23. あたたかな夜
(萌々香視点)
夏くんの妹、あやめちゃんは術後に意識のない状態になってしまった。今にも崩れてしまいそうな彼をこのままにはできなくて、私は再び彼を家に呼んだ。いったんスマホを取りに行ってから夏くんは来てくれた。
「お邪魔します」
「若松くん、いらっしゃい」とお母さんが迎えてくれる。
「わぁー! 若松くんだ」と結翔も嬉しそう。
「すみません、また来てしまって」
「いいのよ。こういう時は頼ってくれても。ね、あなた」
そう言ってお母さんがお父さんの顔を見ると、お父さんは「そうだな」と言っていた。
ちなみにあやめちゃんが入院していることは親に言ったけど、それ以上のことは言ってない。
「晩ごはんできたよー」
今日の夕食は肉じゃが、きのこの炊き込みご飯、そしてかぼちゃの煮物。秋らしくて食欲が湧いてくる。
「いただきます」
夏くんはさっきよりも元気そうで、ご飯もたくさん食べてくれている。良かった。
「……美味しいです。いつも竹宮さん家のごはんってあったかくて癒されます」
「ありがとう、若松くん。萌々香にしっかり教えておくから」
「ちょっとお母さんたら……」
私も夏くんも赤面している。
「運動会の練習つかれたぁ」
結翔、ナイス。そのまま話題を変えて……
「俺ソーラン節を踊るんだ」
「ソーラン節か、懐かしいな。俺も踊ったよ」
夏くんも話してくれてる。はぁ……これで一安心。
何となくお父さんが、私と夏くんの方をちらちらと見ているような……気のせいかな、うん。
そしてうっかり「夏くん」と呼ばないように気をつけなければ。
すると唐突に結翔に聞かれる。
「ねーちゃん、若松くんとはどこに遊びにいったの?」
「ふぇ!?」
まずい。変な声が出ちゃった。お父さんもこっちを見ている。というか、どうしてみんなわかるのかな。
夏くんに“どうしよう”という顔をしたつもりだったけど、彼は「駅前のモールだよ」と普通に答えていた。
――あ、これってバレちゃった?
「あ……あの……これは……その……」
私が焦っていると、夏くんはハッとした表情になる。そして、お箸を置いてお父さんとお母さんの方を向いた。
「……言うのを忘れてたのですが、萌々香さんと付き合っています。こんな自分ですが……よろしくお願いします」
夏くんの横顔はいつもよりも落ち着いてて、まるで歳上の男性のようだった。私は高鳴る胸を手で押さえる。
「……そうか」とお父さんの低い声が響く。
そして、そんなお父さんの顔をそっと見ているお母さん。私はお父さんに何と言われるのか、ヒヤヒヤしながら待つ。
「……萌々香のこと、よろしくな」
その一言のあと、ほんの一瞬だけ静かになった。誰も言葉を足さないまま、湯気だけがゆらゆらと揺れている。
微笑んだお父さんを見て、私も気持ちがほどけていく。
「はい……!」
夏くんがそう言って私のほうを見て頷いてくれた。
「こちらこそよろしくね。若松くん」とお母さんも笑顔を見せた。
食後、それぞれお風呂を済ませて自由時間。
私は自分の部屋で、夏くんはダイニングで課題を終わらせて、そのあとはリビングで過ごした。
結翔がトランプを持って来て、ババ抜きで遊ぶ。夏くんのところにずっとジョーカーがあって、何だか面白い。私たちは何度も笑いながら、楽しい時間を過ごした。
気づいたらもう寝る時間だ。
「おやすみなさい」
夏くんは結翔の部屋で寝るけど、その前にまた……2人で話したいな。
そう思いながら自分の部屋のドアを少し開ける。少しして、隣の部屋のドアが開いて……夏くんが顔を出す。
「こっち……来て」
「……行くよ」
こっそりと彼が来てくれる。
夏くんが自分の部屋にいるのは3回目なのに、こんなに近くにいるって思うだけで妙にドキドキしていた。公園にいる時よりもずっと彼を近くに感じる。
「夏くん」
「もも」
やっとこうやって呼び合えたことが嬉しくて、彼に寄り添った。
「今日もありがとう。少し元気出た」
「良かった……」
「もものお父さんとお母さんに付き合ってるって言っちゃったけど……大丈夫だった?」
「うん。夏くんが言ってくれて……すごく嬉しかったの」
「そっか」
お父さんもお母さんも、このぐらいの時期からお互いを想っていたのだろう。私たちもこれから仲良くいられるといいな。
「もも」
「ん?」
「……何だかまた不安になったかも」
夏くん……そうだよね。
あやめちゃんの意識が戻って欲しいよね。
私は彼の背中に手を回した。すると彼はぎゅっと私を抱き寄せてくれる。
「……ももとこうしていると落ち着くんだ」
「うん……」
額を合わせて――そこからゆっくりと唇を重ねた。今までで一番あたたかさが滲み出ているような気がする。
唇を離して、また額をトンとくっつけた。お互いの吐息が漏れて熱を帯びながら、私たちは確かめ合うようにそばにいた。
「じゃあ、そろそろ戻るね」と言って夏くんは結翔の部屋に行った。
私は布団に入ってからも、彼のぬくもりが消えなくて――胸の中まで、ずっとあたたかかった。




