第二十四話 「ALV-01」
黒い契約光が、
レオンへ一直線に迫る。
《執行者》による信用消去術式。
存在そのものを世界契約から抹消する、
絶対処刑。
通常なら回避不能。
だが。
レオンの目には視えていた。
術式構造。
契約流動。
そして。
《執行者》中核に刻まれた識別番号。
《ALV-01》
次の瞬間。
レオンは監査印を振るう。
赤黒い監査光。
黒い処刑術式と正面衝突した。
轟音。
会議室全域が吹き飛ぶ。
壁面崩壊。
契約嵐。
監査塔そのものが激しく揺れる。
ルークが吹き飛ばされながら叫ぶ。
「レオン!!」
煙が晴れる。
そこに。
レオンは立っていた。
だが、
完全ではない。
監査外套が裂け、
左腕の契約線が焼けている。
セリスが血を流しながら立ち上がった。
「……無事ですか」
「問題ない」
レオンは静かに答える。
だが。
その視線は《執行者》から外れていない。
視えてしまった。
中核契約。
この兵器の正体。
「……そういうことか」
カインが目を細める。
「気付いたか」
レオンは低く呟く。
「《執行者》は、
アルヴェイン監査術式を基盤にしてる」
沈黙。
ヴァルディスが苦しげに目を閉じた。
それが答えだった。
「黒月恐慌後」
老人が重く言う。
「帝国はアルヴェイン残留記録を回収した」
「その一部を兵器転用した」
ルークが絶句する。
「……狂ってる」
「だから《ALV-01》」
レオンの声は冷たかった。
「アルヴェイン第一号監査兵器」
《執行者》がゆっくり前進する。
仮面奥の赤光が揺れる。
《監査権限照合》
《対象:レオン・アルヴェイン》
《適合率98.7%》
その瞬間。
レオンの信用視が激しく反応した。
違和感。
この契約構造。
どこか、
見覚えがある。
そして。
最深部へ触れた瞬間。
レオンの呼吸が止まる。
「……嘘だろ」
中核記録。
そこへ刻まれていた名前。
《ユリウス・アルヴェイン》
世界が止まった。
ルークが聞き返す。
「誰だそれ」
レオンは答えられない。
代わりに、
カインが静かに言った。
「お前の父親だ」
空気が凍る。
セリスですら目を見開いた。
「……まさか」
カインは《執行者》を見つめる。
「黒月恐慌後、
帝国はユリウスの監査記録を回収した」
「そして人格残滓ごと、
兵器へ封入した」
ルークが顔を歪める。
「そんなの……」
「人間じゃない」
レオンの拳が静かに震える。
父は死んだ。
だが。
帝国は死後すら利用した。
監査官として。
兵器として。
《執行者》が再び処刑術式を展開する。
《アルヴェイン監査権限を確認》
《同系統存在を排除します》
だが。
その瞬間。
《執行者》の動きが止まった。
赤い視線が揺れる。
ノイズ。
契約文字が乱れる。
そして。
初めて。
機械音声ではない声が漏れた。
『……レ……オン……』
室内が凍り付く。
レオンの目が見開かれる。
『逃げ……ろ……』
《執行者》が頭を押さえるように揺れる。
《人格残滓異常》
《処理エラー》
カインが叫んだ。
「今だ!」
「中核監査を叩き込め!」
レオンは動かなかった。
ただ。
《執行者》を見ている。
仮面奥。
崩壊しかけた契約の奥に。
確かに、
父の痕跡があった。
『監査……するな……』
苦しそうな声。
『《エレボス》は……
まだ終わってない……』
次の瞬間。
《執行者》全身から、
暴走した黒い契約光が噴き出した。
《中核崩壊》
《強制殲滅モード移行》
ヴァルディスの顔色が変わる。
「不味い!」
「自爆する気だ!!」
監査塔全体が激震する。
国家級信用破壊兵器。
もしここで暴走すれば。
帝国中央そのものが吹き飛ぶ。
レオンは静かに監査印を握る。
そして。
初めて、
感情を露わにした。
「……ふざけるな」
赤黒い監査光が、
一気に解放された。




