番外編12: 冷たい愛情
日の当たる湖で、ディスティーヌは石碑を眺めていた。
漆黒の髪は顎の下で切り揃えられ、日の光を浴びて、輪を帯びたように輝いている。
薄紅色の衣は柔らかな印象を与えるのに、その無表情な顔つきは能面のようだった。
切れ長の目はオニキスのように黒く、すべてを見通すような深みがある。
妖精たちは、静かにディスティーヌのそばに佇んでいた。
“女神さま、コハナどこいった?”
“泣かない、笑わないコハナ、何故どこいった?”
「あの子は、あの子の道を進んだ」
“女神さま、悲しい?”
「あの子が壊れるくらいなら、手放した方がいい」
“コハナ、元気になる?”
「その道は、ただ一つ……この世界から離れること。あやつも見えていたはずだ」
“何故、人は不安を抱えるの?”
「自分が見えないからだろう」
ディスティーヌは湖面に映る自身を見つめ、隣の世界の片割れを思い浮かべる。
お節介で、人が好きで、孤独を嫌がる白銀の片割れを。
「起きぬ未来を想像しては恐れ、自身の選択さえも他人に委ねる」
“依存……”
「ふふ……お前たちは、本当に賢い」
“人は皆そうなの?”
“コハナも依存してた?”
「あぁ……神託こそが存在する意味だと思っていたからな。そうではないと伝えていたが……あの力を持つには幼すぎた。周りの大人も、幼かったのさ」
ディスティーヌは、石碑の文字を指先でそっと撫でる。
【お前が争いをなくすなら、残るのはお前一人】
「神託をするか、しないかはコハナの選択だ。リスクを背負ってでも助けたいと思える人に出会えることに、私は賭けた」
“どうなったの?”
「賭けは……」
ディスティーヌは、妖精たちに柔らかく微笑んだ。
弧を描く真紅の唇は、確信に満ちている。
「我が片割れの導きは、外れがないんだよ」
その柔らかな声を聞きながら、妖精たちは穏やかに微笑んだ。
「信頼を、あの子は覚える……私が示した道は、それだけだよ」
コハナの住まいは、そのままにしてある。
自分と同じ無表情ではなく、笑顔が見たかった。
ここには戻らず、隣の世界で笑えばいい。
ディスティーヌは、神託の巫女の誕生を、この代で打ち切ることを選んだ。
魔法の発達したこの世界は、まもなく戦火に見舞われるだろう。
それも、人が選んだ道。
全て燃え尽き、種を植える場所に迷うようになったら、再び神託の巫女を生み出そう。
ディスティーヌは、白い花にそっと息を吹きかけた。
ディスティーヌはコハナの笑顔は見れていません。
でも、笑っていることは理解しています。
それでいいんだと、微笑んでいるのでしょう。
ディスティーヌの世界の妖精は、知能が高く、話し方も大人びています。
ノスタルジアの世界の妖精とは、少し違う在り方をしています。




