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【完結】崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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番外編⑨ フーと町散策

王都から帰ってきたルシナは、コハナにお土産を渡し、劇の話やレストランでの出来事を話した。


コハナは無表情のまま頷き、ルシナの楽しそうな表情を見つめていた。


「楽しかったんだね。良かった」


「うん、コハナも背中を押してくれてありがとう。ルキに任せていたら、すごく楽しかったよ」


「うん……良かったね」


コハナは、ほんの少しだけ目を細めた。


「明日も私、セイラさんから休みをもらっているんだけど、コハナは仕事?」


「うん」


「そっかぁ……じゃあフーちゃんの散歩は私が行くね」


「うん……よろしく」


散歩と聞いて、フーはルシナの足元で尻尾を振りながら、嬉しそうに笑っている。


ルシナは、移動の疲れもあって、早めにベッドに入った。


アパートに引っ越してからは、隙間風もなく、暖かく眠れる。


あのまま小屋で過ごしていたら、体調を崩していたのかもしれない……。


(……はっ。コハナが地下で過ごしていたのって、寒いから?)


そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠っていた。



*****



翌朝、早くに目を覚ましたルシナは、朝食の用意をした。


コハナが働くパン屋のバゲットに、王都で買ったバターとジャム。そしてセイラのおすすめのコーヒーの香りが漂う。


セイラが用意したキッチンは、オーブンやコンロ、調理器具など質の良いものが揃っており、使いやすい。


卵を焼き、野菜を添える。


すべてが出来上がった頃、コハナとフーが部屋から出てくる。


コハナの髪の寝癖を見て、ルシナは穏やかに微笑んだ。


「おはよう」


「おはよう、コハナ……ご飯の用意がちょうど出来たところだよ。座って」


「うん。ありがと」


目を擦りながら椅子に座るコハナは、実年齢よりも幼く見えた。


「コハナの髪、いつも綺麗に切り揃っているけど、どこで髪を切っているの?」


肩のラインで切り揃えられた髪は、出会った頃と長さがあまり変わっていない。


ルシナもそろそろ髪を切りたいと思っていたので、コハナに問いかけた。


「いつも、セイラが切ってくれてた」


「えっ、セイラさんが?……セイラさん器用なんだね」


「うん」


コハナが手櫛で頭を整えると、寝癖が収まり、いつもの髪型になった。


「私はどこで切ろうかな……セイラさんに聞いてみよ」


「セイラは、お抱えの美容師に切ってもらってた」


「……さすが、侯爵家……。私は頼めないか〜。庶民が切れる場所、教えてくれるかな……カイなら知ってるかも」


「そうだね」


コハナが出勤するのを見送ると、ルシナはフーの散歩の準備を整える。


その様子を見て、フーは興奮しながらルシナの周りを駆け回っていた。


フーとアパートの外に出ると、同じアパートに住む老夫婦に挨拶をし、ルキの店へ向かう。


「ルキ、おはよう」


「ルシナ、おはよう」


ルキはフーを軽く撫でると、ルシナの頬に軽く口づけを落とす。


「フーのお散歩?」


「そうだよ。あと、カイにクラテスさんから預かった手紙とお土産を渡そうと思って……」


「あぁ、そうだったね。手紙は俺が預かっていたな。ちょっと待ってて」


ルキが店の中に戻るのを見送ると、ルシナはショーウィンドウを眺めた。


ハイヒールや革靴、ブーツなどが並べられており、初めて靴屋を訪れた時と同じ、革の香りが漂う。


(ルキと同じ香り……なんだか安心する)


