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『信用処刑人レオン』 ― 帝国監査局第零課 ―  作者: 神代零


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第二十五話 「父の監査」

 中央監査塔ネメシスが悲鳴を上げていた。


 《執行者》暴走。


 国家級信用破壊機構の制御崩壊。


《殲滅モード移行》


《帝国中央契約圏へ崩壊波及予測》


 世界信用図の中心部が、

 黒く染まり始めている。


 ルークが叫んだ。


「止めろ!!

 このままだと帝国中央市場が消える!」


 だが。


 《執行者》は止まらない。


 黒い契約光が暴走し、

 空間そのものを侵食していく。


 壁面崩壊。


 契約断裂。


 監査塔全体が軋む。


 そして。


 その中心で。


 レオンだけが静かに立っていた。


 赤黒い監査光が、

 ゆっくり周囲へ広がっていく。


 その瞳は、

 《執行者》だけを見ていた。


 仮面奥。


 崩壊した契約文字のさらに深部。


 そこに。


 確かに残っている。


 父の人格残滓。


『……レオン』


 ノイズ混じりの声。


 苦しそうな。


 消えかけた声。


 レオンの拳が僅かに震える。


「親父」


 その瞬間。


 《執行者》が咆哮するように、

 巨大処刑術式を展開した。


《最終信用消去を実行》


 黒い契約陣が、

 監査塔全域を覆う。


 ヴァルディスが顔色を変える。


「全員退避しろ!!」


「間に合わない!」


 セリスが叫ぶ。


 崩壊波動が既に始まっている。


 国家級契約破壊。


 帝国中央そのものが消し飛ぶ。


 だが。


 レオンは動かない。


 静かに監査印を掲げる。


 その時だった。


 《執行者》内部から、

 再び父の声が響く。


『……監査官は』


 黒い契約光が乱れる。


『壊すだけじゃ……ない』


 レオンの目が見開かれる。


『正しく……記録しろ……』


 次の瞬間。


 《執行者》中核が露出した。


 巨大な黒色契約核。


 その中心には。


 一冊の記録書が埋め込まれていた。


《アルヴェイン最終監査記録》


 カインが叫ぶ。


「レオン!!

 中核を書き換えろ!」


「書き換える?」


「《執行者》は監査記録で動いてる!」


「つまり、

 監査結果を書き換えれば止まる!」


 ルークが息を呑む。


「監査兵器そのものを……

 再監査するのか」


 レオンは静かに前へ出る。


 暴走する黒い契約嵐。


 普通なら近付くだけで消滅する。


 だが。


 赤黒い監査光が、

 レオンを守るように展開されていた。


 《執行者》が苦しむように震える。


『……早く……』


 父の声。


 レオンは中核記録へ手を伸ばす。


 触れた瞬間。


 膨大な情報が流れ込んだ。


 黒月恐慌。


 アルヴェイン抹消。


 帝国裏切り。


 そして。


 最後の監査。


 父達は《エレボス》を完全破壊できた。


 だが。


 それをやれば世界が死ぬ。


 だから。


 止めた。


 自分達ごと封印した。


「……そうだったのか」


 レオンの瞳が揺れる。


 父達は敗北したんじゃない。


 世界を守るために、

 消えた。


 その瞬間。


 《執行者》暴走率が急上昇する。


《中核崩壊率95%》


《帝国中央消滅まで残り90秒》


 ルークが絶叫した。


「レオン!!」


 時間がない。


 レオンは静かに記録書を開く。


 そして。


 監査印を押し当てた。


 赤黒い光が、

 一気に中核へ流れ込む。


 世界が静まった。


 レオンは静かに宣言する。


「監査結果を修正する」


 《執行者》全体が停止する。


「《ALV-01》は不適合兵器ではない」


 黒い契約光が揺れる。


「世界保全監査記録として再承認」


 その瞬間。


 暴走していた処刑術式が、

 一斉に消滅した。


 静寂。


 世界が止まる。


 そして。


 《執行者》の仮面へ、

 ゆっくり亀裂が走った。


 崩れ落ちる白い仮面。


 その奥から現れた顔を見て、

 レオンの呼吸が止まる。


 そこには。


 父、

 ユリウス・アルヴェインの面影が残っていた。

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