21. 週末
週末――
「……似合うかな」
薄いピンクのワンピースを着て、鏡の前に立つ。髪を結ぶ指先が、いつもより少し震えていた。今日は絶対、笑ってもらいたかったから。ハーフアップをしてリボンの飾りをつける。
唇には、お気に入りのピンク色のリップ。
「可愛いくなったかな。夏くんはなんて言ってくれるかな……」
すると、コンコンとノックの音。
「萌々香……可愛いじゃないの。今日のデートはバッチリだね♪」
「ちょっとお母さん……そんなんじゃないし」
「そう? ふふ……楽しんできてね♪ 私たちも出かけてくるから。結翔のサッカー終わるまでには帰るね」
「そうなんだ、いってらっしゃい」
お父さんとお母さんも、時々こんなふうに2人で出かける。相変わらず仲が良いな。(これ言ったの何回目だろう)
「行ってきまーす」
※※※
駅前の広場に着いた。
夏くんを探していると……いた! 背が高いのですぐにわかる。彼も私に気づいて手を振ってくれた。
「おはよう、夏くん」
「もも、おはよ」
夏くんは爽やかなブルーのシャツが似合ってる。かっこいい。
「今日のもも……いつもと違うね」
「あ……似合うかな」
「うん、すごくドキドキした」
そう言って私の手に触れて、すぐにぎゅっと握ってくれた。
……恋人同士って感じがして、心がキラキラにときめく。
私たちはショッピングモールに入り、ファッションのエリアを歩いた。
帽子屋に入って、夏くんにテンガロンハットみたいなのを被ってもらったり、探偵みたいな帽子を渡したりして楽しんだ。
「夏くんってどれも似合う」
「そう?」
大人っぽい帽子を被る彼を見て、胸がきゅっと鳴った。
「すごい……俳優さんみたいだよ?」
夏くんを鏡の前に連れて行って、2人で盛り上がった。
「ももは……これとか」
そう言われて、彼にワインレッドのベレー帽を被せられる。
「……やば、可愛い」
「そ、そうかな……」
可愛いって言われて照れちゃうよ。
今日一日こんな感じだと、鼓動が大きくて胸が痛くなっちゃいそう。
「あのさ、夏くんは女の子のどんな服装が好き?」
洋服売り場でハンガーにかけられた服を見ながら、夏くんに聞いてみた。
「あんまり考えたことないな……けど……」
そう言いながら私の服を見つめる彼。
「今日のもものワンピース、好き」
す……好き。
その言葉だけで私は失神しそうになる。
「じゃあ……またワンピース、着てこよっかな」
「あ、ズボン姿も見たい。クラスの中で俺だけ知ってるっていうのが何か嬉しいし」
ひゃあ……!
“俺だけ”の言い方が、変なところをくすぐってくる。
「ふふ……今度、ズボン履いてくるね」
お母さんにうまく言って服を買ってもらわなきゃ。お小遣いだけじゃ足りないし。
一通り見終わって、ファストフード店に入った。
照り焼きバーガーも好きだけど、初デートにはチーズバーガーがいいってどこかに書いてあったから……今日はチーズバーガーにしちゃう。
「……もうすぐあやめが入院するんだ」
夏くんがダブルバーガーを食べながら話してくれた。
「そっか。確か手術って言ってたよね」
「ああ。うまくいくといいな」
「こっちも緊張するね」
少し不安そうに見える夏くんの表情。
私に出来ることといえば、励ますことぐらい。
「……私は大丈夫だって信じてる。結翔も応援してるから」
「ありがとう……ももがいてくれて良かった。こういうの、学校じゃなかなか言えないからさ」
彼が不安だったらそばにいたい――
前にも同じことを考えてたけど、今回はそれ以上に強く思う。
「夏くんのこと、いっぱい励ますから……私の前では何を言っていいんだよ」
「もも……」
彼は安心したような顔になった。
「ありがとう」
午後には文房具屋に行った。
「このシャーペン可愛いな」
私はシンプルなピンク色のシャーペンを手に取る。
「いいんじゃない? 俺も新しいシャーペン欲しくなってきた」
私が見ているピンク色のシャーペンの隣に、色違いの水色のシャーペンがあった。
彼とお揃いで使いたいかも……
「夏くん……良かったらこれ、一緒のやつにしない?」
水色のシャーペンを手に取った夏くんは、試し書きをしている。
「うん。ももとお揃い……だな」
「嬉しい」
お揃いのシャーペン……今日はちょっとした2人の記念日みたい。
会計を済ませてから、雑貨屋にも行った。
それまではグッズを見ていても、「ふぅん」ぐらいしか思わなかったのに、彼と一緒に見れば何でも「可愛い、素敵」って思えちゃう。
「夏くんとこうやって見るの、楽しい」
そう言うと、彼が照れたように笑う。
「俺はこういうところあまり来ないけど、面白いものも売ってるんだな」
「そうだよ。あ、このシールいいな」
2人であちこち回ったあと、モールを出て公園に向かった。ベンチに座ってひと休みする。
日陰は暑さがましで、秋の予感がする。風が私たちをそっと押してくれるようだ。
「夏くん」
「ん?」
「……呼んだだけ」
「ハハ……」
こんな会話でさえ幸せだ。
夏くんは何かに気づいたようにスマホを取り出す。
「……あやめの入院が来週に決まったって」
「そうなんだ、決まるとドキドキするよね」
「手術日が再来週か」
私はさっき買ったメッセージカードとシールを取り出す。そしてカードに『あやめちゃん、手術応援してるね。早く元気になりますように』と書いた。小さい封筒に入れてシールを貼る。
「今度書こうと思ったけど、来週だったらもうすぐだし……これ、あやめちゃんに」
「……ありがとう」
彼は封筒をじっと見つめていた。
「最初からずっと、ももには勇気づけられてるな」
「そう?」
「うん……そういうところが好き」
今日2回目の“好き”……
顔がほてってくる。
「もも、顔赤い」
「な、夏くん」
だって……そういうこと言うんだもの。
彼が私の手を取って、そのままぐっと引き寄せる。
息が止まった。
顔が近づいたと思う前に、唇は重なっていた。
この前よりもしっかりと確かめるような……そんなキスだった。
※※※
「ただいま」
「萌々香、おかえり」
「ねーちゃん、デートどうだった?」
結翔がニヤニヤしていて、お母さんが意味深に笑い、お父さんは不自然な表情で新聞を見ている。
なんで一言も言ってないのにわかるんだろう。
「と、友達とモールに行ってただけだもん」
どうにか誤魔化して部屋に入った。
バッグからピンク色のシャーペンを出して眺める。
初めてのお揃い……
私は今日のデートを思い出して、胸の奥があたたかくなった。




