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第26話 少女の決意

展開が遅くてすいません。


「理由ならあるよ!」


 一実は情熱のままに立ち上がって声を上げた。


「何言ってる!?」


「これは私がやりたいことなの!誰かに頼まれたからじゃなくて、私自身がやりたいって、命を懸けてやりたいって思ってることなの!」


「子供が、命を懸けるなんてことを軽々しく言うな!」


「そうかもしれないけど……本当にしたいってそう強く想ってる!……それは、絶対に嘘じゃないから」


 父と子の間でぶつかる言葉の応酬は、傍から見れば互角の口論をしているようにも見える。しかし実態は、父の方が押されていた。父は昨日一実が見せた意志の強さにも驚かされていたが、わずか一晩のうちに彼女は大きく成長している。強い意志を土台にした、理路整然とした意思の表明……日々の生活に疲労困憊してしまうような普段の娘の姿からは、考えられない姿だった。


「あなた、やっぱりやらせてあげましょう」


「なんだって!?」


 そこで動いたのは母だった。父からしてみれば、子供に関することで彼女が異を唱えることはほとんどなかったので、そのこともまた彼を動揺させてしまう。


「死ぬほど心配なのはそうだけど、今まで毎日のことをやってるだけでへとへとになってたこの子が、これだけやりたいって譲らないことなんだから。親として背中を押してあげるべきだって思うの」


「お前……それでこの子が死んだりしたらどうする……!」


「そんなの、嫌に決まってるじゃない!……でも、この子にそれをさせないようにして生きさせるのも、それはそれで死んでるのと同じだとも思えてしまうの」


 母は、父の指摘にも理路整然と反論する。


「お母さん……」


一実は、母が自分の魔法少女にかける思いを理解してくれていると分かり、とても嬉しくなった。


「魔法少女っていう仕事がいろんな人を助けられるようなすごい仕事で、それが一実の心からの夢だっていうなら私は応援してあげたい」


「…………」


 母の意見を聞いて、ついに父も黙り込んでしまう。


「お父様、私からもお願いします。多くの人たちがお嬢さんを待っているんです。一実さんにしかできないことなんです」


 司令は畳みかけるように、深く頭を下げた。


「……必ず生きて帰るって約束できるか?」


 父は目を閉じたまま、静かに言った。


「……!?」


 条件反射で話そうとした一実だったが、一度それを呑み込んで慎重に言葉を紡ぐ。


「私は死ぬ気なんてないよ、お父さん。そもそも私にそこまで思いきれるような勇気は、ないから……。でも、それ以外の苦しいことがあっても乗り越えて帰ってくるって覚悟はちゃんとあるから、行かせてください!」


 一実は立ち上がって父の方へ頭を下げた。その後、重苦しい沈黙がその部屋を包んだ。一実が胃の中に鉛の塊を抱えているような気分に堪えられなくなったころ、父は口を開いて短く言った。


「分かった……それがお前の人生だと言うなら、やってみるといい……」


「お父さん!」


父が重々しくそう言ったのを聞いて、父以外の全員が表情を明るくする。


「勘違いしないでくれ。私はそのロボット君を認めているわけでも、OIDOとかいう組織を信用しているわけでもないんだ。だがそれでも、普通の子供に追いつくだけで精一杯だった一実が、そこまで進みたいという道なら、親である私たちにも止められないというだけだ」


「それは……!?ん……」


 認めてくれたのはいいが、それでも悠夜のことを否定されたままではいけないと感じた一実は立ち上がろうとしたが、ほかならぬ悠夜がそれを止めた。今はこれで十分だと。


「ただ、どんな時も忘れないでくれ。一実は魔法少女なんかである前に、私たちのたった一人娘なんだ。何よりも大切なんだ。……だから、助けるべき人が目の前にいたとしても、自分の命を最優先にすると約束してくれ」


 熱を帯びた鋭い光が父の目から放たれる。それは一実本人だけではなく、そこにいる全員に向けられたものだった。


「分かった。忘れずに覚えておく……」


「先ほどの言葉を違えるつもりはありません」


「我々OIDOの総力をもって一実さんをサポートして、共に生きて戦いを終わらせるとお約束します」


3人は三様の立場で、その決意と覚悟を示した。


 最大の議題に答えが出たので、司令と悠夜は数日後に迎えに来るから、引っ越しの準備をしておいてくれと碧乃一家に頼み、組織へ帰っていった。


 ※


 大きな方針が決まったからといって、家族で話しておかなければならないことは尽きなかった。


「私を信じてくれてありがとう、お父さん!私、2人が自慢できるような魔法少女になれるように命懸けで頑張るから!」


 人生で初めて、一実自身で踏み出す大きな一歩。その背中を押してくれた父に、彼女はお礼を言った。


「命を懸けるなんてことをするなとさっき言ったばかりだぞ!」


「あ、ご、ごめんなさい!」


 父は早くも前のめりになっている一実を諫めた。


「それに、感謝を伝えるならお母さんの方だ。一実が昨晩飛び出していったとき、追いかけようとしたお父さんをお母さんが止めたんだ。お前が本当にやりたいと思ってることならやらせてあげたいって」


「お母さん……」


 昨晩父が追いかけてこなかったのはそういうことだったのか、と一実は納得する。


「一実はいつも学校とかで出される課題であっぷあっぷしてた……そんなあなたがそれだけやりたいってはっきり言うってことは、あなたの人生で大事なことかもしれないと思ったの」


 父の隣で一実の話を聞いていた母が少し照れながら答えた。


「でも帰ってくるのが絶対っていうのはお父さんと同じだから」


 念には念を押すように母は一実に言い聞かせる。


「分かってるよ、お母さん。でも信じてくれてありがとうね」


 一実は、しつこく言われることに若干煩わしく感じつつも、気遣いとは違う、親からもらった温かい感情に安らぎを感じていた。ただ、それを何と呼べばいいのか、今の彼女には分からなかった。


「一実が選んだ道は、正直お父さんたちの力が少しも届かない場所だ。いつ帰ってきてもいい。ただ……選んだからには意地を張ってみなさい」


「うん!私、頑張る!」


 父の言葉に応える娘の顔はとても輝いていて、それを見た2人にもその選択を信じる勇気が湧いてきたのだった。


 ※


 碧乃一実が新しい魔法少女として輝こうとしているとき、それに対応するような脅威が胎動し始めていた。


 所在地不明 地下空間


「重力使いの魔法少女、ついに現れた、というべきか……」


 その空間を満たすエネルギー。その中を漂う“何者か”が、感慨深いような、あるいは煩わしいことを前にしたような声を出した。現状の文明では到達できないような遥か地下に、その空間は広がっている。その空間に光はなかった。ただ、その空間のすべてはそこにいるものの手足の延長のようなものであり、それには必要ないものであった。


「こちらに現れるとは何の因果か……」


 尖兵としてそこにいるソレにとって、重力使いが目の前に現れるかは未知数だった。


「てっきりあちらに出るとも思っていたが……運が向いてきたと思うか……」


ソレにとって重力使いは因縁のある相手だった。ただ、自身の中に生まれた動揺に驚いてもいた。そんなものはとうに捨てたと思っていたのに……。


「どうあれ無視はできん……あの力は脅威でもあるが、どうしようもなく必要なカギにもなりうる」


ソレは自問自答するようにそう言っていたが、自分の属する大きなものに話しかけるという意味合いもあった。


「本陣が来る前に一度会いに行かねばなるまい……わが仇敵、マーシー……」


 その重苦しい言葉は、その声の主といっしょに空間に溶けていった。


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