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『信用処刑人レオン』 ― 帝国監査局第零課 ―  作者: 神代零


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第七話 「市場の地下」

 北海中央市場地下最深部。


 秘密清算区画。


 そこは銀行ではなかった。


 巨大地下神殿。


 白銀色の円形空間。


 天井一面に契約術式が刻まれ、

 無数の金属柱が市場全体を支えている。


 都市そのものの心臓部。


 ここで世界の資金が動き、

 国家の信用が売買されていた。


 そして今。


 その中心に、

 巨大な黒色契約陣が展開している。


 市場全域へ伸びる、

 崩壊契約網。


 誰かが意図的に、

 国家信用を食い潰していた。


「……異常だな」


 地下通路を歩きながら、

 レオンが低く呟く。


 周囲には誰もいない。


 いや、

 正確には逃げたのだ。


 第零課の強制監査が始まった瞬間、

 裏市場関係者は全員消えた。


 残っているのは、

 崩壊寸前の契約だけ。


 セリスが静かに周囲を警戒する。


「この区画全体が術式化されています」


「市場そのものを兵器化してる」


 ルークが端末を見ながら青ざめた。


「信じられない……

 これ全部、国家級金融術式だ」


 床に刻まれた契約文字。


 柱を流れる信用光。


 全てが連動している。


 もし暴走すれば、

 北海連邦だけでは済まない。


 世界物流が止まる。


 その時。


 レオンの足が止まった。


「……いる」


 空間奥。


 巨大契約陣の中心。


 一人の男が立っていた。


 黒衣。


 長い外套。


 銀色の手袋。


 顔には仮面。


 だが異様なのは、

 その周囲だった。


 契約線が歪んでいる。


 普通ではない。


 まるで、

 世界そのものが男を拒絶している。


「ようこそ」


 男が静かに言った。


「帝国監査局第零課」


 低い声。


 だが、

 妙に落ち着いている。


 セリスが前へ出る。


「国家信用破壊罪、

 及び市場操作罪で拘束します」


 男は笑った。


「拘束?」


「まだ理解していないらしい」


 ゆっくりと腕を広げる。


 次の瞬間。


 地下空間全体が揺れた。


 巨大契約陣が脈動する。


《市場信用率低下》

《崩壊まで残り三時間》


 ルークが叫ぶ。


「駄目だ!

 術式が加速してる!」


 男はレオンを見る。


「君なら分かるはずだ」


「この世界は、

 既に腐り切っている」


 レオンは黙っていた。


 だが視えている。


 男の契約構造。


 異常だ。


 普通の監査官ではない。


 もっと根本的に、

 信用そのものを操作している。


「お前は何者だ」


 レオンが問う。


 男は少しだけ沈黙し、

 やがて答えた。


「かつて監査官だった者だ」


 空気が変わる。


「……何?」


 セリスの目が鋭くなる。


 男は続ける。


「帝国監査局元第一級監査官」


「現・信用解放戦線執行官」


 ルークの顔から血の気が引いた。


「信用解放戦線……!」


 帝国内でも最悪とされる反監査組織。


 国家信用制度そのものを破壊しようとする集団。


 市場破壊。

 金融テロ。

 国家崩壊。


 その全てへ関与していると噂される。


 男はレオンを見つめる。


「君も気付いているだろう?」


「監査局は世界を守ってなどいない」


「信用で支配しているだけだ」


 地下空間が震える。


 市場術式がさらに加速。


 レオンの視界には、

 無数の崩壊線が映っていた。


 このままでは本当に国家が死ぬ。


 だが。


 男の言葉にも、

 僅かな真実が混じっている。


 監査局は絶対権力だ。


 国家すら支配可能な組織。


 その事実は変わらない。


「レオン!」


 ルークが叫ぶ。


「もう時間がない!」


 崩壊予測残り二時間三十分。


 市場信用率二十八%。


 限界だ。


 男が静かに言う。


「選べ」


「腐った世界を延命するか」


「全て壊すか」


 沈黙。


 レオンはゆっくり目を閉じた。


 契約が視える。


 世界が視える。


 腐敗も。


 嘘も。


 そして、

 崩壊の先にある地獄も。


 もし今ここで市場を壊せば、

 数千万が死ぬ。


 国家が滅ぶ。


 それは監査ではない。


 ただの破壊だ。


 レオンは静かに目を開く。


「違うな」


 男の視線が止まる。


「腐敗は監査する」


「だが、

 世界そのものは壊させない」


 レオンは前へ出た。


 胸元の銀印が輝く。


 赤黒い契約光が、

 地下空間を覆い始めた。


 男が初めて警戒の色を見せる。


「……アルヴェイン」


 レオンは静かに告げる。


「監査を開始する」


 その瞬間。


 巨大契約陣全体へ、

 監査術式が展開された。

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