第八話 「信用処刑」
地下空間全体が赤黒く染まった。
監査術式。
アルヴェイン家系固有監査権限。
それは通常の契約解析とは違う。
“世界そのものへ査定を下す力”。
巨大契約陣へ、
無数の監査文字が走る。
《契約構造解析開始》
《信用流動照合》
《虚偽保証検出》
市場全体が震えた。
男の表情が初めて変わる。
「馬鹿な……
直接市場へ監査権限を通しただと?」
セリスですら目を見開いていた。
「強制監査接続……」
「国家級術式へ単独侵入……?」
普通ではあり得ない。
市場そのものが超巨大契約体。
国家監査官複数名でようやく解析可能な規模だ。
それを、
レオンは一人で掌握し始めている。
視界の中で、
全てが繋がる。
偽装資産。
架空担保。
空売り契約。
国家間粉飾。
そして、
市場崩壊によって利益を得る者達。
巨大な金融死体の群れ。
(……酷いな)
レオンの瞳が細まる。
ここは市場ではない。
国家を喰らう処刑場だ。
男が低く笑う。
「見えるか?」
「これが世界の本質だ」
男は腕を広げた。
「国家は信用で人民を縛る」
「財閥は契約で世界を支配する」
「監査局はその管理者だ」
契約光が暴走する。
市場全域の信用率がさらに低下。
《市場信用率二十三%》
《崩壊まで残り一時間四十分》
ルークが叫ぶ。
「もう限界だ!」
「市場が耐えきれない!」
だが、
レオンは静かだった。
契約線の中心。
そこにある。
全崩壊の根源。
一つの中核契約。
「見つけた」
男の動きが止まる。
「……何?」
レオンの瞳には、
巨大契約核が映っていた。
市場全体へ寄生する、
黒い契約。
その名を、
彼は読み上げる。
「国家保証偽装契約群《黒翼市場協定》」
空気が凍った。
男の気配が変わる。
「なぜそれを……」
「契約は嘘をつけない」
レオンは一歩前へ出る。
「お前達は最初から市場を救う気がない」
「連邦を破綻させ、
世界物流を支配するつもりだった」
沈黙。
それが答えだった。
セリスが静かに呟く。
「……信用戦争」
国家間金融テロ。
物流国家を崩壊させ、
市場支配権を奪う。
戦争そのものだ。
男はゆっくり笑う。
「だから何だ」
「世界は既に腐っている」
「なら壊して作り直せばいい」
「数千万死ぬぞ」
「必要な犠牲だ」
その瞬間。
レオンの瞳から感情が消えた。
完全な監査官の目。
静かな声が地下空間へ響く。
「監査結果を通達する」
巨大監査術式が展開。
市場全体へ赤黒い光が走る。
男の顔色が変わる。
「待て……!」
レオンは淡々と告げた。
「《黒翼市場協定》は、
国家信用法第九条に違反」
「全契約を無効化する」
次の瞬間。
世界が揺れた。
黒い契約線が一斉に崩壊。
市場を覆っていた巨大契約陣が、
音を立てて砕け散る。
「なっ――!?」
男が絶叫する。
「俺達の契約が……!」
《虚偽保証契約消滅》
《不正信用流動停止》
《市場信用率回復開始》
暴走が止まった。
崩壊していた契約網が、
正常化を始める。
ルークが呆然と呟く。
「止まった……」
「国家崩壊が……」
セリスは黙ってレオンを見ていた。
そして理解する。
これがアルヴェイン。
かつて世界を監査した一族。
国家そのものを裁定する者達。
男が膝をつく。
「馬鹿な……」
「こんなこと、
個人監査官にできるはずが……」
レオンは男を見下ろす。
冷たい瞳。
そこに怒りはない。
あるのは、
ただ査定だけ。
「信用解放戦線執行官」
「市場破壊、
国家信用侵害、
大量破綻誘導罪を確認」
レオンは静かに宣告する。
「資産、
契約、
信用保証を差し押さえる」
男の顔が絶望に染まった。
その瞬間。
男の周囲を覆っていた契約光が、
完全に消滅する。
信用剥奪。
社会的死刑。
地下空間に、
静かな声が響く。
「――信用処刑を執行する」




