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『信用処刑人レオン』 ― 帝国監査局第零課 ―  作者: 神代零


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第二十八話 「世界監査」

 黒い契約津波が、

 奈落層全域を呑み込んでいく。


《世界統合契約》

《強制執行開始》


 国家信用。


 市場契約。


 個人認証。


 全てが中央永久信用炉へ吸い込まれていた。


 ルークが膝をつく。


「まずい……

 世界中の契約が引っ張られてる……!」


 セリスも障壁を展開しながら叫ぶ。


「このままでは全国家信用が統合されます!」


 つまり。


 世界が消える。


 国家も。


 自由市場も。


 人間の選択すら。


 全て《エレボス》へ飲み込まれる。


 アウグスト・レイヴンは、

 巨大信用炉前で笑っていた。


 全身が契約光へ溶けながら。


「これが完成形だ」


「争いも、

 恐慌も、

 破産も無い」


「完全なる信用秩序」


 レオンは静かに男を見る。


「違うな」


 アウグストの笑みが止まる。


「それは秩序じゃない」


 レオンの瞳に、

 世界中の契約線が映る。


「ただの支配だ」


 その瞬間。


 レオンは監査印を掲げた。


 赤黒い監査光が、

 奈落層全域へ広がる。


 巨大信用炉が激しく反応した。


《世界監査権限を確認》


《管理者権限:レオン・アルヴェイン》


 空間が震える。


 ヴァルディスが息を呑んだ。


「……まさか」


 レオンは静かに宣言する。


「世界監査を開始する」


 次の瞬間。


 世界中の空が赤黒く染まった。


 帝国。


 北海連邦。


 自由都市同盟。


 東方聖導院。


 全国家上空へ、

 巨大監査文字が浮かび上がる。


《全世界契約監査実施中》


 人々が空を見上げる。


 市場が止まる。


 国家中枢が凍り付く。


 そして。


 隠されていた全てが、

 暴かれ始めた。


《第一財閥》

《恐慌誘導契約を確認》


《灰鉄諸侯領》

《軍事市場操作を確認》


《自由都市同盟》

《違法信用売買を確認》


《帝国監査局》

《国家監査記録改竄を確認》


 世界同時暴露。


 国家機密。


 財閥裏帳簿。


 戦争契約。


 全て。


 全てが公開されていく。


 ルークが呆然と呟く。


「世界中へ……

 全部流してる……」


 セリスの目も揺れていた。


「これが……

 世界監査」


 レオンは静かに巨大信用炉を見つめる。


 隠された腐敗。


 偽装信用。


 世界規模粉飾。


 全てを、

 記録する。


 それが監査だ。


 アウグストが怒号を上げる。


「止めろ!!」


「人間は真実に耐えられない!」


 レオンは冷たく見返した。


「だから隠して支配したのか」


「必要だった!」


 アウグストの身体が崩れていく。


「人間は自由なら必ず腐る!」


「戦争を起こす!」


「恐慌を繰り返す!」


「だから管理するしかない!!」


 その叫びは、

 ある意味で正しかった。


 実際、

 人類は腐敗を繰り返してきた。


 だが。


 レオンは静かに答える。


「だから監査する」


 沈黙。


「管理じゃない」


「支配でもない」


 赤黒い監査光が、

 世界中へ広がっていく。


「腐敗したなら暴く」


「間違ったなら記録する」


「それだけだ」


 その瞬間。


 巨大信用炉中央。


 《アルヴェイン最終監査原本》が開いた。


 膨大な監査記録。


 父達が最後に残した真実。


 そこへ、

 最後の一文が記されていた。


《世界は不完全である》


《故に、

 監査は必要となる》


 レオンの瞳が静かに細まる。


 父達は、

 最後まで人間を諦めなかった。


 アウグストが絶叫する。


「綺麗事だ!!」


「人間はまた腐る!!」


 レオンは否定しない。


「ああ」


 静かな肯定。


「だから終わらない」


 その瞬間。


 世界監査術式が、

 中央永久信用炉へ完全接続した。


《世界統合契約》

《監査対象へ指定》


 アウグストの顔から、

 初めて絶望が消えた。


 代わりに浮かんだのは。


 恐怖だった。

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