第二十話 「再構築」
世界契約網が、
静かに変化を始めた。
赤黒い監査光。
それは先程までの“破壊”とは違う。
優しい。
だが、
圧倒的だった。
レオンの監査術式が、
《エレボス》全体へ浸透していく。
《契約構造再解析》
《腐敗契約切除開始》
《世界信用網再構築処理》
世界中の市場が震えた。
帝国中央市場。
北海連邦。
自由都市同盟。
各国の契約線が、
一斉に組み替えられていく。
ルークが息を呑む。
「……組み直してる」
「世界契約網そのものを」
セリスですら、
言葉を失っていた。
国家級ではない。
文明級。
レオンは今、
世界そのものを監査している。
アウグスト・レイヴンが絶叫する。
「止めろ!!」
「《エレボス》は我々の管理下だ!」
「違う」
レオンは冷たく答えた。
「お前達は寄生していただけだ」
次の瞬間。
巨大監査術式が、
七大財閥契約網を完全切断した。
《違法支配契約切除完了》
《統一信用継承契約を無効化》
アウグスト達の身体を覆っていた、
黒い契約光が崩壊する。
「な……!」
「馬鹿な……!」
財閥代表達が膝をつく。
《エレボス》接続喪失。
支配権消滅。
その瞬間だった。
世界信用図全体へ、
新たな光が走る。
黒ではない。
銀色。
穏やかな契約光。
《分散信用管理構造を確認》
《国家独立契約網を再接続》
ルークが目を見開く。
「国家信用が……
戻ってる」
東方聖導院。
灰鉄諸侯領。
自由都市同盟。
崩壊寸前だった国家達へ、
再び信用が流れ始める。
レオンは静かに契約核を見つめていた。
《エレボス》そのものは必要だ。
世界市場維持には、
巨大信用管理機構が要る。
だが。
支配してはならない。
国家を喰らってはならない。
だから。
監査する。
「《エレボス》へ通達する」
レオンの声が、
世界全域へ響いた。
「統一信用管理権限を剥奪」
「各国家信用を独立再承認」
その瞬間。
《エレボス》契約核が静かに変化する。
黒い契約光が消えていく。
まるで。
長い悪夢から目覚めるように。
ヴァルディスが呆然と呟く。
「……成功したのか」
カインは小さく笑った。
「いや」
「歴史が変わった」
その言葉通りだった。
世界契約網そのものが、
今書き換わっている。
帝国による一極支配は崩壊。
七大財閥支配終了。
《エレボス》中立化。
世界金融構造が、
根本から変わった。
その時。
世界中の空へ、
巨大な監査文字が浮かび上がる。
《世界信用管理機構》
《再監査完了》
《新世界信用条約を承認》
人々が空を見上げる。
市場関係者達。
国家首脳。
監査官達。
誰もが理解していた。
今。
世界秩序が変わった。
そして。
その中心にいたのは。
一人の監査官。
信用処刑人レオン。
レオンは静かに目を閉じる。
視界に映る契約線。
もう、
黒く濁ってはいない。
完全ではない。
だが。
少なくとも。
世界はもう、
誰か一人の支配物ではない。
セリスが静かに近付く。
「……終わりましたね」
レオンは小さく首を振る。
「いや」
その瞳は、
さらに遠くを見ていた。
「監査に終わりはない」
カインが苦笑する。
「本当にアルヴェインだな」
その時。
《エレボス》契約核中央へ、
一つの新しい権限表示が浮かび上がる。
《世界信用管理機構》
《新規管理者承認》
全員が振り返る。
そこに記されていた名前を見て、
ルークが息を呑んだ。
《レオン・アルヴェイン》
静寂。
世界そのものが、
新しい監査者を選んだ。




