第十九話 「差し押さえ」
その宣告と同時に。
世界中の市場が停止した。
《緊急執行》
《七大財閥資産差し押さえ処理開始》
《国家契約凍結》
赤黒い監査文字が、
帝国全金融網へ浮かび上がる。
銀行。
証券市場。
軍事企業。
物流機構。
全ての契約システムが、
一斉に強制停止した。
帝国中央市場。
巨大電光掲示板が、
次々と黒く染まっていく。
《取引停止》
《信用保証停止》
《財閥契約凍結》
群衆が悲鳴を上げた。
「財閥口座が消えた!?」
「市場が止まってる!」
「帝国軍契約まで凍結されたぞ!」
混乱。
暴動。
恐慌。
だが。
それ以上に広がっていたのは、
“恐怖”だった。
七大財閥。
絶対不可侵。
世界支配者。
その全てへ。
たった一人の監査官が、
差し押さえを執行している。
帝国中央信用議会。
議場全域で警報が狂ったように鳴り響く。
《契約資産消失》
《中央財閥信用率低下》
《《エレボス》接続不安定》
「止めろォォ!!」
財閥代表の一人が絶叫する。
だが、
止まらない。
レオンの監査術式が、
全契約網へ侵食していく。
架空資産。
粉飾保証。
違法信用供給。
それら全てが、
監査によって“無効”へ変換されていく。
「馬鹿な……!」
アウグスト・レイヴンの顔が歪む。
「我々の信用が……!」
崩れていく。
財閥達の身体を覆っていた、
黒い契約光。
《エレボス》接続そのものが。
レオンは静かに言った。
「お前達の支配は、
偽装信用で成立していた」
「だから崩れる」
冷たい声。
絶対的な査定。
その瞬間。
《エレボス》契約核へ、
巨大な亀裂が走った。
世界が震える。
《世界信用率低下》
《統一契約維持限界》
ルークが叫ぶ。
「不味い!
《エレボス》そのものが崩れ始めてる!」
セリスの顔色も悪い。
「世界契約網が連鎖停止する……!」
だが。
レオンは動かない。
視えている。
《エレボス》の中心。
そこに存在する、
最後の契約。
世界全体を拘束する、
最終支配構造。
《人類統一信用契約》
レオンの瞳が細まる。
「……そこまでやってたか」
国家だけではない。
人間そのもの。
全人類を、
一つの信用へ統合する契約。
アウグストが笑う。
狂気じみた笑みだった。
「理解したか」
「世界は自由では維持できない」
「だから管理する」
「完全な信用によってな!」
次の瞬間。
財閥代表達の身体が、
黒い契約光へ変質し始めた。
肉体崩壊。
信用融合。
《エレボス》へ接続されていく。
ルークが絶叫する。
「人間をやめてる……!」
カインが低く言う。
「《エレボス》中核端末だ」
「連中はもう、
人間じゃない」
会議室が激しく揺れる。
世界信用図が崩壊寸前まで点滅する。
あと少しで、
世界全市場が死ぬ。
その時。
レオンの脳裏へ、
一つの記憶が蘇る。
幼い頃。
父の声。
『監査とは、
壊すためだけにあるんじゃない』
『正しく繋ぎ直すためにある』
レオンの目が静かに開く。
その瞳には、
世界中の契約線が映っていた。
壊すのは簡単だ。
だが。
それでは何も残らない。
「……なるほど」
レオンは小さく呟く。
カインが気付く。
「何をする気だ」
レオンは静かに前へ出る。
巨大な《エレボス》契約核。
その中心へ、
監査印を向ける。
赤黒い監査光が、
今度は優しく広がっていく。
セリスが目を見開いた。
「まさか……」
レオンは静かに宣言する。
「《エレボス》の完全停止は行わない」
全員が凍る。
アウグストが笑う。
「なら我々の勝ちだ」
「違う」
レオンの声が響いた。
「腐敗部分だけを切除する」
その瞬間。
世界契約網全体へ、
新たな監査術式が展開された。




