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番外編 第1話

5話直後の補完です。本編もいつもの時間に投稿します。

※ノコ・イタチを撃破して一実が気絶した直後


「お姉ちゃん!?」


「一実……!?」


 男の子とノクストスはすぐに彼女に駆け寄る。


「…………」


 ノクストスは間を置かずにスキャン機能で一実の体を検査した。


「お姉ちゃん、大丈夫なの?」


「ああ、初めてのことだらけで疲れて眠っちゃっただけみたいだ。死んじゃったりする心配はなさそう」


 心配そうに聞いてくる男の子の不安をほぐそうと、優しい言葉で答えながら、ノクストスは携帯している医療テープで一実の足に応急措置を施した。


「君の方はケガとかない?」


「うん!お姉ちゃんとノクストスのおかげ!」


 今度はノクストスからの質問に、男の子は元気よく答えた。早くも勇者としての名前を覚えてもらえたようで、彼は胸が熱くなった。


(きっと、この子の信頼が一実の心に勇気を与えたんだな……)


 あの状況で、男の子は逃げるよりも一実のそばにいる方が安全だと判断した。それは己の保身のための、本能的な判断だったのかもしれない。それでも、彼女が危機的な状況の中で男の子を助けようとした勇気と優しさが、信頼として返ってきた結果であることも事実だろう。

 それが、一実の中で小さな矜持となって、彼女の足を支える意志の力に変わったのだと、ノクストスは理解した。普通、他者の心を完全に理解することはできない。しかし、精神リンクで直接つながった魔法少女と勇者は、生の心に触れ合うことができる。そうして知った善意の連鎖。小さなものとはいえ、それが目の前で起こっていたことを知って、嬉しくなった。


「今すぐ君の家族を探したいと思うところだけど、先に周りの倒れている人を助けなきゃいけないんだ。少しだけ、待っててくれる?」


 ノクストスは、男の子と視線を合わせて訊く。


「うん、大丈夫?ボクが手伝えることある?」


 男の子は、自分を優先するように言うどころか協力を申し出てきた。ノクストスはそれを聞いて、また胸がいっぱいになる気がした。

 この子は、一実のことだけではなく自分のことも、自分を見捨てない存在だと信頼してくれているのだと思ったから……。


「ありがとう……君には勇者に負けない勇気があるな……少しの間、お姉ちゃんのことを見守っていてくれないか?」


「うん、分かった!」


 通じ合った男同士の信頼が生まれて、男の子は頼もしい顔つきで請け合ってくれた。


「頼んだぞ!」


 ノクストスは、その少年の心意気に応えたいという衝動に突き動かされて、倒れている人の方へ飛び出していった。


(かなり侵食が進んでいるな……)


 勇者にとって、人命救助も大事な使命の一部である。しかし、さすがに本格的な治療ができるような機能まではない。それでも、救護班が来るまで、できることをするのが勇者という存在であった。

 ノクストスは、鋼魔から分離された人々を楽な場所、楽な体勢に寝かせ替えながら、その人たちの様子を分析していく。

 鋼魔による生命体の吸収は、分かりやすく言えば食事である。なので、取り込んだ食糧を消化していく過程が存在する。その期間の間ならば、魔法少女が救出できるのである。とはいえ、生きたままでの分離ができたとしても、侵食の影響が残ることがある。その深刻さの度合いは、救出までにかかった時間によって左右される。

 状態がひどい人は、もう少し救出が遅れていれば、完全に取り込まれて分離不可能な状態に陥っていそうに見えた。


(僕の選択は間違っていなかった……いや、一実のおかげか……)


 ノクストスは、後ろめたさから逃げるために自己正当化をしようとしたところで、それはやめようと自戒する。そして、おおかた彼ができる処置が終わったところで……。


“ゴーーッ!”


 空の向こうから、少し高い飛行機のエンジン音のようなものが聞こえてくる。


「な、何っ!?」


「……!?」


 少年が不安そうな声を上げるのを聞いて、ノクストスは彼のそばに跳んでいく。


「大丈夫……僕の仲間が来たんだ」


 ノクストスは、少年が振動に怯えずに済むように、背中を優しく撫でて落ち着かせる。


「あ……」


 男の子には、空の彼方から来る存在が、母に読み聞かせてもらった絵本で見た、箒に乗った魔女のように見えた。


“……スッ!”


