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第16話 獣の集い

前回含めシンセリーの固有魔法をインフレーション→インフレアに変更しております。申し訳ございません。


「3体目の、鋼魔……」


 シンセリーはビルの屋上から新たに出現した鋼魔を警戒する。他の2体が5mほどの大きさであるのに対し、地面から身体の一部を出しているだけの鋼魔ガルナーガの全体像は見えない。


「電線が集まってる」


 シンセリーはステッキを敵にかざして、望遠魔法を使いガルナーガを詳しく観察してみる。その黒い肌は、細い線が束になることで形成されているのが見て取れた。それはおそらく電線を吸収したもので、先ほどの放電の主も奴だと考えて間違いないだろう。黄色く光る一対の眼の後方には、電気エネルギーの貯蔵場所と考えられる機械器官が確認できる。青白い光を漏らすそれには、相当量の電気をため込んでいそうである。


『気を付けろ、シンセリー! あいつ、人間は取り込んでないみたいだけど、代わりに相当な電気を取り込んでるみたいだ』


 剣で触手を切り裂いて同じくビルの上に離脱したエクスマインからシンセリーに警告が入る。


『エネルギー反応が根っこみたいに周囲に伸びてる。足元に気を付けてくれ!』


 精神リンクを通して体感的に情報を共有されているシンセリーは、その危機感を共有する。人間を取り込んでいないのはやりやすくなる情報だったが、だからといって、ため込んだ電気エネルギーを軽く見ることはできない。さらに、頭を出している場所を中心に、周囲に電線を伸ばしているようだ。下手すれば、今2人がいる一帯そのものが敵のテリトリーになっている可能性もある。そう考えた彼女は、どう動くべきか悩んでしまった。

 その隙が、2人をさらなる危機に陥れることになってしまう。


“バリバリバリバリッ!!”


「グオオオォォォッ!!」


「ガルルルルルッ!!」


「再生してる……!?」


 最初にガルナーガが触手を伸ばしたのは2人ではなかった。同胞である2体にその触手の幾本かを突き刺して、送電を始めた。

 それは攻撃ではなく、うめき声を上げた2体のダメージが見る見るうちに回復していき、破壊された機械器官まで再生していく。


「まずい!」


 2人の焦りの声がシンクロして響く。


「ミーティア・クアードバースト!」


 シンセリーはひときわ太い光の矢を形成し、同時に呪文を叫んで魔法陣を生成する。このまま完全に回復される前に、フェレンゼルを消し飛ばさなければならない。放たれた光の矢は、先ほどと同じように魔法陣を通して【インフレア】の効果を受けた。しかし今回はその数が倍加して、矢の雨となって敵へ飛んでいく。


「うおぉぉぉ!」


 一方、遠距離攻撃にはリスクが伴ってしまうエクスマインは、敵との距離を縮め、ガルナーガの触手を切り裂くことを狙う。


“バリバリバシュンッ!!”


「くっ……っ!」


「づっ……!?」


 シンセリーの光の矢と、突撃したエクスマインが、高出力の放電によって形成されたバリアに弾かれたのはほぼ同時だった。


「どんな出力……?……エクスマイン、大丈夫?」


 ガルナーガの持つ放電能力が、単なるエネルギーの塊である魔法の矢はともかく、質量のある物体であるエクスマインまで弾いた。その事実から相当危険であると、シンセリーは分析する。


『ああ、なんとかな……まともに食らい続ければやばそうだ』


 心配するシンセリーの問いかけに、エクスマインは体勢を整えながら返答する。


「分かった。いったん合流しよう。それで火力を集中させて……」


「グォォオオオ!!」


「ギャオオオォォォン!!」


 シンセリーの言葉を阻むように、ガルナーガのものよりも低い咆哮が響いて共鳴する。

 

「しまった……!」


 悪いことは重なるもので、オーバグルとフェレンゼルは、ただ回復しただけではなかった。


“バキバキ!ゴキゴキ!”


