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第15話 天を望む少女

シンセリーはリメイク前は指揮主体だったので今回動かせてうれしいです。


 関東地方 某所市街地 ※一実に連絡が入る少し前


「ガァァァア゛~~~!!」


 夜の街に響く大気を震わせる咆哮が地に伏せるしかない人々の心を折っていく。


「し、死にたくない……」


 それでも生への執着が強いものは、芋虫のように地を這って、進もうとする。


「グゥゥゥ……!」


 しかし悪鬼は、それを許してはくれなかった。


“ドゴンッ!”


 その鋼魔が大地を踏みしめるたびに、両足に付随している杭状の器官が突き刺さって、アスファルトにひびを入れる。

 全身から棘が生えているようにいびつに膨張した筋肉を持つその身体は血を浴びたように全身が赤黒かった。大まかに見ればそのシルエットは人型であったが、あまりに禍々しい。血走った目の上の額から生える角が見る者を慄かせた。両足にもある杭は腕にもあり、それらにエネルギーを送るための機構であろう機械が脊髄や肘から露出している。機械と肉塊がめちゃめちゃに混じり合ったようなおぞましさがあった。


「あ、ああ……」


 その魔手が、少しも進めていない市民に届こうとした、その時……。


「させるかぁー!!」


“ドゴンッ!……ガジュンッ!!”


 頭上から降りてきた何かが、市民と鋼魔の間に割って入り、その腕を弾き上げた。


「は、ああぁ……!」


降り立った何かが振り上げた大剣が、鋼魔の発する邪悪な力を斬り払ったかのように、そこにいた男を含め、周りの市民は動けるようになった。


「大丈夫かっ!?俺たちが来たからには、もう安心だ!」


「ゆ、勇者!?」


 街灯の明かりが戻ってきて、闇の中に赤い岩のような姿が浮かび上がってくる。


「そうだ、俺たちがこいつを食い止める。だからみんなは全力で逃げてくれ!」


 男が勇者と呼んだ人型の機械は、後方に目をやって言った。その号令を聞いて、周囲で倒れていた市民たちは、勇者の守っている方向に走り出す。


「天巌勇者エクスマインが、お前を止める!」


「グゥゥゥ……!」


 赤く輝く装甲で身を固めた勇者、エクスマインと睨み合う鋼魔は、少し怯んだのか様子をうかがっている。


「はぁ、はぁ、はぁ!」


 その後方で走る市民たちの心には希望が戻り始めていた。ヒーローが来てくれたから、自分たちは大丈夫だと。


「グルルルル……!」


“ギュルルル……!”


 しかし、死地はそう簡単に、人間を逃がしてはくれなかった。獰猛なオオカミの唸り声のようで、バイクのエンジンのエグゾースト音にも聞こえる低い音が響く。そして、逃げる市民たちの前に回り込むように立ちはだかった。


「ひぃいいっ!」


 2体目の鋼魔の全体的なシルエットは、前傾姿勢になった狼男というもので、紅い鬼のような鋼魔よりも細長かった。しかし、その分俊敏そうな弾みのある動きをしていて、四肢にはタイヤのようなものが付いている。まるでバイクと狼が合体したような鋼魔だった。


「ガウウウッ!!」


 狼のような鋼魔が吠える。また市民たちは恐怖で動けなくなってしまう。しかし、希望の方もまだカードを残していた。


“バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!”


 いくつかの細長く黄色い光が、狼型の鋼魔の身体を貫いた。その光は縄のように上方に伸びて、その身体を釘づけにしている。


「私が抑えます!皆さん、そのまま前に進んでください!」


「グゥゥゥ……!」


  上方に伸びた光は、ビルの上に立っている少女が手にするステッキに収束している。そして、その光を受けて輝く黄色のドレスに身を包む魔法少女シンセリー・テルスは、縄を引っ張り上げながら、よく通る声で下に指示を飛ばす。


「シンセリー……!」


「で、でも……」


「くっ……!」


 がちがちに拘束されているとはいえ、怪物のそばを通るのは恐ろしいと、市民たちの足が止まってしまう。しかし、左右はビルが立ち並んでいて、後ろには鬼がいる。


「信じてください!私が皆さんを守ります!だから行って!」


「わ、分かった……!」


「頑張ってシンセリー……!」


 信頼するヒーローの激励を受けて、市民たちは勇気を出して鋼魔の脇を走り抜けていく。


「よし!……まずはそっちに投げる!」


「了解!……はぁあああ!!」


 シンセリーからの合図を受けたエクスマインは、自らの魔力エネルギーを大剣にまとわせて、それを地面に叩きつける。


“バジュンッ!!”


