↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/55

第25話 親心


「私ね、たまたまあなたが人助けしてるところ見たの」


 今の一実には悠夜の詳しい事情は分からないし、どこまで踏み込んでいいのかも分からなかった。それでも彼女は、今自分が抱いている彼を肯定する想いは隠さず伝えておこうと思った。


「どういうこと?」


「私の友達がね、ネットに上がってる翼さんたちが戦ってるときにあなたが救助活動してる動画を見せてくれたの」


「そ、そんなのがあったの!?それは、その……そういうのを見られてるっていうのは恥ずかしいかも……」


 男の子が部屋に隠した秘密を掘り起こされたとき、こんな顔をするのではないか。一実は恥ずかしがって目を泳がせる悠夜を見てそんなことを思った。


「だからね、私の勇者は、私と出会う前から勇者だったんだなーってそう思ったの。それだけは伝えておきたくて……それじゃ、おやすみ!」


 そう一方的に捲し立てて、一実は悠夜を部屋から押し出した。彼女にも、ずいぶん恥ずかしいことを言っているという自覚はあり、相手の顔を見ていられなくなったのだ。


「あ、うん……おやすみ、なさい……!」


 悠夜は、言われたことに動揺したこともあって、押されるままに部屋から出されてしまう。最低限言っておきたいことも伝えられたので、困惑はしたが、彼としてもそれでよかった。


「……?なんで急にあんなこと……?」


 製造された目的を果たせずに、一実に出会うまでずっと自己肯定感の低い日々を送っていた悠夜にとって、先ほどの彼女の言葉は深く心に刺さるものがあった。なぜ彼女が、自分が言ってほしい類の言葉を急にかけてくれたのか、今の彼には理解できなかった。


(朝陽あたりの入れ知恵か?……でも、そんな話をする余裕はなかったはずだしな……)


 今の悠夜には分からなかった。一実という人間が、彼と同じく役立たずだという劣等感に苛まれていたからこそ、地道な裏方的な人助けも価値ある行動であり、そうしていたとき……一実と出会う前の悠夜という存在も十二分に勇者だったのだと伝えたい、という彼女の想いは。


 ※


「これから、どうなるんだろう?」


 一実は、悠夜と出会ってから幾度も思ったことをまた考える。魔法少女としての活動、その上での学校生活、翼たちとの交流……そして親との話し合い。さまざまな気になる話題はあったが、どれも簡単には答えを出せない問題で、ぐるぐると悩んでいるうちに彼女は考えるのがおっくうになってくる。それが彼女の興奮を落ち着かせて、彼女を眠りにつかせた。やはり彼女に降り積もった疲労というものも本物で、一度眠ってしまえばその眠りはどんどん深くなっていった。


 ※


 翌日、目を覚ました一実は、悠夜といっしょに組織の車で自宅へと送ってもらった。司令が同行するという話だったが、翼と朝陽も同行しようかと言ってくれた。しかし一実は、それを何かズルのように感じて断ることにした。


「一実!……よかった!」


「お母さん……!」


 玄関先で一実は飛び出してきた母に抱きしめられた。なかなか見ることのない母の涙を見て、自分が考えていたより母に心配をかけていたのが分かり、心に抱えていた罪悪感が大きくなった。


「もう会えないかと思った……」


 一拍遅れて外に出てきた父が、母ごと一実を受け止める。両親の腕は震えていて、一実はどうしていいか分からなくなる。


「お嬢さんの協力によって、多くの人命が救われました。組織を代表して感謝申し上げます」


 少し離れたところに並んだ司令と悠夜が一家に向かって頭を下げる。一実の両親は敵を見るような不穏な視線を2人に向けていた。

 その後、とりあえず家の中に通された司令と悠夜は、居間で一実を守るように挟んで座る両親と向き合うことになる。場の雰囲気はひどく張り詰めていた。


「こちらがお嬢さんのパートナー、ノクストスです。勇者は日常になじむため、人間の姿を取ることもできるように造られています。この姿のときの彼は悠夜です」


 司令は隣に座る悠夜を両親に紹介する。絵面だけ見れば、お見合いのような光景だった。当事者2人からすればそういう場とも捉えられるが、一実の両親にしてみればそうとも言えなかった。


