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魔法はすべて言葉でできている  作者: 音鳴 凪
五日目

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14/18

五日目・昼

 スカーラが扉を開けると、そこには金髪を横で束ねた小柄な捜査官——ロクィアが立っていた。


 その後ろにアンシラの姿がないことを見て、スカーラは思わずほっと息を吐きそうになる。


「これはこれは、ロクィア様。わざわざ私の部屋に足をお運びいただくとは」


 あくまでお調子者の表情を貼り付け、大仰な礼で招き入れながら、ロクィアが供も連れずに現れたその意図を、胸の内で測っていた。


「立ったままで失礼します」


 ロクィアは勧めた椅子には掛けず、後ろ手に扉を閉めると、神妙な面持ちでスカーラに向き直った。


「スカーラさん。まずは、あなたにお詫びをと思いまして」


「お詫び、とは異なこと。何に対してのことでございましょう」


「魔法使いではないあなたを、魔法使い同士の争いに巻き込んでしまい、屋敷に足止めしています」


 スカーラは胸に手を当て、恐縮しきった体で眉尻を下げてみせた。


「とんでもないことでございます。歌と与太話しか能のない身で、却ってお手を煩わせております」


 ロクィアは扉の外の気配を窺うと、声を落とし、一歩、スカーラのほうへ近づいた。


「実は、お伝えしておきたいことがあるんです。——犯人の目星がつきました」


 犯人の目星がついた。

 その言葉に、スカーラは、一瞬返す言葉を失った。しかし、犯人とは自分であるはずがない。

 そうでなければ、ロクィアは、なぜわざわざ自分に話すのか。


「なんと。それはいったいどなたなのです?」


 束の間の動揺は、声や表情には出なかったはずだと、スカーラは一層緊張を孕んだ表情を作ってみせた。


「……ケレリクトルさんです。確かな証拠も、掴んでいます」


 スカーラは、思わずロクィアの顔を見つめ返した。ケレリクトルが犯人ではないことは、他ならぬ自分が一番よく知っている。

 やってもいない人間から、いったいどんな証拠を掴んだというのか。


「まさか、あのお方が……。しかし、いったいどうやって」


「詳しいことは、まだ申し上げられません。ですが、証拠は確かです」


 その証拠を確かめておきたいところだが、これ以上踏み込むわけにもいかず、スカーラは言葉を呑み込んだ。


「これから皆さんを集め、その場でケレリクトルさんに証拠を突きつけます。逃げ場のないところで、罪を認めさせるつもりです」


 事態は、スカーラの与り知らぬところで、思わぬ方向へ進もうとしていた。

 この娘は本気でケレリクトルを犯人と信じているのか、それとも——。

 しかし、今この場では、無力な吟遊詩人としての言葉を返さねばならない。


「このスカーラ、謹んでお受けいたします。下手人が縄につくその瞬間を、どうしてこの目で見逃せましょうか」


 ロクィアは硬い笑みで頷くと、軽く頭を下げた。

 スカーラが恭しいお辞儀を返すと、扉を開けようとしたロクィアが、その動きを止めて振り向いた。


「そうそう。ひとつ気になっていることがありまして」


「何でございましょう。何なりとお尋ねください」


 ロクィアは部屋の隅に立てかけられているリュートを指差した。


「あのリュート、かなり使い込まれたもののように見えますが、どなたかから譲り受けたものなのですか?」


「……ええ、私が昔から使っているもので、大切な相棒でございます」


「なるほど、あなたは見た目よりも経験を積まれているのですね」


「それはもう。——私は生まれながらに詩人でございますので」


 スカーラは大袈裟に身を翻し、リュートを手に取ると、弦をひと掻き鳴らした。


「よろしければ、一曲ご披露いたしましょうか?」


 そのまま歌い出そうとしたスカーラを、ロクィアは手を挙げて遮った。


「いえ、大丈夫です」


 またあとで呼びにきます、と言い残して、ロクィアは今度こそ部屋から立ち去っていく。


 扉が閉まるのを待ち、スカーラは椅子の背に身を預けると、吟遊詩人の顔を解いた。


* * *


「首尾はいかがでございましたか」


 スカーラの部屋を出ると、廊下の先にアンシラが控えていた。


「スカーラさんは、快く引き受けてくれた」


 アンシラは、ロクィアの襟元を軽く直すと、その顔を覗き込むように見た。


「緊張されておりますか、お嬢様」


「……大丈夫。あと少しだわ」


「お嬢様には、いつだってこのアンシラが付いております」


「わかってる。私はケレリクトルさんと話してくる」


「かしこまりました。では、わたくしも手筈どおりに」


 深く一礼して階段へ降りていくアンシラを見送ってから、ロクィアは廊下を奥へと進み、突き当たりの一室——ケレリクトルにあてがわれた部屋の前で足を止めた。


 扉越しに声をかけると、すぐにケレリクトルが扉を開けた。


「ロクィア殿か。何かあったのか?」


「——お話ししたいことがあります」


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