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【完結】崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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番外編13 カフェのお茶会

「ルシナ、来週の休息日、予定空いているかしら?」


カフェの店内を清掃していると、セイラに呼び止められた。


「空いてますけど、どうかしたんですか?」


「それがね、ジャスミンが来るのよ」


「わー!それは素敵ですね」


「えぇ。それで休息日に、このカフェでお茶会でもどうかなって……。お茶会といっても普段と変わらず、ただおしゃべりしながらコーヒーや紅茶を飲むだけなんだけど。みんなも誘って……どうかしら?」


「もちろん、参加させてください!みんなにはもう声をかけたんですか?」


「いいえ、これからよ」


「私、声をかけてきましょうか?セイラさん、準備でお忙しいんじゃないですか?」


「いつものカフェの延長みたいなものだから、そこまで忙しくはないけれど……お願いできるなら、そうしようかしら?」


「はい!任せてください!」


「助かるわ。頼むわね」


セイラはウインクをして、微笑んだ。


(はぅ……やっぱりセイラさん……うちゅくしい……)


ルシナは、惚れ惚れするセイラの表情を見ながら、仕事を続けた。


その後、 ルシナは、コハナ、カイ、アンナ、そしてルキに声をかけた。


皆、予定が決まっていなかったようで全員集まれそうだ。


ジャスミンが来る前日には、セイラとともにマドレーヌを焼いた。


「ジャスミンさん、マドレーヌが好きなんですね!なんだか気が合いそうです!」


「えぇ、特にマドレーヌとレモンティーの組み合わせが好きでね。目覚めた後も、“マドレーヌが食べたい”って聞かなかったのよ。ルシナとも気が合うんじゃないかしら?」


セイラはルシナをじっと見つめる。


ルシナは、きょとんと首を傾げた。


「反応とか……どこか似ているところも多いし……」


台を拭いていたルシナの手が止まり――


粉の入った容器を落とした。


白い粉が、ふわりと舞い上がる。


「ぶえっくしょい!!」


豪快なくしゃみが、店内に響いた。


「あははっ!くしゃみまでそっくり」


セイラは目に涙を浮かべながら笑う。


「へっ?」


「ジャスミンも、同じようなくしゃみをするのよ。貴族の娘なんだからやめなさいって注意しても、直らなかったの」


ふふ……とセイラは笑い、ルシナの頭をそっと撫でた。


(私……というか、ルシアナも子爵令嬢だったんだけどな……まあ、放っておかれてたしな……)