「お待たせ……行こうか」


「うん」


腕を組みながら歩く二人の前を、フーがちょこちょこと歩く。


尻尾の長い毛がふわふわと揺れ、時折振り返っては、ルシナの顔を見て嬉しそうに笑っていた。


カイの薬草屋に着くと、開店前特有の静けさがあった。


扉を開けると、店の中で清掃をしているカイと目が合う。


「あれ?ルキとルシナじゃん。おはよう!二人揃ってどうしたの?しかも、犬まで」


「カイ、おはよう。今日はフーちゃんの散歩がてら、王都のお土産を持ってきたよ」


「まじで?ありがと!そういえば、二人で王都に行くって言ってたな」


カイは、ルシナとルキが腕を組んでいる距離感を見ながら、意味ありげににやりと笑った。


「なるほどね〜」


「えっ?」


「いいや、何でもないよ。中に入って」


「フーちゃんも一緒でもいいの?」


「んー、本来ならあまり良くないけど、掃除中だし、開店前だから、抱えるならいいよ」


「ありがとう」


ルシナはフーを抱えると、カイに続いて店内に入った。


「これ、チョコレートとクッキー。アンナさんと食べて」


「わー、この店の俺が好きなやつ」


「良かった。クラテスさんに聞いたんだ、カイが好きな食べ物。……あと、これはクラテスさんから」


ルキは、カイに手紙を渡す。


「えー、師匠に会ったの?なんか言ってた?」


カイは過去のやらかしを話されていないか、どぎまぎしながらルシナとルキを交互に見た。


「カイをよろしくとだけ言っていたかな。元気にしているか心配してたぞ」


「そうかぁ〜。全然会いに行ってないからな〜。今度行ってみようかな」


カイは安心したかのように大きく息を吐くと、手紙を受け取る。


「加護のある花の研究……それに役立てばって言ってたけど……それってどんな研究なの?」


ルシナが聞くと、カイは「えっ、マジで?」と目を見開き、慌ただしく封筒を開けた。


カイの目が素早く動き、手紙の文字を追う。


「なるほど……」


カイはつぶやくと、ルキとルシナに視線を戻す。


「ありがと、研究に参考になりそうだよ……」


カイの目が輝き、うきうきしている。


「加護のある花って、実は結構あるんだ。人に大切に育てられた花には、微量でもあるんだよね。それこそ、ミュリーさんのところの花にもあるよ。ミュリーさんが花を大切にしているからね。その花を部屋に飾るだけでも、明るい気持ちになれる……そんな効果かな」


「あっ、確かに!前にミュリーさんの花を部屋に飾ったら、気分が良くなったよ。花がきれいだからだと思ってた」


ルシナは、ミュリーからもらったオレンジの花を思い浮かべた。


「もちろん、花の見た目とか香りだけでも気分は上がるんだけどね……だけど、それだけじゃない効果もあるんだ」


カイの話すスピードが、少しずつ上がっていく。


「その中でもね、特に加護が強いものは、ものすごく珍しいんだ。ジャスミンさんの薬もそうだけど、人以外の……それこそ、神レベルの加護がついたものは希少だよ。どこにあるか分かれば、乱獲や争いが起きても不思議じゃない。その効果は、測りきれないからね」


カイは、ルシナを見据えた。その表情は研究者そのものだった。


「ルシナ、あの花は頂き物って言ってたけど、誰からもらったの?」


「……えっーと……」


ルシナは、抱えているフーの背中に顔を埋める。


「……世の中には、知らない方がいいこともあるって、お前の師匠が言ってたぞ」


「へっ?師匠が?」


ルキがカイを制するように口を出すと、カイはいつもの表情に戻った。


「……そうだよね!ごめん、ルシナ。ただその辺に生えてるなら、見てみたいと思っただけなんだ。乱獲からも守りたかったし……」


「ううん、大丈夫だよ。私もそんなに効果の高いものって知らなかったんだ」


「普通の花に見えるもんな。この手紙には、加護を持つ花の特徴とか見分け方、効果の研究結果が書かれているんだ。もしも、加護を人の手で強めることが出来れば、ジャスミンさんみたいな病に苦しむ人を助けられると思ってたんだ」


