31. お正月
(萌々香視点)
1月1日――
新しい年を迎えた我が家は、昨日よりも明るく見えた。
「お雑煮のお餅、何個?」とお母さんの声がキッチンから聞こえる。お父さんはその隣で、あらかじめ買っておいたおせちのセットを出して準備していた。
食卓に並ぶおせち料理は毎年のことであっても、特別感が漂う。お雑煮の湯気があたたかい。
新年の挨拶をしつつ、私は好物の黒豆を口にする。うん、いつもの味だ。
「じゃあ、萌々香から。今年の目標をどうぞ」
ふいにお父さんから言われる。
「えーと……勉強を頑張る」
「そうだな、今年は受験生だ」
「早いわね」とお母さん。
「ねーちゃん、それ去年も言ってた」と結翔。
「なによ、結翔はどうなの?」
「俺? サッカーを頑張る、以上」
「もうちょっと勉強もして欲しいんだけど」とお母さんに言われていた。
「それじゃ、ついでに勉強もやる」
「ついでって……」
「次はお母さんの目標だよ」と私が言うと、お母さんは「そうだなぁ……」と考える。
「まず家庭円満でしょ? あとは新規のお客さん確保ってとこかな」
「お母さんらしいね、じゃあお父さんは?」
お父さんはすぐにお母さんの方を向いた。
「もちろん、夫婦円満」
……もう達成してるし、しかも毎年それだし。
「嬉しい……」
……お母さんも毎年同じ反応してるし。
「あとはもちろん、家庭円満もな」
「そうね」
ちょうどいい具合に両親があたたまった様子を見ながら、私と結翔は無言で雑煮を食べていた。
うちの両親、正月明けも変わらず平常運転だ。
※※※
午後に家族で近所の神社に、初詣に行った。神社に続く坂のふもとに微かに雪が積もっている。耳が冷たくなるぐらいの寒さだけど、陽が当たれば平気である。新しい年の始まりっていうだけで、そわそわしてくる。
「わ、すごい並んでる!」
少しずつ進んではいるけど、階段の下まで行列ができていた。私たちが並ぼうとすると結翔が何かに気づいた。
「あ! あやめちゃんだ!」
視線の先にあやめちゃんと――夏くんがいた。
冬なのに、桜の花びらが舞っているように感じたのは……きっと私だけだろう。実際には、白い息が静かに空へ溶けていくだけだった。
彼の両親もそばにいる。
結翔はすぐにあやめちゃんのところに走って行った。私たちも夏くんたちのところに行く。
「今年もよろしくお願いします」
「いい天気になりましたね」
親たちがそんなことを話しながら、神社の列に並ぶ。
「もも」
「夏くん」
親がいる前で恥ずかしいけど、離れないようにこっそりと彼の袖を掴んだ。お互いの心臓の音が響き合う。
「お父さん帰ってきたんだ」
「うん。久々に家族揃ったって感じ。父さんは2月からこっちに戻ってくることになって」
「そうなんだ、なんか安心だね」
前に比べて夏くんは緊張がほどけたよう。
「夏くん……頑張ってたもんね」
「そうかな、ももの家にお世話になりっぱなしだったよ」
「あの時はあの時で、楽しかったね」
「うん……ももといられて嬉しかった」
「わ……私も」
顔を見合わせると、一緒に私の部屋で過ごしたことが思い出される。あの夜、彼に触れた時のぬくもりを感じて……私は頬が赤くなっていた。
しばらくしてから神社に入ることができた。2人ずつ進んで参拝するので、先に親たちが前に向かう。私は夏くんと並んでお賽銭を入れて、手を合わせた。
願うことはたくさん考えていたのに、今はひとつしか思い浮かばなかった。
――これからも、夏くんと過ごせますように。
参拝が終わると、心の中がスッと軽くなるような気がした。そして、隣にいる彼のことがもっと頼もしく見えてきた。
私と夏くん、結翔とあやめちゃんはおみくじを引きに行った。
「中吉だー」と結翔の声がする。
あやめちゃんはなんと、大吉だった。
「良かったな、あやめ」と言ってる夏くんのほうが嬉しそう。
私のおみくじは吉。そして夏くんも同じ吉だった。
「ももと一緒だな」
「うん、お揃い」
2人で足並みを揃えて、これからも進んでいけるって言われてるみたい。
「もも」
「ん?」
「今年もよろしくな」
「うん、こちらこそよろしくね」
夏くんと一緒ならこれからも頑張れる――
そう思いながら、私はもう一度彼の袖を掴んだ。
新しい年の始まりは、少しだけ私たちに勇気をくれた。