 聞き心地の悪い音を立てて、2体の身体が肥大化する。生身の部分と一緒に機械器官も大型化、複雑化して、機能が強化されているようだった。


「まずい……エクスマイン、ホントに急いで……!?ああっ!?」


“バリバリバリバリッ!!……バシュン!”


 シンセリーは本能的な恐怖を感じて、勇者に近くにいてほしいと願ったが、一手遅かった。大きな質量がビルの上まで駆け上がってきた衝撃によって、彼女は弾き飛ばされてしまう。反射で辛うじて直撃を避けたシンセリーだったが、これまでとは違う敵の戦闘力に戦慄してしまう。


(今の、フェレンゼル……!?)


 そう、突撃してきたのはさらなるスピードを手にしたフェレンゼルだった。奴が上り切ったビルの壁面からは、割れたガラスの破片が光のシャワーのようになって地面へ落ちていっていた。

シンセリーは夜の闇の中から、こちらを見下ろしてくる敵の双眸の光を確かに見た。


「くっ……なんの!?」


 シンセリーは、敵が多少速くなるぐらいなんだ、と気を張って、落下しながら敵を狙い撃とうとする。逃げている奴を射抜いたときと同じように、インフレーションで弾速を上げて矢を放つ。


“バッ……!”


「なっ……!?」


 命中したと思った刹那、フェレンゼルが残像だけを残して掻き消えた。


「今のを躱された!?……でもっ!?」


 その程度で手札が切れるほど、シンセリーは未熟ではない。身をひるがえして再び矢をつがえる。


“バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!”


 シンセリーは直接目視せずとも、魔力探知によってフェレンゼルが飛び移ったビルをつかめている。そこを中心にして矢を連射して、それをさらにインフレーションでクラッカーのように分裂放射させ、矢の包囲網を作るのだ。


“ガシュ!ガシュ!ガシュ!ガシュ!”


 リズムを刻むような一定の間隔で、敵がスパイク代わりに使っている爪が、コンクリートを抉っている音が聞こえる。影は矢の隙間を縫うように飛び回って、シンセリーに迫る。


「くっ……うぅ……!」


 肉薄したフェレンゼルは、肥大化した前脚でシンセリーを殴りつけようとした。シンセリーは寸でのところで魔力障壁を張って、直撃は避けた。


「くぅ~~~っ!?」


 しかし、直撃こそしていないとはいえ、その衝撃を相殺できたわけではなく、シンセリーはゴム毬のように地面へ叩き落とされてしまう。


「ああっ!?……グゥ……!?」


 球体のバリアに包まれたシンセリーは、アスファルトを抉りながらワンバウンドして、なんとか停止した。バリアで墜落の衝撃は軽減できたが、彼女は少なくないダメージを受けてしまう。

 そんな状態でもノータイムで迎撃態勢を取れたのは、彼女の実力ゆえだろう。

 地面から彼女を囲むように触手が伸びてきて、電撃の檻を形成する。シンセリーはそれを、何とか横に倒れた状態でステッキを構え、防ぐのだった。


“バリバリバシュシュッ!!”


「このままじゃ……」


 シンセリーへの直接的なダメージはない。……しかし、魔力消費は積み重なっていき、着実に追い詰められていく。

 

 ※


 一方、エクスマインの方も似たようなものだった。


「くっ……ふんっ……!」


“バンッ!……ガインッ!!”


 フェレンゼルと同じくパワーアップして復活したオーバグルに押し返されている。悪鬼の膂力もパイルバンカーの衝撃も増大しており、攻撃に用いた魔力を纏った大剣も、今は敵の攻撃をいなすために使っている。さらに放電による援護……ダメージこそないが負荷はある。今すぐパートナーのもとに行きたいのにできない。もどかしさに精神的にも追い詰められていく。

 日本の誇る最強コンビはキャリアの中でも屈指の危機に陥っていた。


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