29. クリスマス
12月になり、日中も冷え込む季節がやって来る。2学期の期末テストも無事に終わり、クリスマスコンサート当日となった。
「あのコンサートの舞台に萌々香が立つなんて、楽しみね」
お母さんがお父さんに笑顔を見せると、お父さんも微笑んでいた。今日も冬の寒さに負けないぐらい、熱々な両親である。
「何時から?」と結翔が早く行きたそうにしている。たぶん、あやめちゃんに会いたいのだろうな。
そんなあやめちゃんは無事に退院し、しばらくは自宅で過ごすことになった。散歩もしているそうで、徐々に回復しているみたい。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
※※※
午後いちで学校に到着し、楽器を持ってみんなでバスに乗り込む。
これまでもクリスマスコンサートには、家族や友達同士で行ったことがある。いつかここで演奏したいなって思っていたので、嬉しいけれど……やっぱり緊張してきた。
「どのぐらいの人が来るのかな?」
「けっこう多いよ」
「ドキドキするー」
バスの中は、まるで遠足に行くみたいに賑やかだった。
ホールに着いて、控え室に向かう。チューニングをしながら待っている私たちに、先生からサンタ帽を渡された。みんなでこれを被るだけで、クリスマス気分だ。
「じゃあ行くよー!」
「おー!」
舞台袖まで来た。
そっと客席を覗くと前のほうに両親と結翔、結翔の隣にあやめちゃんとお母さん、そして――
夏くんがいる……。
ずっと応援してくれていた彼のことを考えるだけで、胸のあたりがぽかぽかしてくる。思えば初めて会った時から、私のフルートを褒めてくれていた。今日のクリスマスコンサートも楽しんでもらいたい。
そして自分たちの番になり、ドラムや椅子の準備をしてからスタンバイする。深呼吸して指揮者のほうを向き、フルートを構えた。
演奏するのはクリスマスの曲を2曲。
お客さんたちに“メリークリスマス”を伝えるような気持ちで、私たちの音楽が流れていく。
フルートの旋律に木管が重なり、そこへ金管のやさしい響きが乗る。一音一音が、客席の灯りに溶けていくような気がした。
――うん。ちゃんと届いてる。
演奏が終わるとホールいっぱいに拍手が広がった。
お辞儀をするときに客席を見ると、みんな嬉しそうな表情。クリスマスを届けることができたかな。
ふと、夏くんと目が合って――思わず笑顔になる。彼も優しく笑ってくれたので、顔が赤くなりそうだった。
※※※
「お疲れ様でしたー!」
私たちは学校まで戻ってきて、後片付けをしてから解散した。校門を出て少し歩いていくと、見覚えのある後ろ姿が……。
「夏くん?」
名前を呼ぶと彼は振り返る。
「お疲れ、もも」
「……来てくれたの?」
「うん……何だか会いたくなって」
そう言われて私は耳まで赤くなってしまった。
私も夏くんに会えたらいいなって思ってたから。
「ありがとう、コンサート来てくれて」
「すごく楽しめたよ。あやめも喜んでた」
「良かった」
自然とお互いの手を探し合って、しっかりと指を絡ませた。彼のぬくもりが、心の奥までじんわりと伝わってくる。
「もうすぐクリスマスだな」と彼が言う。クリスマスイブが終業式で、そこからは冬休みだ。
「夏くん」
「ん?」
クリスマスだからちょっとした“何か”が欲しいなと思った私。思い切って言ってみた。
「終業式の日、プレゼント交換したいな」
子どもっぽいって思われただろうか。ちょっと不安だったけど、彼の反応はそんな心配を吹き飛ばすものだった。
「いいじゃん。楽しそう」
「ほんと? やった」
クリスマスツリーに灯りがつくように、ふわりと心に光がともる。寒くても彼の手に包まれているだけで、胸の奥まであたたかかった。
※※※
それからはあっという間に時間が流れて、終業式の日になった。クリスマスが近づくのと年末の慌ただしさで、周りがソワソワしているのがわかる。
部活が終わってから体育館の近くで夏くんを待つ。いつもよりドキドキするのは、クリスマスイブだからかな。
そんなことを考えていると、彼が体育館から出てきた。
「もも、お疲れ」
「夏くんもお疲れ様」
他の人が校門を出るのを待つように、私たちはゆっくり歩き始める。
「いつもの公園行くか」
「うん」
クリスマスイブというだけで、いつもの帰り道も特別なものになる気がする。同じことを考えてるのか、夏くんも少し照れているみたい。
公園はいつもより静かで、ずっと吹いていた風も止んでいるように思えた。ふたりでベンチに座って、リュックから袋を取り出す。
「……これ、夏くんに」
「ありがとう。俺からはこれ」
「ありがとう」
小さめの袋の中身は、ハートを抱えたウサギのキーホルダーだった。
「わぁ……可愛い。夏くん、ありがとう! カバンにつけるね」
「良かった。気に入ってもらえて」
夏くんも袋を開けてくれた。中身は水色のミニタオルで普段使いができるもの。
「ありがとう、早速明日から使うよ」
「うん!」
「そうだ、もも」
「ん?」
夏くんは私の方を見て言う。
「メリークリスマス、もも」
私は彼の腕にそっと寄り添った。
「メリークリスマス、夏くん」
冬の空に息が白く溶けていくみたいに、胸の中も、なんだかいっぱいだった。




