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『信用処刑人レオン』 ― 帝国監査局第零課 ―  作者: 神代零


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第十話 「抹消記録」

 監査艦アストレア艦内。


 空気は凍っていた。


 誰も口を開かない。


 空中投影には、

 帝国中央市場の警戒映像が映し出されている。


 燃え上がる信用庁舎。


 封鎖された街区。


 黒煙。


 そして、

 帝国監査局直属部隊の残骸。


「……あり得ない」


 ルークが呟く。


「中央信用保管庫だぞ」


 帝国最高機密施設。


 国家信用原本。


 財閥契約。


 監査記録。


 世界そのものの“真実”が保管されている場所。


 そこが襲撃された。


 しかも。


 盗まれたのは、

 アルヴェイン監査家抹消記録。


 レオンは黙って投影を見つめていた。


 胸の奥が冷えていく。


 父の死。


 一族の滅亡。


 全てが帝国によるものだった。


 そして今、

 その記録を誰かが奪った。


「……誰が」


 レオンが低く呟く。


 セリスが答える。


「現時点では不明です」


「ですが」


 彼女の瞳が細まる。


「内部犯行の可能性が高い」


 艦内が静まり返る。


 帝国監査局内部。


 それは最悪の可能性だった。


「侵入経路は?」


 レオンが聞く。


 ルークが端末を操作する。


「正規監査権限が使われています」


「監査封印も解除済み」


「外部からじゃ無理だ」


 つまり。


 内部協力者がいる。


 それも、

 高位監査官クラス。


 セリスが静かに言う。


「中央は現在、

 完全封鎖状態へ移行しました」


「全監査官へ緊急帰還命令」


 その時。


 艦橋全域へ、

 低い警報音が響いた。


《帝国監査局総監直通通信》


 空中映像が展開される。


 ヴァルディス総監。


 だが、

 いつもの冷静さがない。


 背後では、

 監査官達が慌ただしく動いている。


「第零課へ命令する」


 老人の声は重かった。


「直ちに中央へ帰還せよ」


「事態は、

 想定以上に深刻だ」


 レオンが前へ出る。


「何が起きているんですか」


 ヴァルディスは数秒沈黙した。


 そして。


「……抹消記録だけではない」


 老人の瞳が鋭くなる。


「帝国最高監査権限の一部が盗まれた」


 空気が止まった。


 ルークの顔から血の気が引く。


「嘘だろ……」


 最高監査権限。


 それは国家監査許可。


 信用停止命令。


 国家級差し押さえ。


 世界を裁定する権限そのもの。


 もし悪用されれば。


 国家が滅ぶ。


「犯人は?」


 セリスが問う。


 ヴァルディスは静かに答えた。


「まだ分からん」


「だが一つだけ確実だ」


 老人の視線が、

 真っ直ぐレオンへ向く。


「相手は、

 アルヴェインを知っている」


 レオンの瞳が細まる。


「なぜそう思う」


「盗まれた記録の順番だ」


 空中投影が切り替わる。


 記録番号一覧。


 その中で、

 赤く消去されている項目があった。


《アルヴェイン監査家》

《黒月恐慌》

《中央監査議会特別決議》


 レオンの呼吸が止まる。


 全て、

 一族滅亡へ関係する記録。


 偶然じゃない。


 誰かが、

 真実を探している。


 あるいは。


 隠そうとしている。


「レオン」


 ヴァルディスが低く言う。


「お前の一族は、

 四十年前に“ある監査”を実施した」


「その結果、

 帝国はアルヴェインを消した」


 艦内が静まり返る。


 レオンは拳を握る。


「何を監査した」


 ヴァルディスは答えない。


 代わりに。


 老人は重く告げた。


「中央へ来い」


「全て話す」


 通信が切れる。


 沈黙。


 誰も動けない。


 ルークが乾いた声を漏らす。


「……これ、

 国家級どころじゃないぞ」


「帝国中枢案件だ」


 セリスも珍しく険しい顔をしている。


 だが。


 レオンだけは、

 静かだった。


 頭の中で、

 全てが繋がり始めている。


 黒月恐慌。


 アルヴェイン抹消。


 信用解放戦線。


 盗まれた最高監査権限。


 そして。


 帝国そのもの。


 この世界は、

 想像以上に腐っている。


 レオンはゆっくり目を閉じた。


 脳裏に、

 父の言葉が蘇る。


『監査とは裁きだ』


『だが、

 真実を視る者は必ず狙われる』


 レオンは静かに目を開く。


 その瞳には、

 赤黒い契約線が映っていた。


 帝国中心部。


 そこに巨大な歪みがある。


 国家そのものを蝕む、

 巨大な嘘。


 そして彼は理解する。


 自分が今、

 本当に監査すべき相手を。


 レオンは低く呟いた。


「……次の監査対象は」


 誰にも聞こえないほど小さく。


「帝国中央だ」

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