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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第四章 邂逅
31/56

◆1

「彼が例のヘルハウンド憑きですか」


 地下室から食堂に戻ってきたエンにいの一番に声をかけたのはすらっとした華奢な青年だった。真鵬の異様な姿に不信感を抱いたのか、その表情からはあまりいい印象を受けていないようだった。


「そうだよ。ハンタが明日支部長に報告しに行くんだっけ?」

「はい。そのためにも少しお話できればと思ったんですけど……無理そうですね」

「だねえ。ヘルハウンドとのいざこざがいつ終わるかもわからんし。質問があるなら俺が代わりに答えるけど。どんな質問でもどんと来い!さあ!」

「いや、エンさんは彼じゃないから意味ないです。それに俺、普段はヒロナさん以外の言うこと聞くつもりもないですし。そういえばヒロナさんはどこにいるんですか?ヒロナさーん」


 ばっさりとエンの話を切った華奢なハンタは、これ以上エンに用はないといった様子で食堂をあとにした。


「ねえ、ハンタ俺にドライすぎない?俺なんか悪いことした?」


 エンはテーブルの後ろにあるキッチンで牛乳を温めているミディアムロングの少女に不満そうに聞いた。


「うーん、エンさんがずれたことを言うからじゃないですか?あとやっぱりヒロナさんがいないからかな。ハンタさんはヒロナさん大好きだから。エンさんのことはあまり、ね」


 にこやかにそう答えた少女の言葉にエンは心にグサッときたのか、「俺が帰ってきてからみんなの扱いがひどいよう」と嘘泣きを始めた。


「そうやっても効果ないですよ。嘘なのはお見通しです」

「ちぇっ、なんだよサトまで」


 唇をとんがらせたエンを見て笑うとサトはホットミルクの入ったマグカップを大事に両手で持ち、エンの向かいに腰かけた。ふうふうと息で冷ましながら一口飲むと、「ハンタさんも報告書まとめなきゃいけないから忙しいんですよ」と言った。


「まあそれはわかるけどさ。ってそうか、報告書!ヨウにも言わなきゃな」


 エンが思い出したように手を叩いたのと同時に食堂のドアがガチャッと開いた。サトとエンに目もくれずにすたすたとキッチンまで歩いていったのは今話題にしていた張本人、ヨウだった。どうやらシャワー上がりのようで、白いTシャツの肩にタオルをかけ、黒いスエットを履き、三つ編みがほどかれた長い髪の毛は水で湿っていた。


「おお、ヨウ!ちょうどいいとこに来たなあ!」

「……なんだよ」


 冷蔵庫から冷えた水のペットボトルを出しながら鬱陶しそうにするヨウに今更めげるエンとサトではない。そんな態度を取られてもお構いなしだ。


「明日ハンタが支部に報告書出しに行くから今日中に書き上げといてね」

「は?明日?」

「そうだよ、明日!ハンタはいつも早起きして行くから遅くても朝の六時ぐらいには終わらせないとだね」

「っざけんなよ……」


 眉間に皺を寄せて悪態をつくヨウの姿を見れば普通は近寄りがたくて話しかける人はいないはずだが、もうこの態度にも慣れているエンは気にも留めない様子だった。


 先ほどから会話に度々出てくる報告書というのはエンを筆頭に結成されている悪霊退治集団、猩々緋の協力先に提出する活動報告書のことだ。その協力先は反死神機関日本支部はんしにがみきかんにほんしぶ。通称・機関や支部と呼ばれている、世界的な悪霊退治専門の組織だ。本拠地はハロウィン発祥の地・アイルランドにあり、日本では神奈川県を拠点にしている。


 この反死神機関の主な活動はハロウィンの夜に異界の門を開く死神の討伐及び門から出てくる悪質な霊的存在、そして全世界にはびこる悪霊の撲滅だ。とはいえそう簡単なことではない。むしろ前途多難を極める、無謀な挑戦とも言えることだった。


 そこで機関は世界各国の悪霊退治を稼業としている者たちに事情を話し、協力を仰ぐことにした。機関は協力してくれた者たちの実績に応じて報酬を出すことを約束し、協力関係を結ぶ世界の退治人たちは機関からの悪霊退治要請に応えることを約束した。


 そして協力してくれる退治人たちがどのように動いてくれているかを透明化するために生み出されたのが報告書制度だった。機関と協力関係にある悪霊退治集団、もしくは個人の退治人は一週間に一回、支部への活動報告を提出する義務を課せられている。拠点が支部の近くであれば直接支部を訪れて支部長に手渡し(支部長不在時には別の担当者に預かってもらう)、遠方を拠点にしていて支部まで来れない場合は郵送での提出だ。


 猩々緋の支部への提出担当はその時期に手が空いている者が行うことになっており、今回はハンタだった。


「で、なにか新しい情報とかあった?」


 悪霊退治に出掛けるとその道中で他の悪霊についての情報が耳に入ったり、悪霊や妖怪の仕業ではないかもしれないがその可能性がある情報が手に入ることがある。情報を入手する度に仲間内で共有したり報告書に書いたりするのがこの世界の暗黙の了解だった。

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