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第27話 波乱の転校生 前編

すいません、昨日は忙しくて更新できませんでした。

代わりに今日はあと1話更新します。


 前回の戦いから数日、碧乃一実を取り巻く環境は大きく変化していた。それでも彼女は今日も学校に通っている。彼女にしてみればその事実こそ信じられないことであった。


「ねえねえ、一実!聞いた?あの話!」


 午前中の休み時間、興奮した様子で愛奈が一実に話しかけてきた。


「うん、聞いた。すごいよね3人って」


 転校生本人たちを除いて一番事情を知っている一実は、何とも言えない声で答えた。彼女はどういうテンションで向き合えばいいのか、正直分からずにいる。


「この微妙な時期に3人って、これってアニメや漫画なら導入だよね!」


 クラスで大きな声を出す愛奈。しかし、周りの同級生たちは気にしていない。すでにクラス全体……否、学校全体がその話題で持ちきりだったからだ。


「だとしたら、私たちは主役じゃないね。残念ながら……」


 何かボロを出すのが怖いので、その話題に触れたくない一実だったが、完全なノータッチというのも不自然なので、適当に受け答えをする。ただ、完全に心にもないことを言っているわけでもなかった。


(ホント……3人が同じ学校に入ってくれるのは嬉しいけど、別の学年じゃ距離感分かんないよ……)


 そう、噂になっている3人の転校生とは他でもない、翼と悠夜と朝陽である。自分のパートナーでもある勇者と、憧れのヒーローコンビが同じ学校に編入してくるとなれば普通なら一大事なはずだが、同じクラスになるどころか学年まで違うとなれば、どのような影響があるのか想像もつかない。

 そのことへの期待と、一緒にいられない残念さが合わさって、一実は微妙な気分になっている。

 翼は中学部の3年生、勇者2人は双子という設定で高等部の2年に編入した。勇者の役目的には同級生として通学した方が合理的な面もありそうだが、見た目がさすがに中学生では違和感があり、今回勇者を学校に通わせてみるのは、パートナーだけではなく他の人間とも人間関係を広げさせることにもある……と一実は聞いている。だから、ある程度の距離が開いていることも、それはそれで良いことのようだった。魔法少女に何かあれば、3秒で駆けつけてもらえるらしいので大丈夫なのだろう。


(朝陽さんの学ラン姿もそうだけど、翼先輩のセーラー姿も見てーよ)


 ヒーローと同じ学校に通えるという幸福と、物理的にも、いつもの自分のキャラ的にもべたべたするわけにはいかないという現実のギャップに、一実はむしろローテンションになってしまっている。


「ねー見た!」


「高等部に転入して来た双子の先輩、エグいイケメンだって!!」


「こっちの3年に来た先輩もスゲー美少女らしい!」


 ついに彼らのビジュアル情報まで伝わってきて、教室中が大盛り上がりだ。教室の外もいつもより騒がしいので、きっと学校中が同じ話をしていることだろう。


「でしょうねぇ……」


 一実はしみじみと言った。これまで特段イケメンというものに興味があるわけではなかったが、今朝、照れ臭そうに「どう?」と訊いてくる悠夜を見て、美しい男を見るというのはここまで人を幸福にするのかと衝撃を受けたのだ。


「え、なにその言い方……転校生について何か知ってるの?」


「うん。愛奈には言っとくね。実は……ちょっとだけやってたバイトの関係で双子とは知り合いなの」


一実は何か勘づいた愛奈に対し、打ち合わせで決めている背景を説明する。


「マジで!?」


「しーっ!」


 一実は大きな声でリアクションする愛奈を諫めて、耳打ちする。一実の被害妄想かもしれないが、高等部の超絶イケメンと顔見知りということが周囲に知られれば、あらぬ疑いや嫉妬によるトラブルなんかを招くかもしれないので、転校生と自分が関係者であると伝える範囲は制限しておきたかった。しかし、距離の近い愛奈には、あらかじめ転校生たちとは顔見知りであることを話しておこうと彼女は決めていた。

 少し前の彼女は、嫉妬されるのでは? などと心配した経験などなかったので、変な気分だった。まるで自分がひどく傲慢になったようで、正直気分はよくなかった。


「知り合ったのも最近だし、ここに編入するってことを知ってたってだけだから、仲がいいってわけじゃないよ」


「へ~、そんな偶然あるんだね……じゃあ、もしかして中学部に来た3年生も知り合いだったり?」


「知り合いの知り合いって感じだけどね。2人の関係者ではあるっぽいよ」


 一実の肌感覚で言えば、高校生の異性より中学生の先輩の方と距離があるというのは不自然かもしれなかった。しかし、それでもやはり星原翼は彼女にとって世界一特別な存在であり、フレンドリーなタイプの朝陽よりも、彼女の中で関わる心理的ハードルが高かった。今話しているのは、そういう一実の心理を反映した設定だった。


