたのは革椅子に座って熱心に書類を読み込んでいる金髪の美青年だった。


 反死神機関日本支部支部長、エルランド・カッセル。幼い時から『神童』と呼ばれ、悪霊退治の腕前は一流の天才だ。頭も切れる。文武両道なうえに美貌の持ち主とあってまさに鬼に金棒だった。


「やあ、ハンタくん。随分久しぶりな気がするね」


 書類を机に置き、流暢な日本語でハンタに微笑みかけたカッセルは立ち上がってハンタに握手を求めた。ハンタは「お久しぶりです」とおずおず右手を差し出す。


「こちらが一週間分の報告書です」


 鞄の中からクリアファイルを取り出してカッセルに渡すと、カッセルは受け取った報告書を尋常じゃないスピードでめくっていった。

 ハンタはカッセルが読み終わるまで机の前で立っていたが、その間やることもないので支部長室の中を見渡してみる。


 支部長室には相も変わらず部屋の至る所に報告書や機関本部からの書類などが雑多に積み上げられており、それぞれがタワーを形成しているようだ。カッセルは常に紙に埋もれていると言っても過言ではない。この部屋の様子はいつ見ても圧巻だった。


 日本全国からの報告書がこの支部長室に一括して集められるわけで、それを考えるとこうして紙のタワーがあちこちにあるのも頷ける。


 かくいうハンタも猩々緋全体の一週間分の活動をそれぞれがまとめた報告書を出しに来たわけだが、日付が変わったころに帰ってきたばかりで報告書を徹夜で書き上げなくてはいけなかったヨウを思い出すと少し胸が痛んだ。今ごろぐっすり寝ているに違いない。そんなヨウが書き上げた報告書は手書きで実に数十ページに及び、ヨウが持っていた件がいかに複雑だったかを物語っていた。


 カッセルの真横には比較的新しく出来たように見えるタワーがあった。椅子に座っているカッセルの座高をはるかに越えている。


「この紙の山が気になるかい」


 ハンタの視線を感じ取ったカッセルが尋ねた。


「あ、いえ……。かなり高さのあるものだな、と思いまして」

「これは昨日来た報告書なんだけどね。これぐらいならまだかわいいものだよ」

「全部読まれたんですか?」

「うん。一時間ぐらいあれば読めたんだけど別件で忙しくなっちゃってね。結局時間かかっちゃったんだ」

「はあ……。さすがですね」

「君も速読に慣れれば出来るよ」

「そういうものでしょうか……」


 カッセルのすごいところはその情報処理能力の速さだ。今もハンタがさっき手渡した百ページ近い報告書をすでに最後から数ページというところまで読み切っている。短いスピードでも書かれている内容をすべて把握しているのだから敵う訳がない。


「興味深いね、このヘルハウンド憑きの少年。今はどうしてるの?」


 報告書のとあるページで手を止めたカッセルが視線をハンタに移した。そういえばエンが書いた報告書はいつもやたらと丁寧に読み込む人だったな、と思い出す。


「ヘルハウンドを自分でコントロールさせるために隔離中です。その後はヨウの報告書の最後にある地縛霊の件で調査に出る予定です」


 そう答えるとカッセルは「そうか」とつぶやいて再び視線を報告書に落とした。


「コントロール、うまくいくといいね。失敗したら死んじゃうだろうから」

「はい……」


 全身ヘルハウンド化したヘロヘロな状態で地下室に押し込むなんてエンも中々鬼畜だな、と密かにハンタは思っていた。ド素人に対して急にホームランを打たないと死ぬぞと無茶ぶりをしているようなもので、それにきちんと応えられるかといわれたら十中八九無理なのは目に見えている。しかしエンはそういう人だ。獅子は我が子を千尋の谷に落とすというがそれに近い。多少やり過ぎな気もするが、それぐらいしないとこの世界ではやっていけない。


 見境がなくなった悪霊は所構わず命を奪おうとしてくる。例えそれが一般人だろうが退治人だろうが関係ない。今回の真鵬の件は真鵬自身の、そして周りの人の命を守るための訓練としての荒療治だろう。


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