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19. 文化祭の前に

 文化祭が近づいてきて、クラスの合唱や吹奏楽部の練習が続く毎日。まだまだ暑いけど、朝晩に吹く風は秋を連れてきてくれるような気がした。


 昼休みに佳澄が「はぁー合唱なんか疲れた」と言っている。

「いよいよって感じだよね。吹奏楽部は順調?」

「うん、当日楽しみにしてて」

「オッケー!」


 そこに、夏くんが通り過ぎる。

 目が合いそうになったけれど、佳澄にわかるかもしれないと思い、とっさに視線を逸らした。なのに、心臓は音を立てて反応してくる。


「……ねぇ萌々香。ちょっと外に出よ」

 佳澄に言われて教室を出て、中庭に行った。日陰を探して隅っこまで歩く。


「あのさ……若松くんと何かあったでしょ?」


「ふぇ!?」


 佳澄の目は全てを見透かすかのよう。

 なんでわかったんだろう。彼とは教室では喋らないように気をつけたのに。


「な……なんの話?」

「誤魔化してもバレバレだよ。近くにいるのに、不自然なくらい喋らないし。萌々香は最近ずっとハーフアップ。もうわかりやすいんだけど」


 そんなところまで見られてたんだ。バレていたなんて……けど言われてみれば確かにそっか。

 佳澄になら言ってもいいかな。


「うん。実は、彼に告白されて……付き合ってる」


 そう言うと佳澄は「キャー!」と言って私の肩をバシバシ叩いてきた。

「良かったじゃん、おめでとう!」

「あ……ありがとう」

「だってさぁ。若松くん、最初っから萌々香に話しかけに行ってたもんね」

「そうだっけ」


 私は始業式の日、彼が自分のところに来てくれたのを思い出した。

 きっかけはフルートだったっけ。きっとあやめちゃんのことを思ってたからだよね。

 そのあとは……。


「ちょっと萌々香ったら、顔真っ赤」

「うそっ……恥ずかしい」

「もう、幸せ者なんだから」


 私たちが教室に戻る階段を登っていると、夏くんが男子と喋りながら階段を降りてきた。

「やだっ……」

 私は佳澄の腕にぎゅっとつかまって顔を隠す。

 相変わらず心臓がうるさい。


 顔赤くなってるの、夏くんに見られたかな……


「ふふ、見てて面白いんだけど」

 佳澄が笑っている。

「若松くんもさ、“俺知らないし”って顔してるのにちょっと耳が赤いんだよね」

「え? そうなの?」

「そうそう! お似合いだよ、萌々香たち」


 夏くんのその顔、ちょっと気になるかも。

 今度すれ違う時に見ようかな。

 ……いや、恥ずかし過ぎて無理だ。


「じゃあさ、デートってするの?」

「で、でーとっ!?」

「あやしいー!」


 夏くんと……デート……

 考えただけでドキドキしちゃうよ。

「そ、そういうのは文化祭終わってから考えるんだからっ……今はフルート練習しないと」

「あ、萌々香ったら逃げたー!」


 ちょっと前までは、男の人に守ってもらって、デートに連れて行ってもらって……とか考えてたのに。いざとなると、どうすればいいのかわかんないよ。



 ※※※



 部活も終わって帰る時間になった。

 私はいつも通り、体育館の近くで待つ。

 すると、若松くんが「おつかれー」と言いながら出て来た。


 みんなが校門に向かったあとに、そっと彼のところに行く。この瞬間が何だか嬉しかった。

「もも、お疲れ様」

「夏くんも」

 

「もうすぐだよな、文化祭」

「うん。うまくできるかな」

「ももなら大丈夫だよ」

「えへへ……」


 そして夕陽の公園でベンチに座るのが、ルーティンになっている。

「ねぇ、夏くん」

「ん?」

「あの……文化祭終わったらさ」


 直接デートしてって言うの、勇気いるな……。

 でも言わなきゃ、一生言えない気がする。

 夕陽が背中を押してくれるみたいで。


「……その、一緒にお出かけしたいなって」

「……いいね、それ」

 夏くんがニッと笑う。


「俺も、ももと過ごしたいなって思ってたから」

「嬉しい……そう言ってくれて」

 

「楽しみにしてる。もものフルートも、ももと出かけるのも」


 夏くんはそう言って、私の手を優しく包んでくれた。

 あったかくて力が湧いてくる。

 これでフルートを頑張れる気がする。


 私たちは寄り添いながら、オレンジ色に染まる夕焼けを眺めていた。



 ※※※



「ただいま」

「おかえり。ご飯できてるよ」


 今日の夕食は、家族全員の大好物のバターチキンカレーだった。

「うめー!」と言いながら、結翔がガツガツと食べている。


「ねーちゃん」

「なに?」

「若松くんって次いつ来るの?」


「え?」

 なんで今……?

 というか、そんなにしょっちゅう来るわけないって。


「し……しばらくは来ないかな」

「そっかぁ。あやめちゃんもあんまり学校来ないんだよな」


 あやめちゃんも退院したとはいえ、体力が戻っていないので毎日学校というわけにはいかないのだろう。


「そうだ結翔。あやめちゃんは10月に手術だって聞いたよ」

「そうなんだ。どんな手術?」

「詳しくは知らないけど、大事な手術だと思う。応援しないとね」

「おぅ!」



 夕食後、お父さんと結翔がテレビを見ている隙に、私はお母さんと話をした。

「……お母さん達って、どんなデートしたの?」

「デート? うーん……色々なところに行ったなぁ。この近くなら駅前のショッピングモールとか。すぐそばに公園もあるし、お昼はファストフード店があるからお勧めだよ」


「うん……え? いや……お勧めってその……」

「ん? 萌々香の話じゃなくて?」

 お母さんがふふっと笑う。

「ち、違うよ……お母さん達の話」

 何だかお母さんはわかってそうだけど……言うのは待とう。

 

「……お父さんと行く場所なら、どこでも素敵なデートスポットだったな」

「だろうね」

 惚気全開で、お腹がさらに膨れそうだ。

「お化け屋敷でずっと『大丈夫?』って言ってくれたのが心強かったな」


 それだけで、お父さんがお母さんを大事に思っているのが伝わってくる。

「……いいなぁ、そういうの」


「きっと若松くんとも楽しく過ごせるよ」

「うん……ってちょっと待って。若松くんじゃないって」


 そう言ってはみたものの、私の顔が一瞬赤くなったのを――お母さんは見逃さなかっただろう。

 


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