(それで悠夜や朝陽さんに人間の姿があるんだ)


 その話を聞いていた一実は1人で納得する。彼女は悠夜と出会うまで勇者に人間の姿があるとは知らなかったが、話を聞けば自然なことだと思えた。勇者の役割には魔法少女の護衛も含まれている。その魔法少女にはプライベートもあるのだから、それに対応する形態があるのも当然だと言えた。


「こいつが一実をそそのかしたわけか、パッと見は人間に見えるが……だからこそ気色悪い……」


「お父さん!悠夜のことをそんな風に言わないで!」


「お前は黙ってなさい!……まったく、すっかり篭絡されてしまったように見える。大事な一人娘をそそのかして……!」


 悠夜への嫌悪感をむき出しにする父に、一実は抗議する。だが父は、男親としての権威を使ってそれを押さえつけた。


「そう取られてもしょうがないことをしたと思います」


 悠夜は神妙な表情を動かさず、父の言葉をただただ受け止めた。


「ですがそのおかげで私たちはたくさんの人命を救うことができました。そうさせてくれた英雄と言っても過言ではない方です」


「安っぽいおべっかはいらない!どうせまた娘を戦場へ出したいと言うんだろう!親として全力で抵抗させてもらう!」


「お父さん……」


 一実は声を荒げる父にそれ以上何か言うことはできなかった。そばにいる母が手を握って言外に彼女を制止していたからだ。


「残念ながらそうなります。鋼魔との戦いは今後も苛烈を極めていくと考えられます。そんな状況の中では、1度ならず2度までも鋼魔を退けて見せたお嬢さんの力がどうしても必要なのです!」


「いつまでだ?」


 司令は一実が戦場に立つことの必要性を熱弁した。しかし父は一歩も引かない。


「その戦いを終わらせられるめどはついているのか?一実はいつ終わるかもしれない戦いのコマとして使われるんじゃないのか?」


「いつ戦いが終わるか、その具体的な予測を示すことはできません。ですが鋼魔の根源……その根城については判明しています。その攻略のめどが立つまでは、対症療法的な戦いが続くと思われます」


 司令の話したことは、一実も知らなかったことだった。鋼魔が別の世界、妖精界からやってきた侵略者……のようなものだとは一実も聞いたことがある。しかし、その戦いに終わりが来るかもしれないというのは初めて聞く話だった。それは、もし自分たちでそれが成せるなら、と一実により強く闘志を燃やさせる話だった。


「話にならない……そんな曖昧な話に娘を委ねるわけにはいかない」


「確かに現実は厳しいものがあります。ですが、一実さんは死にません!僕がこの身に代えても守ります!」


 態度をさらに硬くする父に対して、悠夜が声を上げた。


「ロボットの言うことなんてどうやって信じろって言うんだ!」


 それに対しても父は強く反発する。悠夜が人間と変わらない心を持っていると強く信じる一実は父に反論しようと思った。しかし、そうするまでもなく悠夜が言い返した。


「僕自身を信じられなくても構いません!ただ、僕という存在は人類がその歴史の中で積み上げてきた技術と、それを使って人々の生活を守ろうと日々研鑽する人々の意志を背負っています。それはとても重く大きいものです。そして、それは現実を変えていく力さえも持つものだと考えています。だから僕は、その力のすべてをかけて一実さんを守ります。それを信じていただけませんか?」


 その悠夜の言葉は、心があるロボットというアイデンティティとは別のところにある誇りだった。前園博士や、そのほかの魔法技師や整備士たちのたゆまぬ努力によって生まれる力。一般人でも理解しやすいであろうその力を根拠に、2人を説得しようとしているのだ。

 言葉を切り取れば、娘さんをくださいと頼むような場面だと一実は思った。実際、魔法少女と勇者はそれくらい一蓮托生のものだと考えている。


「たとえそれが事実だとしても、娘を戦場に行かせる理由にはならん」


 まだ拒絶の意志は変わらないが、父の語気が少しおとなしくなるのを一実は感じた。もう一押し、自分の決意を伝える必要がある。一実はそう思った。



評価・感想が作者の1番の燃料です!あたたかい感想をお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。