ルシナは、優しく撫でるその手に目を細めながら、静かに心を落ち着かせた。




*****



カフェには皆が揃い、ジャスミンの到着を待っていた。


店内には、マドレーヌのほかにも、サンドイッチやクッキーが並んでいる。


「ごきげんよう」


軽やかな声とともに扉が開く。


セイラによく似た――それでいて、より柔らかく可愛らしい表情の女性が顔を覗かせた。


「ジャミー!いらっしゃい」


セイラが出迎え、そっと抱きしめる。


ジャスミンは店内へ入ると、ルシナ、コハナ、ルキ、カイ、アンナへ順に視線を合わせ、胸に手を当てて静かにお辞儀をした。


「皆さま、今日はよろしくお願いします。お集まりいただき、ありがとうございます」


洗練された仕草は、さすがと言える。


「ジャスミン様。お待ちしておりました。ここは平民しかいません。どうぞ、ゆるりとお過ごしください」


ルキも胸に手を当て、静かに礼をする。


「なら、この中にいるときだけは、私も平民になるわ。みなさん、どうか私のことはジャスミン、ジャミー、好きに呼んでくださいね」


可愛らしくウインクをするジャスミンは、セイラとはまた違った魅力にあふれていた。


「はぁ〜ジャスミンさん、かわいいわ〜。私も抱きしめていい?」


アンナが手を広げると、ジャスミンはその腕に飛び込む。


「ひゃ〜かわいい!かわいい!セイラさんの妹とは思えないわ〜」


「ちょっと、アンナ。それ、どういう意味?」


「どんな意味もありませんよ!ただ、可愛いは正義だなって……」


アンナはジャスミンから離れると、慌ててセイラに言い訳をした。


「あはは、セイラさん、アンナはかわいい女の子が好きなんだ。気にしないでよ」


カイがあっけらかんと笑う。


その時ーー

遅れて長身の超絶美形な、セイラとジャスミンの兄が店内に入る。


「ジャスミンは、もう挨拶したのかな?」


心地よく美しい声が響く。


「お兄様、挨拶しました!」


ジャスミンが笑顔で振り返る。


兄ーーリオンは穏やかに微笑む。


「皆、今日はジャスミンに付き合ってくれ感謝する」


リオンは静かに礼を言うと、ルシナとコハナを見る。


「ジャスミンの良き、友になってくれると嬉しい」


そういって、セイラに手土産を渡す。


「王都で人気のショコラだよ。皆で分けてくれ」


「お兄様、ありがとうございます」


セイラは、微笑みながら礼を言うと、席に案内する。


「男性陣は、こちらの席に。女性陣はこちらの席に。今回は女子会兼ねてますからね」


ふふとセイラは笑うと、飲み物の準備を始めた。


「リオン様、前日はシャンパンをありがとうございました」


ルキが礼を言うと、ルシナも続いて礼を言う。


「ありがとうございました。爽やかな香りがとても美味しかったです」


「それは良かった。また王都に来る際は教えてくれ。何か用意しよう」


「ありがとうございます」


ルシナはリオンへ心からの感謝を込めてカーテシーを行う。


その仕草を、リオンはじっと見据えた。


「王都は楽しかったかい?機会があれば、またダンスをしよう」


「はい……」


「ちょっと、ダンスって?お兄様、ルシナとダンスを踊ったの?」


セイラは目を見開き、リオンへ詰め寄る。


「あぁ……レストランで少しね。セイラ、どうしてそんなに気にするんだい?」


セイラは一瞬だけルキを睨み、そのままリオンへ向き直る。


「……分かったわ。お兄様、席についてくださる?」


リオンは、くくっと小さく笑うと椅子に腰を下ろした。


セイラはそのまま飲み物の準備へ戻る。

ルシナもそれを手伝い、コーヒー、激甘のミルクティー、レモンティーを各席に配っていく。


リオンが持ってきたショコラも皿に並べ、テーブルへと置いた。


「さあ、お茶会の始まりね」


セイラがそう告げると、ルシナとともに席へ着いた。


「ジャスミンさん、復帰おめでとうございます」


ルシナが声をかけると、ジャスミンは柔らかく微笑んだ。


「ありがとう。あなたがルシナさんね。そして、コハナさんとアンナさん。今日は来てくださってありがとう。お姉さまのカフェに来られて嬉しいわ。ここ、いい雰囲気ね。好きな空間だわ」