「グォォォッ!!」


 剣から衝撃波が発生し、赤い鋼魔を怯ませる。エクスマインはその隙に後方へと飛び退いた。


「でぇぇぇいっ!!」


 シンセリーは、狼型の鋼魔の後方に跳びながら、その勢いも併せてステッキを振り、拘束したそれを鬼型の方まで投げ飛ばす。


「オガァァァァッ!!」


 2体の鋼魔は衝突して、両方が体勢を崩してしまう。


「おし!うまくいった!」


「まだまだ始まったばっかりだけどね!」


  2人は、横並びになって武器を構える。2対2とはいえ、魔法少女と勇者は連携してこそその真価を発揮する。散開して各個撃破を狙われるより、まとまってくれている方が何かと戦いやすい。


『鋼魔の仮分析が完了しました。以後、赤い個体をオーバグル、灰色の個体をフェレンゼルと呼称します』


 そのタイミングで、シンセリーの方は耳に付けたインカムに、エクスマインの方には内蔵された受信機に通信が入る。日本支部の管制室から、エクスマインと周辺の機器が収集した情報の解析報告が届いたのだ。


「相変わらず、しゃれた名前だな……」


「あって困るもんじゃないよ……」


 2人は武器を構え油断なく警戒しながらも、適度な余裕を持つために言葉を掛け合っている。ちなみに、鋼魔に付けられるコードネームは、日本支部にいる鋼魔専門の解析官の趣味によるものである。


「しかし、まずいぞ……両方とも相当量の人間を食っちまってるし、背中のごつい機械で相当なパワーが出せそうだぞ」


 エクスマインは管制室から送られてきた、詳細な解析データを共有する。


「了解。でもいつも通り……まずは私の攻撃を当ててみんなを分離させないと……」


「まあ、援護するぜ……!」


 鋼魔との戦いには踏むべき手順というものがある。魔法少女の魔法による攻撃には、鋼魔とそれが取り込んだ生物を分離させる効果がある。それは、その他の攻撃では取り込んだ生物にダメージを与えてしまう危険があることを意味する。これは勇者の攻撃も例外ではない。


“グオオオオンッ!!”


「うわっ!」


「くっ……!」


 先に動いたのは、狼型の鋼魔フェレンゼルだった。前足を地につけ、その四肢についている車輪を駆動させて、2人の方へ突撃してくる。2人はやむを得ず飛び退いて身をかわす。生身の人間が轢かれれば、ミンチでは済まなそうな勢いだ。


「あいつ……!私はあっちを狙い撃つ!後ろお願い!」


「分かった」


  Uターンする様子もなく進んでいくフェレンゼルを見て、シンセリーは相手の目的が自分たちへの攻撃ではなく、避難する市民を追いかけて取り込むことだと察する。

 

「そうは……させないから!」


 シンセリーは無駄のない動きで、ステッキを弓に変形させ、矢をつがえる動作を通して魔力を高密度に固めた矢を形成し、弓を引く。魔法の糸に引っ張られしなる弓が、放たれた矢を飛ばす。魔法少女は、ステッキを自分だけの特別な武器に変形させることができる。変形した状態ならば、魔法少女1人1人が持つ特殊かつ強力な魔法を行使することができる。


“バシュッ!……グィンッ!”


