18. 翌日
翌日――
最近はずっとポニーテールだったけど、ゆるいハーフアップにした。整えながら、“気づくかな”なんて思ってしまう。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃい」
いつもよりソワソワしながら校門を通ると、佳澄に「おはよー!」と言われた。
「……今日、髪型可愛い」
「あ、うん……ありがとう」
気づかれたらどうしようと思いながらも、何とか教室に到着。席につくと若松くんが見えた。
こっちを向いてくれるかな……?
そんなことを考えていると、まるで伝わったかのように……彼は私の方を見てくれた。
ほんの少しだけ、目が合う。
それだけで胸の奥がじんわりとあたたかい。
彼は、明らかに照れたような表情だった。
※※※
放課後に部活に行き、深呼吸してフルートに唇を当てる。昨日とは違ってなめらかな音が響き、私はやっと安心できた。
「良かった。竹宮さん調子が戻って」
「ありがとうございます」
文化祭に向けて練習に気合いが入る。
だって彼が見に来てくれるんだもの……。
順調に練習を終えた。
音楽室を出て、思わず呟く。
「若松くん……もう、終わったかな」
体育館に行くと、ちょうど彼が出て来たところだった。
こういう時、どうやって話しかけたらいいのかな?
周りの人たちも気になるし……。
若松くんはというと、いつもよりゆっくり歩いているように見えた。
――そっか。
みんなが校門を出るのを確認すると、彼の足音が大きくなる。
少しだけ歩幅を落として、私の隣に並んでくれた。
「……お疲れ」
「若松くん……お疲れ様」
「なんかさ、どうすればいいかわからなくって」
「……うん、私も」
そういえば教室ではバレてしまいそうで、彼とは話せなかった。昨日も会ったはずなのに、久々に喋るような気がする。
だから……今こうやって話すだけで照れてしまう。
お互いの手が微かに触れて、ドクンと音が聞こえてくる。
どうしよう、心臓もつかな……
「……あ、あのさ」
「ん?」
「今日……髪、いつもと違うよな」
「き、気づいて……くれたんだ」
「うん。すごく似合ってる」
嬉しい。
鏡の前で頑張って良かった。
思わず笑みがこぼれる。
すると、手がまた触れる。
お互いを探すように……指を絡め合った。
彼の大きな手は私の心まで包み込んでくれるよう。
「……まずいな」
彼がそう言う。
私、何かしたっけ?
「どうかした?」
「……帰りたくないって思った」
「え……」
周りには誰もいなくて、私たちだけ。
それならいっそのこと……
このまま、一緒にいられたらいいのに。
「私も……」
「じゃあ、あと少しだけ」
「うん……」
ふたりで歩いて公園まで行った。
昨日と同じベンチに座ると、告白された時のことを思い出す。
「そうだ若松くん、フルートうまく吹けるようになったよ」
「お、良かったじゃん。俺も調子が戻ったんだ」
「良かったぁ……」
私たちってそういうところ、似てるよね。
嬉しい……。
「じゃあさ」
「ん?」
彼は、私の肩を抱き寄せる。
まるで身体ごとすっぽりと包まれたような……あたたかさ。
だめ……心臓がおかしくなっちゃう。
若松くんが優しく笑った。
「こうしたら、もっと調子が良くなるかも」
彼の顔を見る。
近すぎて、恥ずかしいよ……
「もう……若松くんたら……」
「ハハ……」
私は顔を真っ赤にしながら、彼のぬくもりを感じていた。
その時、穏やかな声がふわりと降りてくる。
「もも」
「……っ」
ももって……呼ばれちゃった。
じゃあ、夏樹だったら……
「……夏くん」
抱き寄せられた腕の力が、さらに強くなる。
私たちはそのまま名前を呼び合い、笑い合っていた。
夕陽の色なんて忘れるくらい、彼の腕の中はあたたかかった。
※※※
「ただいま」
「おかえり、萌々香。ちょっと遅かったわね」
お母さんにそう言われてビクッとする。
「な……なにもないし」
まだ顔が赤いかもしれないと思い、慌てて自分の部屋に入った。
「お、落ち着かなきゃ」
課題を机に広げて、勉強を始める。
※※※
あっという間に夜になって、布団に入った。
天井を見ていると、彼のことばかり思い出す。
『もも』
彼の声が聞こえて鼓動が速くなってしまう。
「な、夏……くん……」
こう呼ぶ自分の声にまでドキドキしてきた。
今日、寝られるかな。
「……ちょっとお水飲んでこよ」
部屋から出てキッチンに向かおうとしたら、声が聞こえてきた。
「奈々美……」
「もう……はるくんたら」
――リビングのソファで、お父さんとお母さんが寄り添っているのが見えた。
相変わらず仲がいいんだから。
けれど、これまでと違って「ああ、わかる」って思えた。
ふたりで横並びに座って、名前を呼んで、笑い合うって……すごく幸せなんだよね。
……って、これじゃあまた寝られなくなっちゃう。
リビングに入ると、お父さんとお母さんが振り返る。
「……萌々香。起きてたのね」
「うん。喉乾いちゃって」
しれっとお水を飲んで、ふたりの顔を見ずに自分の部屋に戻った。
「私と夏くんも……あんなふうに仲良しでいられたらいいな」
そう呟いて布団に入る。
彼のぬくもりが冷めないまま、ゆっくりと眠りについた。