 接近してきた物体はいつの間にか2つの人型のシルエットに変わりながら、その大きさからは考えられないほど静かに降り立ち、2人の方へ歩いてくる。


「あれって……!」


 近づいてきたものは確かに男の子にはとても大きく見えたが、彼が怯えることはなかった。それが本当にノクストスの仲間だと一目で分かったからだ。


「遅かったね……エクスマイン……シンセリー……」


 神話の人物のように舞い降りたのは、一実が待ち焦がれていたシンセリーと、エクスマインだった。魔法少女の金の長髪と、陽の光を浴びた勇者の黄色いパーツが輝いていて、それが男の子にはとても神秘的に見えた。

 最初に口を開いたのはエクスマインだった。

 

「大変なことをしてくれたな……」


「うん……」


「……?」


 勇者同士の問答は、勝利を称えるようなものとは違う不穏さを孕んでいた。もちろん、聞いていた男の子にその理由は理解できなかったが。


「そこに倒れてる子がそうなの?容体は?大丈夫なの?」


 そう聞いたのはシンセリーだった。ノクストスの落ち着きようから深刻な状況ではないと分かるが、間違っても死なせるわけはいかない。彼女が考えているのはそんなことだった。


「そうだよ。命に別状はないけど、怪我してる。できるだけ優先して搬送してほしい」


「了解」


  ノクストスの回答にエクスマインは簡潔に応じた。彼はそれ以上しゃべらないが、体内の機能で担当部署に連絡を入れている。ノクストス本人がそれをしないのは、今の彼の組織の中での権限が凍結されているからだった。


「いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずお前には……」


「僕の扱いは分かってる!でもその前にやらないといけないことがあるんだ」


 ノクストスがそんなふうにエクスマインの言葉を遮ったのは、自分の名誉のためか、それとも男の子の夢を守るためだったか。


「約束したんだ。この子の親を探すって……」


「そう。あなた、名前は?私に教えてほしいな」


  子供のためというのがあってか、シンセリーがすぐに歩み出て男の子に質問する。男の子は少し緊張した様子で、ノクストスを見た。彼が頷くのを見た男の子は、ひらがなで話すように、しかし、しっかりと自分の名前をシンセリーに伝えた。


「分かった。探してみるから、もう少し待ってね」


 シンセリーは優しく笑った後、耳のインカムをいじって何やらぶつぶつとつぶやいた。避難所のデータベースと照合しているのだ。


「…………」


「…………」


  少しの間、一同の周囲に重苦しい沈黙が流れる。空気を察したのか、男の子も何も言わなかった。


「――くん、聞いて!お母さんが近くの避難所で待ってるって!」


「ほんとに!?」


 男の子の安堵と興奮で上ずった声を聞いて、勇者2人のまとう雰囲気も少し緩んだ。


「うん、近くの避難所だから私が一緒に行ってあげる」


「いいの!?」


 日本のアイドルと言って差し支えないお姉さんに案内してもらえると知り、その子のテンションは青天井で上がっていった。


「……?ノクストスはついてきてくれないの?」


 シンセリーに手を引かれ、目的地に向かおうとした少年は思い出したかのように振り返って訊いた。約束のことを考えても、そう聞くことは自然なことだろう。


「……ついていきたいんだけど、僕は忍者の勇者でね。あんまり人目につくところには行けないんだ。中途半端な感じになってごめん」


 もし、人間なら泣いているかもしれないと本人が思うほど、ノクストスの心は重く沈んだ。


「それじゃあしょうがないね。隠れるのが忍者だもん!」


 しかし男の子はむしろそういうのがかっこいいと思ってくれたようで、笑って了承してくれた。それを聞いたノクストスは、人間でなくても泣いてしまうかもしれないと思うほど感無量になった。


「ノクストス!たすけてくれて、ありがとう!」


 男の子は最後に大声で叫び、両手を振った。ノクストスは頭部のマスクパーツの中に隠していた笑顔のパーツを見せながら、ただただ手を振り返した。

 ※


「…………」


「…………何も言わないの?」


 シンセリーが気を遣ったことで、2人になった勇者たちはしばらく黙り込んでいたが、それが疑問になったノクストスがその沈黙を破った。


「言いたいことがいろいろあって何から言えばいいのか、分かんないんだよ」


 エクスマインは頭部に手を当て、答える。


「人間みたいなこと言うね」


「からかうなよ……今はそういうときじゃない」


「そうかもね」


 勇者がそんな会話をしているころ、最初の医療班がそこに到着し、一実を含めた被害者の搬送をし始めるなか、2人はそんなやり取りをする。

 やがて、ようやく言いたいことが絞り込めたのか、エクスマインは少しためらいがちになりながら聞いた。


「あの子は、お前の魔法少女になってくれそうなのか?」


「……それを決めるのは僕じゃなくて彼女だよ。選ばれなかったら、僕はスクラップ……でしょ?」


「…………」


 エクスマインは、ノクストスの発言に何と返すべきか分からなかった。今まさに言及された未来を恐れているから。


「何でそんなに落ち着いてるんだよ……?」


 ノクストスは、エクスマインにとって家族、あるいは兄弟だと言える存在だ。エクスマインは組織の流れとは別に、兄弟が廃棄される未来が来るかもしれないと不安になっていた。


「僕が勇者になるとしても、そうでなかったとしても、それが彼女の選択なら僕はそれでいい……」


 ノクストスは、涼しい声色で言ってみせる。


「一瞬でも、夢が見られたからね……なりたいものに、なる夢を」


「…………」


 エクスマインは本当に何と言っていいか分からず、黙り込んでしまった。

 その後、ノクストスはエクスマインによってOIDOの施設に連行された。



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