 シンセリーの放った黄色い光の矢は、その進行方向に形成された魔法陣を通過した瞬間、急加速する。

 シンセリーの持つ能力は【インフレーション】自らや他者の魔法に干渉し、そのエネルギーや量などを倍加することができる能力である。今回彼女はその能力を使って、自らの攻撃魔法の飛ぶ速度を倍加したのだ。

 魔法少女は変身するだけで常人とは比べ物にならないほど身体能力が向上する。それは視覚等の感覚器官も例外ではなく、その狙いは正確無比だ。暗い夜の状況でも、放たれた光の矢は正確に敵へ突き刺さる。


“ズガァァァン!!”


「ギャアアァァアッス!!」


 凄まじい速度で飛んだ魔法に貫かれ、フェレンゼルは体勢を崩してしまう。しかしその走行を完全に止めるには至らない。


「逃がさないから!」


 刺さった矢から、先ほどと同じように魔法の縄を伸ばす。しかしさっきとは違ってその縄そのもので拘束するわけではない。


「このっ!」


“ブファッ!”


 シンセリーは、縄を引くのと一緒に空中へ飛び上がった。そして、広がったドレスのスカートを触媒に、魔力を放出する。そのエネルギー放出の反作用で、加速をかけさらに魔法の縄を巻き上げることで一気に敵に接近する。

 その速度は、体勢を崩して遅くなったフェレンゼルを容易に追い抜くほどだった。


「はあっ……!」


 弓の両端に魔力を流して、それを両刃剣に見立てる。そしてフェレンゼルとすれ違う刹那回転斬りの要領で、2回の斬撃を食らわせて見せる。


「ギギャアアアァァァ!!」


  前脚がちぎれ飛び、フェレンゼルは地面を転がる形で停止する。

 それのさらに前方へ、魔力操作と体を回転させる動きでもってシンセリーは道路に着地する。脚と機動力を失った今のフェレンゼルは、シンセリーにとってまな板の上の鯉に等しかった。


 ※


「ガオオオォォォッ!!」


“グウゥゥゥンッ!……ガギンッ!”


 オーバグルの振りかざした拳を、エクスマインは大剣を斬り上げる形でぶつけその威力を相殺する。


「お前も赤いパワータイプか……正面からの力比べなら負けるわけにはいかないな……」


 弓を用いた遠距離攻撃を主体に戦うシンセリーの前に盾として立つために、エクスマインは近距離主体のパワー寄り万能タイプに調整されている。その膂力は、たとえ同じパワータイプの鋼魔と向き合うとしても、劣ることはないほどの力だ。

 戦い方が似ているという意味では、考えることがシンプルで戦いやすいとエクスマインは考えていた。


「ガァァァアアアッ!」


  それは相手も同じようで、自慢のパンチをいなされてもひるまずに、次の拳を繰り出していく。


“ググググ……!”


 しかし今度は普通のパンチではない、肘から手の甲にかけて走るパイルのような機構が、その内側に収められた杭を引き込んで、力をためていた。


「パイルバンカーか?しゃれたもん付けてんじゃねーか……!」


 さすがに受け止めるのはまずいと判断したエクスマインは、杭が届く直前にその腕の側面を叩くことで、逸らすことにする。


“バガンッ!”


「…………」


 直撃こそ避けられたが、彼は少し焦りを覚える。その杭は、拳が地面と衝突するときに解放され、2つ目のインパクトとしてアスファルトに突き刺さる。それは単なる破壊で終わらずに地震のように周囲を揺らし、エクスマインの足元そのものを破壊する。


「やっぱ食らうのはまずいよな……」


 エクスマインは足と各部のスラスターで高く飛び上がる。


「ウガアアァァァッ!」


“バゴンッ!!”


 オーバグルは敵が空中に上がったことをチャンスと見たのか、雄叫びといっしょに今度は両足のバンカーを作動させ、それを利用してジャンプする。


「そう使うか……!」


 怪物の筋肉に加えて金属質の機械組織、その凶悪な質量は体当たりだけで大きな破壊力を生むだろう。


「空中なら動きにくいとでも思ったか!甘いな!」


 エクスマインがとった選択は回避ではなく迎撃だった。


「メテオ・フィスト!」


 彼は空いている左腕を前に掲げて叫ぶ。同時にその肘先……前腕部の付け根からフレアが噴出し、腕が飛んでいく。ノクストスにも同様の武装がある。いわゆるロケットパンチだった。しかし、ノクストスのそれとは違って完全に独立して飛ぶ。しかも、今回は拳ではなく平手だった。



“ギュイィィン!”