一人ひとりに視線を向けてから、ジャスミンはセイラを見つめた。


「ジャスミンさん、体調はもういいの?」


ルシナが呼びかけると、ジャスミンは晴れやかな笑顔を返す。


「えぇ、おかげさまで。とても気分がいいの。まるで、生まれ変わったみたい」


ジャスミンはマドレーヌを一口分に割り、静かに口へ運ぶ。


「ジャスミンさんは、いくつなの?」


アンナが人懐こい笑顔で問いかけた。


「二十歳になります。ただ、十四歳からの記憶がなくて……子どもじみたことを言ってしまったら、ごめんなさいね」


「大丈夫よ!ルシナも子どもっぽいし、コハナは子どもだし……慣れてるから気にしなくていいわ!」


「アンナさん、それどういう意味ですかぁ?」


「あははっ」


ジャスミンが笑う。

その笑顔を、コハナはじっと見つめていた。


「元気になって、良かった」


コハナは、ゆっくりと口角を上げる。


ジャスミンは周りをよく見ていて、アンナやセイラの話に耳を傾けながら、場を和ませるように返事をしていく。


その様子を見て、コハナは――なぜターゲットにされてしまったのか、分かったような気がした。


「男性陣は、どんな話をしているんですかね?」


ルシナが、ルキとカイの方を覗き込む。


穏やかに話しているようで、カイだけが、貝のように口を閉ざし、縮こまっていた。


ーーーー


「あはは」


女性陣の席から笑い声が聞こえてくる。


特にアンナの笑い声は大きく、ジャスミンも肩を震わせながら笑っていた。


その様子に、リオンはどこか安心したように微笑む。


「リオン様、ジャスミン様、楽しそうですね」


「あぁ……連れてきて良かったよ」


ルキの言葉に、リオンはコーヒーを口に運びながら、静かに答えた。


「……ところで、カイ」


リオンに名前を呼ばれた瞬間、カイの肩がぴくりと揺れる。


「新しい研究を始めたと聞いたが、順調か?」


「新しいというか……前に挫折した研究ですけど……順調には進んでいないですね……。いかんせん、“加護のある花”なんて現実的ではない研究ですし……」


カイは、もそもそと答える。


「そんなことはないさ。研究が進めば、助かる人も増えるだろう。もし資金が足りないのなら、支援しよう」


「あ……ありがとうございます」


(いや……支援されたら、絶対に結果出さなきゃいけないやつじゃん!!)


カイは涙目になりながら、ルキを見つめる。


「リオン様、親父は元気にしていますか?」


「……あぁ、元気すぎるくらいだ。今は若手育成のために働いてくれているよ。私に会うたびに、“なぜルキオが辞めるのを許可した”と詰め寄られているさ」


「……それは、ご迷惑をおかけしております」


苦笑するルキを、リオンはすっと見据えた。


「ジャスミンも回復した……ルキオ、護衛騎士に戻る気はないか?」


「いえ……私は……もう、靴屋でいたいんです」


ルキは、リオンを真っ直ぐ見つめて答える。


「そうか……それは、残念だ」


少しも残念そうに見えない笑顔で、リオンは答える。


そして――ルシナへ視線を移した。


「ここで、伴侶まで見つけたか?」


ルキは、コーヒーを吹き出しそうになる。


「シャンパンは、起爆剤になったかな?」


とうとうルキは咽せた。


「リオン様!」


「えーなになに?王都で何があったの?」


目を輝かせて、カイがルキに迫る。


「……もう、いいだろ」


ルキのつぶやきは、アンナの大きな笑い声にかき消された。



ーーーー



「さあ、もうこれ以上いると帰るのが遅くなる。ジャスミン、帰るよ」


リオンはすっと立ち上がり、ジャスミンのもとへ歩み寄る。


「お兄様、こんなに楽しいお茶会は初めてです!」


屈託のない笑顔に、リオンはわずかに目を見開いた。


「それは、良かった」


「またお茶会をすればいい。今度は屋敷に案内しよう」


「ほんと!ぜひ、みなさん屋敷に来て!」


ジャスミンの無邪気な誘いに、セイラは微笑みながらも、胸の奥に冷たいものが走る。


「えぇ!もちろん!ジャミーと仲良くできて嬉しい!」


ルシナも素直に喜ぶ。


その様子に、セイラはもう止めることができなかった。


リオンは、にっこりと笑う。


(……私の考えすぎかしら)


セイラがそっと爪先で床を弾く。


その隣に、コハナが静かに寄り添った。


「セイラ……悪いようにはならない。私が見ている。心配はいらない」


セイラにだけ届く声で、コハナは囁く。


セイラが視線を向けると、コハナはわずかに微笑んだ。


「セイラは、もっと幸せになっていい。みんな、セイラのことが好きだから」


その言葉に、セイラの目から一筋の涙がこぼれる。


「……ありがとう」


小さな声は、コハナにしか届かなかった。


「じゃあ、みなさま、ごきげんよう」


ジャスミンは手を振りながら、カフェを後にする。


その表情は――まるで十四歳の少女のように、晴れやかな笑顔だった。


その笑顔をみて、ルシナはジャスミンと親友になる。

そんな予感がした。

次回、番外編も含めて本当の完結となります。

明日、昼〜夕方頃に更新予定です。


最後までよろしくお願いします。

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