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28. 彼への気持ち

「夏くん、本当は運動部の話をしたいのかな」


 部屋で独り言を呟きながら宿題をしているけど、全然集中できない。だめ……心が悪い方向にいっちゃうよ。

 付き合うって楽しいことばかりじゃないんだ。こんなに胸が苦しくなるなんて、知らなかった。


 その時、ピロンと音が鳴った。


 夏くん……?


 じゃなくて、部活の友達グループだった。


『お知らせ見た? クリスマスコンサートに出演決定だって!』

『見たー!』

『また練習だねー』


 クリスマスコンサートは、地域の小さなホールで行われ、様々な団体さんが出場する。ハンドベルや合唱のイメージだったけど……まさか私たちが出演できるなんて。

 私はすぐに学校のタブレットを確認した。吹奏楽部から確かにお知らせが届いている。


 コンサートには家族連れや学生がたくさん来る。その中で演奏できるんだ。そう思うとトクンと緊張のような期待のような音が聞こえた。


 私にはフルートがある――もう練習のことだけ、考えよう。

 参加希望の返信をして、息をついた。

 


 ※※※



 翌日、少しすっきりした表情で登校する。

 学校に着くと同じクラスの吹奏楽部の子たちが、クリスマスコンサートの話で盛り上がっていた。

 

「サンタ帽被りたい」

「サンタワンピースは?」

 なぜか衣装の話になっていたけど、こういう雑談も好き。

 

 教室の離れた場所から――夏くんの視線を感じる。

 けれど私はコンサートの話に夢中だった。



 昼休み。

 後ろから肩をトンとされる。この感じは……


「……あのさ、少し話せない?」

「うん……」


 夏くんに誘われるように、中庭へ行く。

 何を言われるのだろうと、心臓の音がうるさく鳴っていた。


 中庭の隅っこ。

 そこには誰もいなくて、風の音だけが聞こえてくる。


「……昨日はごめん」

「……」

「藤咲さんに言われるままに喋ってしまって」

「……そう」


 ちょっとだけ、胸があたたまる。

 なのに彼の顔を見ることができない。


「あの子はよく喋るけど……俺が話したいのはももなんだよ」

「……夏くん」

 

 ゆっくりと顔を上げると、胸の奥で小さく何かがほどけていくのがわかる。

 私のことを見つめる彼の目は、真剣そのものだった。

 夏くんは私と話したかったんだ。私だっていつも帰りに夏くんと話すの、楽しみにしてたんだから。


「……私、2人の話についていけなくて、寂しかった」

「だよな」

「というか……」


 ここでちゃんと言わないと。


「夏くんはあの子と話してるほうが、楽しいのかなって思っちゃったよ……」


「もも……」

 

 彼が私の手を取る。

 さっきまで寒かったのに、じんわりと彼の温もりを感じる。

 

「俺は、君といる時が一番嬉しい」


 その言葉は、私の心の固まったところを優しく溶かして、身体をぽかぽかにしていく。

 中庭にいることも忘れちゃうぐらいだ。


「私もだよ」


 彼が笑ってくれた。

 そう、こうやってまた2人で笑い合いたいって……ずっと思ってたの。


 

「夏樹くん」


 この声は……藤咲さん?


 夏くんが私の手を握っているところを見られる。

 時間が止まったように、私たちもその場で静止していた。

 彼は驚いた様子だけど、手はしっかりと握られたまま。

 藤咲さんが一瞬だけ息を呑む。


「その子と……付き合ってるの?」

「うん」

「そう……」


 藤咲さんは俯きながら去って行った。

 その瞬間、ずっと吹いていた風が止んだような気がした。


「……もっと早く藤咲さんに言うべきだったな」

「……かもね」

 これでもう、大丈夫な気がする。

 私は安心したように力が抜けていった。


「ちょっとだけ」


 そう言って彼が私をぎゅっと抱き寄せる。

 中庭の空気が、ふっと落ち着いた。

 

 学校でこんなこと……恥ずかしい。

 けれど、不安だった気持ちが一気に溶けていくようで、そのまま彼に委ねてしまう。


 あったかい……

 夏くんの腕の中で目を閉じながら、私は幸せを噛み締めていた。



 ※※※



 その後、佳澄に藤咲さんのことを話した。

「あの子、なんで今まで気づかなかったんだろうね」

「……手を繋いでいなかったから?」

「都合のいいように考えるのもわかるけどね……まぁ良かったじゃん。熱い抱擁も交わせて」


 え?

 ……見られてた?


「うそ……見てたの?」

「……うん。あそこ人が少ないからイチャイチャする人多いんだよね」

「恥ずかしい……」



 その日の部活では、クリスマスコンサートの曲も練習した。だんだん12月が楽しみになってくる。

 部活が終わると、私は体育館まで急いだ。今日は早く夏くんに会いたい気分。体育館から出てきた彼の隣に、藤咲さんはいなかった。


「もも、お疲れ」

「お疲れ様、夏くん」

 心なしかほっとした表情の夏くん。それを見て私も同じようにほっとしている。


「もうすぐあやめが退院するんだ」

「そうなの? 良かったぁ」

「早く家に帰りたがってるよ」

「だろうね」


 そうだ。

 あやめちゃんも一緒に……コンサートに来れるかな。


「夏くん。地域のホールでクリスマスコンサートがあるんだけど、今年は私たちも出演することになったの」

「え? すごいな」

「良かったらあやめちゃんと一緒にどう?」

「うん! あやめにも聞いてみる」


 夏くんの手が私の手に触れたと思ったら、すぐに手が繋がれた。

 冬の空気の中で、私の手だけ春みたいにあたたかかった。



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