「ジャスミンの時はどこで手に入れたんだ?」


ルキが不思議そうにカイに問いかけた。


「それがさぁ〜。覚えてないんだよね。いつの間にか、机の上に置いてあったんだ。あの白い花が……。妖精のイタズラかなー。いくら研究で頭がいっぱいでも、材料の把握は出来てたはずだからさー」


カイの頭の上にいる妖精が、胸を張ってルシナを見つめている。


「……うん、妖精さんの仕業かもね」


ルシナは、ぽつりと呟いた。


「えっ?なんでルシナまで妖精のせいにしてるの?俺の実力でしょ?」


「うん、カイは天才だってクラテスさんも言ってたし、カイの実力だよ……妖精さんにも好かれてるから、もしかしたら手伝ってくれたのかもよ?」


「妖精に好かれてる?……ルシナ、もしかして妖精見えてる?」


「うん、カイの頭の上に胡座かいて座ってるよ。クラテスさんの肩に乗っていた子と、よく似てる」


“おれらは、きょうだい”

“あいつ、げんきだったか?”


妖精は、ルシナを見ながら笑顔だ。


「うん、元気だったよ」


“それはよかった”


妖精は飛び上がると、くるくると回った。


「えっ……じゃあ、もしかしてピンチの時、上手くいくことが多いのって……」


カイは頭の上に手を伸ばしてそっと触れようとするが、妖精はするりと肩へ移動する。


「うん……助けてくれてるみたい」


“くらてすから、たのまれた”

“おれが、めんどうみてやらないとな”


「ふふ……師匠さんに頼まれて、面倒を見てあげるって言ってるよ」


「えっ……なんだよ、師匠も見えてたのかよ」


カイは口を尖らせながら、手紙に視線を落とした。


「じゃあ、もう行くよ。開店前にお邪魔して悪かったな」


ルキがカイに声をかけると、カイは「手紙とお土産、ありがとう」と答えた。


扉の外で手を振るカイに見送られながら、ルシナとルキはフーの散歩を再開した。


町を散策していると、ミュリーの花屋に着いた。


「あら?ルシナちゃんに、ルキくん。二人揃って……もしかして……」


店の外で花の手入れをしていたミュリーは、頬に手を当てる。


「えへへ……」


「いいわね〜デートね。そんな二人には、この花かしら?」


ミュリーは、ピンク色と青色の花を上品にまとめると、ルシナに手渡した。


「あの時は本当に助かったわ。どんなにお礼を言っても足りないくらいよ。良かったらこの花を受け取ってね。幸せがいつまでも続きますように」


「わー、ありがとうございます。私もたまたま居合わせただけですけど、ミュリーさんが元気になって良かったです」


ルシナは花を受け取ると、にっこりとミュリーに笑いかけた。


「ふふ……ありがとう。あら?この子がフーちゃんかしら?」


ミュリーは、足元で尻尾を振るフーを撫でた。


「はい……私、この町に引っ越してきて。ココちゃんとも仲良くなれたらいいなーって……」


「もちろんよ!今度一緒に公園に散歩に行きましょう」


「ぜひ!」


じゃあまた、と声をかけ合いながら、ルシナとルキは花屋を後にした。


「ミュリーさんは、いつも願いを込めて花を渡しているよな」


「そうだね。それが加護なのかな?」


「そんな気がするな」


(加護ってすごいなー)


ルシナは、そんなことを思いながらルキとフーの散歩を続けた。


(女神さま、ルキに会ってくれるかなー。なんか紹介したいな)


ルシナは、今夜にでも女神に会いに行こうかなと、ふと思い立った。


(花の加護について、何かわかるかも?)


フーが走りたそうにリードを引っ張り、ルシナは駆け足になる。


足がもつれて転びそうになると、ルキはそっと腰を支えた。


「リード、俺が持つよ」


広めの公園に着くと、ルシナはベンチに腰をかけ、ルキはフーと一緒に走っているのを見つめた。


「なんか幸せだな〜」


ルシナは、大きく息を吸い込んだ。


フーと町散策……完

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