五日目・昼
スカーラが扉を開けると、そこには金髪を横で束ねた小柄な捜査官——ロクィアが立っていた。
その後ろにアンシラの姿がないことを見て、スカーラは思わずほっと息を吐きそうになる。
「これはこれは、ロクィア様。わざわざ私の部屋に足をお運びいただくとは」
あくまでお調子者の表情を貼り付け、大仰な礼で招き入れながら、ロクィアが供も連れずに現れたその意図を、胸の内で測っていた。
「立ったままで失礼します」
ロクィアは勧めた椅子には掛けず、後ろ手に扉を閉めると、神妙な面持ちでスカーラに向き直った。
「スカーラさん。まずは、あなたにお詫びをと思いまして」
「お詫び、とは異なこと。何に対してのことでございましょう」
「魔法使いではないあなたを、魔法使い同士の争いに巻き込んでしまい、屋敷に足止めしています」
スカーラは胸に手を当て、恐縮しきった体で眉尻を下げてみせた。
「とんでもないことでございます。歌と与太話しか能のない身で、却ってお手を煩わせております」
ロクィアは扉の外の気配を窺うと、声を落とし、一歩、スカーラのほうへ近づいた。
「実は、お伝えしておきたいことがあるんです。——犯人の目星がつきました」
犯人の目星がついた。
その言葉に、スカーラは、一瞬返す言葉を失った。しかし、犯人とは自分であるはずがない。
そうでなければ、ロクィアは、なぜわざわざ自分に話すのか。
「なんと。それはいったいどなたなのです?」
束の間の動揺は、声や表情には出なかったはずだと、スカーラは一層緊張を孕んだ表情を作ってみせた。
「……ケレリクトルさんです。確かな証拠も、掴んでいます」
スカーラは、思わずロクィアの顔を見つめ返した。ケレリクトルが犯人ではないことは、他ならぬ自分が一番よく知っている。
やってもいない人間から、いったいどんな証拠を掴んだというのか。
「まさか、あのお方が……。しかし、いったいどうやって」
「詳しいことは、まだ申し上げられません。ですが、証拠は確かです」
その証拠を確かめておきたいところだが、これ以上踏み込むわけにもいかず、スカーラは言葉を呑み込んだ。
「これから皆さんを集め、その場でケレリクトルさんに証拠を突きつけます。逃げ場のないところで、罪を認めさせるつもりです」
事態は、スカーラの与り知らぬところで、思わぬ方向へ進もうとしていた。
この娘は本気でケレリクトルを犯人と信じているのか、それとも——。
しかし、今この場では、無力な吟遊詩人としての言葉を返さねばならない。
「このスカーラ、謹んでお受けいたします。下手人が縄につくその瞬間を、どうしてこの目で見逃せましょうか」
ロクィアは硬い笑みで頷くと、軽く頭を下げた。
スカーラが恭しいお辞儀を返すと、扉を開けようとしたロクィアが、その動きを止めて振り向いた。
「そうそう。ひとつ気になっていることがありまして」
「何でございましょう。何なりとお尋ねください」
ロクィアは部屋の隅に立てかけられているリュートを指差した。
「あのリュート、かなり使い込まれたもののように見えますが、どなたかから譲り受けたものなのですか?」
「……ええ、私が昔から使っているもので、大切な相棒でございます」
「なるほど、あなたは見た目よりも経験を積まれているのですね」
「それはもう。——私は生まれながらに詩人でございますので」
スカーラは大袈裟に身を翻し、リュートを手に取ると、弦をひと掻き鳴らした。
「よろしければ、一曲ご披露いたしましょうか?」
そのまま歌い出そうとしたスカーラを、ロクィアは手を挙げて遮った。
「いえ、大丈夫です」
またあとで呼びにきます、と言い残して、ロクィアは今度こそ部屋から立ち去っていく。
扉が閉まるのを待ち、スカーラは椅子の背に身を預けると、吟遊詩人の顔を解いた。
* * *
「首尾はいかがでございましたか」
スカーラの部屋を出ると、廊下の先にアンシラが控えていた。
「スカーラさんは、快く引き受けてくれた」
アンシラは、ロクィアの襟元を軽く直すと、その顔を覗き込むように見た。
「緊張されておりますか、お嬢様」
「……大丈夫。あと少しだわ」
「お嬢様には、いつだってこのアンシラが付いております」
「わかってる。私はケレリクトルさんと話してくる」
「かしこまりました。では、わたくしも手筈どおりに」
深く一礼して階段へ降りていくアンシラを見送ってから、ロクィアは廊下を奥へと進み、突き当たりの一室——ケレリクトルにあてがわれた部屋の前で足を止めた。
扉越しに声をかけると、すぐにケレリクトルが扉を開けた。
「ロクィア殿か。何かあったのか?」
「——お話ししたいことがあります」




