20. 文化祭
文化祭当日――
「萌々香、楽しみにしてるね。頑張って」
「うん」
お母さんが支度をしながら声をかけてくれる。去年もお父さんと2人で見に来てくれた。
「うちの学校も変わらないよね」
「そうだな。あの頃に戻ったみたいだ」
「ねぇ、思い出してるの?」
「君の絵、良かったなって」
「ふふ……」
朝から熱い両親を横目で見ながら、私と結翔は無言でトーストをかじっていた。
お母さんは美術部で展示をしていて、それをお父さんが見に行って……距離が縮んだのかな。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
※※※
文化祭が始まり、私たちは体育館でクラス合唱を披露した。練習の甲斐あってたくさんの拍手をもらった。
「さて……吹奏楽部いかないと」
「萌々香がんばってねー!」
佳澄が応援してくれた。
そして、夏くんとも目が合う。
(……がんばって)
口だけ動かして微笑んでくれた彼。
心がぽかぽかしてきて、私も笑って合図する。
音楽室に行き、みんなで「行くよー!」と気合いを入れて、体育館まで行った。舞台袖でソワソワしながら出番を待つ。
「次は、吹奏楽部の演奏です! どうぞ!」
私はフルートで前列にいるので、客席の前の方が見える。去年と同じ場所に、お父さんとお母さんが仲良く座っているのが見えた。
指揮者が指揮棒を振り、私たちは演奏を始める。
今回は流行りの曲を中心に3曲。どれも私の好きな曲だ。フルートの音が伸びやかに流れる。トランペットの華やかさ、ドラムのリズム感、みんなが一体になって演奏できたと思う。練習の成果を発揮できたかな。
終わってお辞儀をすると、拍手が鳴り止まなかった。
私たちは音楽室に戻り、「お疲れ様ー!」と言い合ってほっとしていた。
※※※
「もも、お疲れ」
「ありがとう、夏くん」
文化祭が無事に終わった。
私たちは、クラスのみんなに見つからないように別々に校門を出て、いつもの公園のベンチで待ち合わせた。
「もものフルート、かっこよかったよ」
「本当? 嬉しい」
「この中学の吹奏楽部って熱心だよな」
「昔からそうみたいなの」
「じゃあきっと……あやめも中学生になったら頑張ってくれるだろうな」
「うん。あやめちゃんにぴったりだと思うよ、うちの部」
夏くんは私の方を向いて言う。
「もものおかげで、俺も、あやめも……元気になれたんだ」
「……そうなの?」
私のフルートの……おかげってこと?
「春休みに初めて君のフルートを聞いて、すごく落ち着いたんだ。あやめのことがあったけど、きっと大丈夫だって思えた。あやめもフェスタで君のことを見て、励まされたんだよ」
そんなことがあったなんて。
自分がフルートを吹くことで、誰かを元気にできたらいいなって思ってたので、思わず涙が出そうだった。
「あの時の音が、今でも忘れられないんだ」
そう言われると目が熱くなってくる。
我慢していた涙は、そっと頬を伝った。
ここまで頑張ってきて……本当に良かった。
「夏くん。そこまで言ってくれるなんて……嬉しすぎるよ」
「俺も嬉しい、ももが隣にいてくれるのが」
隣、という言葉に心臓が跳ねる。
気づくと夏くんに肩を引き寄せられていた。
「もっと近くに来て、もも」
「あっ……夏くん……」
やだ……顔が近い……
これって……
息を吸う音が、耳の奥に聞こえてくる。
ゆっくりと目を閉じると、唇がふわっと重なるのがわかった。初めて感じる甘酸っぱい味に、心が溶けてしまいそう。
キスってこんなに……幸せなんだ。
唇を離して彼の顔を見ると、恥ずかしくなって2人で笑った。もう一度抱き寄せられて、胸がいっぱいになる。このままずっと彼のぬくもりを味わっていたかった。
「好きだよ、もも」
「私も夏くんが好き」
※※※
「ただいま」
「おかえり萌々香! 文化祭、良かったわ」
お父さんとお母さんは、クラス合唱と吹奏楽部のほかに、美術部も見に行ってたようだ。
「吹奏楽部はいつ見ても迫力があるね。今回もすごかったよ」
「ありがとう」
「若松くんも褒めてくれたんじゃない?」
そう言われて、彼のキスを思い出してしまう私。
「いやっ……な、なんか……色々言ってくれて……夏く……じゃなくて、若松くんは……」
何を言ってるのかわからない。
お母さんはクスクスと笑っている。
「お疲れ様、萌々香」
お父さんもそう言ってくれた。
危ない……お父さんには夏くんのこと、バレたくないし。
「あ……ありがとう」
どうにか普通っぽい顔をしてそう言った。
夕食後、スマホを見ると夏くんからメッセージが来ていた。
『文化祭終わったし、週末会う? どこ行きたい?』
そうだ。
彼とデート……することになってたんだった。
『駅前のショッピングモールとか……どう?』
『いいね、そこにしよ』
『楽しみにしてる』
『俺も』
結局、お母さんが言ってたショッピングモールになっちゃった。
――あれ?
彼の大会を見に行ったり、文化祭で見てもらったり、デートで駅前に行くのって……親とおんなじことしてない?
ということは私たち……
この先も……
「きゃー! まだ早いって……」
私は顔を覆ってしまう。
だけど、彼とならずっと一緒にいたい。
そう思いながら、週末のデートのことを考えていた。




