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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第四章 邂逅
32/56

◆2

 エンが二年ぶりに目覚める前からとある場所へ悪霊退治に一週間半ほど行っていたヨウも気になる話を小耳に挟んだらしく、「そういえば」と口を開いた。


「たまたまおっさん二人が話しているのを聞いただけだから具体的なことはよくわからないが、長野に通ずる国道で最近よく不自然なスリップ事故があるらしい。車で走っているとなにかを轢くらしいんだが、その轢いたものっていうのがかぼちゃなんだそうだ。話に違和感を感じたから俺も気になってちょっと調べたが、どうやら国道近くでかぼちゃを育ててることしかわからなかった。ただそれと同時に人魂ひとだまのようなものの目撃談も相次いでいるらしいからなにか関係があるかもしれない」

「なるほどねえ。かぼちゃか。可愛らしい話ではあるけど念のためもうちょい掘り下げる必要があるかもな」


 考え込むように手を顎に当てたエンは近くにあったメモ用紙にボールペンで「長野 国道 かぼちゃ 人魂」と殴り書きした。


「これは久しぶりにお得意の聞き込み調査かなー?楽しみだねえ、ヨウちゃん」


 やたらにこやかな顔で楽しそうに鼻歌まで歌い始めたエンにヨウは眉をしかめた。


「その呼び方やめろって言ってるだろ、気色悪い。それに俺はあんなこともう絶対やらねえからな」

「えー、ケチ。楽しいのに」


 大人げなく「ばーか」だの「ヨウひどい」だの「可愛くない」だの「そんなにケチだとみんなに嫌われるぞ」だの文句をぶーぶー言うエンに対して青筋をピキピキッと立てたヨウだったが、サトがなだめて一触即発の事態はなんとか避けられた。


「てかあんた正気か?死神の眷属けんぞくであるヘルハウンド憑きをここに置くってことがどういうことなのかわかってるんだろうな」

「……ヨウ、俺はいつだって正気だよ?」


 わざとらしい笑みの裏に隠された真意を知りたくなくて顔を背ける。この男はいつだってそうだ、心の内を明かすことは決してない。しかしヨウも人のことを言えないのは事実だった。


「そうかよ。俺は知らねえからな。勝手にしろ」


 ペットボトルを持って自室に引き上げようとするヨウをサトが引き止めた。


「ヨウ、またすぐ退治に出るの?」

「さあな」


 素っ気ないその言葉にサトは「あのねぇ」と食堂にある、小さなホワイトボードを指差した。


「ヨウだけいつもあそこに出発日とかなにも書かないから行動が把握出来なくて困ってるの!どこに行ってるのかもわからないことが多いし、ハロウィン前なんだから勝手なことするよりも──」

「あー、わかったからうるさくするな」


 目をそらしてめんどくさいオーラを全開にしたヨウを見るサトの眼には心配による怒りがこもっている。なにもわかってくれないことが悔しくて顔を少し紅潮させ、キッとヨウを睨んだ。


「もう!連絡取ろうにもいつも携帯の電池切れてて見れないなんて携帯の意味ないじゃない!大体ね、ヨウは普段から連絡くれなすぎ!それに──」

「お前はぎゃあぎゃあうるせえな。こうして生きて帰ってきてるんだから別にいいだろ」

「それは結果でしょ!」

「結果がすべてだ」


 言葉に詰まって言い返せないまま口を空中でパクパクさせるサトと、論破したことによって優越感が顔に滲み出ているヨウはしばらく無言で見つめ合っていたが、とうとうサトが折れた。


「……ご飯あるからね!あとであっためて食べてよ!」


 返事をせずに背を向けて大階段をのぼり、二階の自室へと向かうヨウにサトは頬を膨らませた。


「あいつに携帯持たせても意味ないねぇ」


 エンはポリポリと頭を掻き、どうしたものか、と腕を組んだ。


「そうなんだよね……。今に始まったことじゃないからあれなんだけど。本当に緊急事態の時にはどうするつもりなのかな」

「あいつのことだから全部自分でどうにかしたいんだろ。頼るの下手くそだし」


 いざという時困っちゃうね、などと呑気に話していると突然うめき声とも叫び声ともいえない大声が屋敷中に響き渡った。


「始まったか……」


 水を一口含み、エンは食堂を出た。

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