番外編② ハイヒールを眺めます
約束の週末、流美は待ち合わせ場所に向かうと、すでに貴一が待っていた。
長身で姿勢の良い貴一は、待ち合わせ場所でも目立っていた。
通りすがりの女子高生が、ちらちら見ている。
「すいません、お待たせしました」
「そんなに待ってないから、大丈夫だよ」
社内でも、隠れた人気の貴一との待ち合わせに、流美はドキドキしていた。
(私服初めて見た……かっこいいなー)
「じゃあ、行こうか」
「はい……。よろしくお願いします」
*****
百貨店の靴屋は、明るい照明の中、ハイヒールやサンダル、ローファーが美しく陳列されている。
「どれがいいかな〜」
流美は、ハイヒールを眺めた。
「黒……かなぁ〜。合わせやすそうだし……」
ふと、視界にボルドーのハイヒールが入る。
ビジューが品よく配置され、どこか目を引く美しさがあった。
「でも、黒かなぁ〜」
店員を呼び、黒のハイヒールを試着させてもらう。
スニーカーで買い物に来てしまった流美は、靴下だ。
「よろしかったら、こちらをお使いください」
店員に試着用の靴下丈のストッキングを渡され、流美は少しだけ恥ずかしくなった。
(お呼ばれ用の靴買いに来たのに……靴下だよ〜)
店員に案内されたソファーに座り、靴に足を入れる、
黒のハイヒールは、ラメが入っており、パーティーにも合うデザインだ。
立ち上がると、少しだけ視界が高くなる。
形もきれいで、悪くはない。
(んー……これで良いのかな〜)
ちらりと貴一を見ると、ボルドーのハイヒールを見ていた。
ふと視線が絡む。
貴一はボルドーのハイヒールを手に取り、店員に流美に合うサイズを出してもらうよう声をかけた。
「……あっ……それ……」
「うん……似合いそうだなって、思って」
貴一は、穏やかに微笑んだ。
展示されていたものが、流美の足にちょうど合うサイズだった。
店員からサイズはこのままで問題ないと伝えられると、貴一は、ソファーに座る流美の前で自然な仕草で膝をついた。
(え……近い……)
そのまま、流美が履いていた黒のパンプスを脱がせ、ボルドーのパンプスに履き替えさせる。
優しい手が、そっと流美の足に触れる。
流美は、自分の顔が熱くなるのを感じた。
(ちょっ……なんで店員さんまで赤くなってるの?!)
両足を履き終えると、貴一は流美の手を取り、そっと立たせる。
そのまま、鏡の前まで寄り添うように歩いた。
貴一の顔が、いつもより近い。
鏡の中の貴一は、流美の全身と足元に視線を落とし、微笑むと、ゆっくりと流美に向き直る。
「うん、綺麗だ」
(くっ靴のことだよねっ……そうですよね、店員さん!)
流美は、呆けた顔をしながら店員に視線を向けると、店員は両頬に手を置きながら、顔を赤らめている。
(だから、なんで、店員さんが赤くなってるんだよ)
「あ、あの……似合ってますかね?」
「あぁ……よく似合ってる。綺麗だ」
(ぐはっ……二回言ったよ、この人。なに?なんなの?そんなこと言われたら……本気で好きになっちゃうじゃん……)
流美は、熱を感じる顔を隠すように下をむくと、きらきらと輝くビジューとボルドーが視界に入る。
何故だか、すーっと前を向きたくなった。
流美は、意を決して貴一を見上げると、少しだけ意地悪そうな表情をする。
「そんな事、言ったら……好きになっちゃいますよ?」
これで意趣返しになっただろうと、流美はイタズラっぽく笑う。
「いいよ、そのつもりで今日来たし」
貴一は、くすりと笑い返した。
(ぐはっ……。倍返しされた)
店員はもう、恋愛ドラマを観る目で流美たちを見ている。
(あっ……これ、店員さん達の休憩室のネタにされるやつだ……)
「参りました……降参です」
流美が手を挙げると、その手を貴一はそっと包む。
「そのハイヒール、よく似合ってるけど、黒の方が良かった?」
「えっーと、黒の方が服に合わせやすいかなって……」
「じゃあ、ボルドーのハイヒールに合う服を見に行こう」
そう言って貴一は、えくぼを作って笑った。
「「これ下さい」」
二人同時に、店員に声をかけると、店員は涙目で小さく拍手しながら、うんうんと頷いている。
(この店員さん、絶対ドラマ好きでしょ)
ボルドーのハイヒールに合わせた、ワンピースとバックを貴一に選んでもらう。
どれもセンスが良く、流美は自分がどこかの貴族の令嬢にでもなった気分がした。
帰宅後ーー。
流美は、ビジューのついたボルドーのハイヒールを何度も眺めた。
前まで感じていた、寂しさや虚しさは、もうどこにも無かった。
『その魂が迷わぬように
我らがその魂を見守ろう』
白銀の髪のビスクドールが祝福するように微笑んでいた。
*****
結婚式に参列した流美と貴一は、寄り添いながら聖良の幸せそうな笑顔に手を振った。
「聖良さーん!いつまでもお幸せに〜」
流美の足元のビジューが太陽の光を浴びて、きらきらと輝いていた。
番外編 流美の物語……完。
聖良=セイラ。
きっと、あの世界でもセイラが、心から幸せに笑う日が来ると信じています。
貴一は、ルキの気配を感じますね