「やっぱりそうなんだ……兄妹とか?」


「どうだろう?苗字とか違うし複雑な事情があるっぽいよ。聞きにくい感じの」


「できればお近づきになりたいけど、難しい感じ?」


「転校したてで、ゴタゴタしてるうちはやめといたほうがいいんじゃないかなぁ……」


 一実はそれとなく事情を小出しにしつつも、むやみな詮索はしないようにくぎを刺しておく。愛奈という人間は好奇心旺盛であるものの、ラインは弁えるタイプだと一実は思っていた。なので、ある程度事情を話しても変なことにはならないだろうと踏んでいる。


「やっぱりそっかー……何とかお近づきになれないもんかねぇ……」


「やっぱり、愛奈もイケメンな男の子と仲良くなりたいとか思うんだ」


「う~ん、私の場合色恋っていうか単純な興味だね。……季節外れの転校生、近くにいれば面白いことになりそうじゃん!」


「なんか、愛奈らしいね」


 一実は目をキラキラさせている愛奈の様子をほほえましい気持ちで見ていた。実を言えば、彼女の見立てでは勇者たちと愛奈の相性はいいのではと考えている。さっき言った通り、落ち着いたら悠夜に愛奈を紹介するのもいいかもしれないと思う。

 広がっていく人間関係とともに送る学生生活。それは以前の一実が憧れて、諦めたものだった。変わっていく環境への不安が彼女の中には確かにあったが、それを超えるようなこれからへの期待も膨らんできていた。


 ※


 昼休み、やはり気になった一実は高等部のある校舎の方へ行ってみる。皆考えることは同じようで、見物に来ている生徒が何人もいるので、中学生がそこにいることに疑問を持たれることはない。目立つのが苦手な一実としてはありがたいことだ。


「―――!―――!」


 事前の連絡で教えられた悠夜がいる教室には、外から見物する人だかりができていて、中の様子を見ることすら難しい。集まっているのはやはり女子が多くて、時折黄色い悲鳴も聞こえてくる。

 悠夜は一実に、うまく友達を作れるか心配だと言っていた。それで彼女は、彼がどんな様子で教室で過ごしているのか確認したかった。


「ちょっと、すみません!……!?」


 何とか人込みをかき分けて窓際に滑り込む。


「―――!―――?」


 後ろの方の席に人だかりができている。なんとか人と人の隙間から悠夜の顔を盗み見る。何か詰め寄られるようなことは起こっていないようで、周りの生徒からの質問に答えているようだ。その表情は朗らかで、悪い状態ではなさそうである。


(まあ、ホントに何かあったとしても私じゃ何もできそうにないけど……)


 この学校の治安はいい方であるため、いじめなどは少ないと一実は思っている。それでも何かのボタンのかけ違えで、悠夜たちがトラブルに巻き込まれることがあるかもしれない。さすがに具体的な暴力などが発生したなら先生を呼ぶなりできることもありそうだが、そうでない限り場を収められるようなコミュニケーション能力は彼女にはない。まして相手は高校生である。下の立場にある中学生にとって、そこに飛び込んでいくことは現実的ではなかった。


「…………」


 一実は悠夜との間に壁のようなものを感じて、ネガティブな感情になってしまった。


(なんで不安なんだろう私……)


 自分の相棒と言える存在に友人が増えそうという状況は喜ぶべきなのに、そうでない自分を一実は自戒する。


 ※


 その後一実は朝陽の方にも顔を出す。彼の方は悠夜と同じような状態だった。問題はもう1人の方であった。


「先輩いつもああいうの食べてるの?」


 翼のいる教室も、野次馬の男女比が逆転している以外は似たようなものだった。セーラー服をピシッと着こなして、背筋を伸ばして席に座る姿は一実の想像通りの美しさを見せていたが、それでは打ち消せない不穏さがそこにはあった。

 翼が昼食にしているものは携帯栄養食と紙パック飲料という、育ち盛りな学生が食べるにはあまりに粗末に見えるものだった。

さらに周りの雰囲気も他の2人とは違いがあり、人だかりができたりすることはなく、注目はしつつも距離を置いているという感じだ。3人の中で翼1人だけが浮くというのは一実も想像していなかったので、何やら尋常ではないことが起こっていると不安になった。




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