第二十七話 「中央永久信用炉」
中央監査塔最深部。
封鎖区画《奈落層》。
そこへ続く超大型昇降路を、
第零課は高速降下していた。
轟音。
警報。
塔全体が激しく揺れている。
《中央永久信用炉》
《暴走進行率72%》
ルークが端末を握る手を震わせた。
「本当に帝国ごと吹き飛ぶぞ……」
セリスが冷静に答える。
「信用炉が暴走すれば、
帝国契約網は全断裂します」
「国家信用消滅」
「市場崩壊」
「文明停止です」
ルークが顔を引きつらせる。
「それを“文明停止”で済ませるな……」
だが。
誰も笑わない。
事実だからだ。
レオンは静かに前を見ていた。
父の最後の言葉が、
まだ頭に残っている。
『最後まで記録しろ』
その意味を、
今なら少し理解できた。
監査とは。
壊すことじゃない。
世界の真実を、
最後まで残すこと。
その時。
昇降路が止まった。
《奈落層到達》
重い扉が開く。
次の瞬間。
全員が息を呑んだ。
巨大地下空間。
都市一つ分の広さ。
その中央に。
太陽のような巨大黒色球体が浮かんでいた。
無数の契約線。
国家信用。
市場データ。
世界中から流れ込む膨大な契約光。
中央永久信用炉。
帝国を動かしていた、
真の心臓部。
「……狂ってる」
ルークが呟く。
「国家信用を燃料にしてるのか」
ヴァルディスが重く頷いた。
「黒月恐慌後、
帝国は世界管理維持のためにこれを作った」
「信用を永久循環させる炉だ」
カインが冷笑する。
「そして世界を食い潰した」
巨大信用炉が脈動する。
不安定だ。
既に制御限界へ近い。
レオンの信用視が警告を発する。
(……暴走してる)
《エレボス》支配構造が切除されたことで、
炉そのものが均衡を失っている。
つまり。
世界を食い続けないと維持できない。
最初から破綻した構造だった。
その時だった。
巨大信用炉前。
黒い人影が現れる。
アウグスト・レイヴン。
第一財閥当主。
だが。
その姿はもう人間ではなかった。
全身が契約文字へ侵食され、
半透明化している。
《エレボス》へ溶け込みかけていた。
「……来たか」
低い声。
だが、
もう人間の響きではない。
レオンは静かに見据える。
「終わりだ」
アウグストは笑った。
「終わり?」
「違う」
巨大信用炉が脈動する。
「ここから始まる」
黒い契約光が空間全域へ広がる。
《中央永久信用炉》
《最終統合モード》
ルークが絶叫した。
「何やってる!?」
アウグストは両腕を広げる。
「国家は不完全だ」
「人間も不完全だ」
「だから統合する」
「全てを信用へ」
狂気だった。
完全に。
セリスが監査銃を向ける。
「アウグスト・レイヴン」
「世界信用法違反により拘束します」
だが。
男は笑うだけ。
「もう遅い」
次の瞬間。
巨大信用炉が開いた。
その内部。
最深部に。
一つの記録書が浮かんでいる。
《アルヴェイン最終監査原本》
レオンの目が止まる。
父が残した、
本当の最後の記録。
アウグストが低く笑った。
「欲しいか」
「なら見せてやる」
その瞬間。
巨大信用炉全体へ、
黒い契約津波が解き放たれた。
《世界統合契約》
《強制執行開始》
空間が崩壊する。
国家信用。
個人契約。
全てが炉へ吸い込まれていく。
世界そのものが、
一つへ統合されようとしていた。
だが。
レオンだけは動かなかった。
静かに。
巨大信用炉を見つめている。
そして。
父が残した記録書を。