 その鋼鉄の腕は空気と衝突して甲高い音を立てながら敵へと飛んでいく。それは頭部など急所ではなく、相手の腕へ飛んでいく。


“ガシュンッ!!……ボボボボォォォッ!”


 そしてオーバグルの左腕に組み付いて、さらにスラスターを吹かす。


「グオオオォッ!」


 それなりの質量のあるものが引っ付いてきて、なおかつそれが力を掛けてくるのだからやられた方はバランスを崩すしかない。それこそがエクスマインの狙いだった。


「はあぁぁぁっ!」


“ヴィシュウゥゥゥン!”


 オーバグルとのすれ違いざま、エクスマインは右腕の大剣に魔力の刃をまとわせて斬りつける。高温の高密度エネルギーをぶつけたに等しいその攻撃は、背中から左腕にかけての機械器官を切り落としてみせる。


「グガァァァアアア……」


“ズドン!……ガガガッ!”


 オーバグルは単純な傷と、高熱にさらされた痛みで悶えながら、道路に倒れ伏すことになる。


「へっ、効いただろ?このまま下ごしらえを続けさせてもらうぜ」


 着地したエクスマインは射出した左腕を再装着し、両手で大剣を構え直す。

 魔法少女以外が鋼魔にダメージを与えてしまうと、吸収した生物にもダメージが入ってしまう場合がある。しかし外皮や硬い機械器官はその限りではない。この地球に現れる鋼魔は、多くの場合文明の機械などを取り込んで武器にした機械器官を持つ。それを破壊して魔法少女が戦いやすくするのが勇者の役割の1つと言える。

 シンセリーとエクスマインの両方が最初に思い描いた通りに戦いを進められている。このまま攻撃を畳みかけて勝負を決めようとしたが、そう簡単にはいかなかった。


『2人とも注意して!3体目の反応確認!』


 焦った声の通信が2人に飛び込んでくる。


「シンセリー!下だ!」


 センサーが何らかの高エネルギーを感知したエクスマインが、さらに警戒を呼びかけるのと同時に、それは起こった。


“バキバキバキバキッ!……バリバリ!バシュシュッ!!”


「なっ……きゃーー!」


「……シンセリーッ!?……っぐ!?」


 シンセリーとエクスマインの足元の地面に唐突にひびが入り、そこから放電現象が起こる。そういう対策もされているエクスマインにとっては大した問題にならないが、魔法で身体が強化されているとはいえ生身であるシンセリーには脅威的な攻撃になってしまう。


「今行く!……なに!?」


 オーバグルを一旦無視してシンセリーのもとに行こうとしたエクスマインの脚部に、ひび割れから伸びた触手のような何かが巻き付いてその移動を阻む。

 焦るエクスマインだったが、一方のシンセリーはやられ続けているわけではなく、ステッキにある機能を使って周囲に球状のバリアを張って、敵の攻撃から逃れた。そのまま近くのビルの上まで駆け上がって様子を見る。


「ふーっ……何が起こっているの?」


 異変に困惑する自分を抑えて、シンセリーは周囲を観察する。すると、放電の影響を受けていなそうな場所の街灯も消えていることに気づいた。


『気をつけろ!……周囲の電気エネルギーが何かに吸われて……通信も……効かな……』


「……!?管制室!?……応答してください!管制室!?」


 管制室が何かを伝えてきたが、途中で妨害電波を受けたかのようにノイズが入り、声が聞こえなくなる。


「電気を吸収してる?」


 街灯が消えている現象とも合致する情報だった。シンセリーは何とか異変の原因を見つけようと思考を巡らせた。しかし、そうするまでもなく元凶は姿を現した。


“バキィィンッ!!”


「ギジャァァアア!!」


 ちょうどシンセリーとエクスマインの中間地点、地面の下から青白い稲妻の光をまとって巨大な黒い怪物が出現する。巨大なヘビのような、竜のような姿をしているそれは、のちにガルナーガと名付けられる鋼魔だった。


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