表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

14. 大会②

 翌日、決勝トーナメントが実施された。

 負けたら終わり。

 体育館の空気が、予選のときとは全然違って感じられる。


「ちょっと緊張してきた……」

「わかる。応援してる側なのにね」


 友達とそんな会話をしながらも、胸の奥ではずっと“ドクドク”と音が鳴っていた。


 ――決勝トーナメント初戦、対戦相手は予選リーグ1位通過の強豪校。

 試合開始の笛が鳴ると、会場のざわめきが一気に消えた。


 相手のスパイクは凄まじく速い。

 ブロックも高くて、まるで壁みたい。

 そのたびに、うちのチームは押し戻される。


 でも、若松くんは諦めなかった。


「ナイスカバー!」

「ドンマイ、次いこ!」


 声を張り上げながら、誰よりもコートを走っていた。

 レシーブで床に飛び込んだとき、膝を打ったのか顔が少し歪んだ。

 でもすぐに立ち上がって、またボールを追いかける。


 ――こんなに必死な姿、初めて見た。


 1セット目は取られた。

 でも、2セット目は粘りに粘って奪い返した。


「すごい……!」

「あと1セットだよ!」


 手に汗がにじむ。

 もしかすると、選手以上に緊張しているかもしれない。


 3セット目、試合はデュースにもつれ込んだ。

 もう、どっちが勝つかなんて誰にもわからない。


「がんばって……!」


 祈るように見つめていると、相手の強烈なサーブが飛んできた。

 チームメイトは一瞬動きが遅れる。

 でも、その一歩を、若松くんだけが踏み出した。


「っ……!」


 腕でしっかり受け止める。

 ボールがゆっくり空へと浮かんで――味方がスパイクを放つ。

 相手の指先をかすめて、ボールは相手コートのライン上へ。


 ……落ちた。


「決まった!!」


 体育館が大きく揺れたように感じた。

 味方の歓声、コーチのガッツポーズ、応援席のどよめき。

 全部が一気に溢れ出す。


「若松くん、すごい……!」


 自分の声が震えているのがわかった。


 コートでは、仲間が若松くんの肩を叩きながら喜んでいる。

 彼は汗だくのまま、少し照れくさそうに笑っていた。


 その視線が、ふいにこちらに向く。


「――え?」


 ほんの一瞬だったけど、確かに目が合った。

 さっきまで震えていた鼓動が、今度は違う意味で跳ね上がる。


「萌々香ちゃん、顔赤いよ?」

「う、うそ……!」


 友達に言われ、慌てて頬に手を当てる。

 でも、止まらない。

 顔も胸も、全身が熱い。


 若松くんたちは準決勝進出。

 次はもっと大きな相手。

 それでも――


 絶対、最後まで応援する……!

 そう思っただけで、また心がぎゅっと締めつけられた。



 ※※※



 結局準決勝で敗退し、うちの中学の男子バレー部はベスト8に終わった。それでも若松くんは、やり切った表情でチームメイトと笑い合っていた。ちなみに佳澄のいる女子バレー部は決勝トーナメント初戦で敗退していた。


「ほら萌々香! 若松くんところ行きなよ!」

 私は友達に押されて、入り口で解散している選手たちの方に歩いていく。

 そこにいる、ひときわ背が高い彼の元に向かった。いつもより身体が大きく見えて緊張してくる……こんなに背中、広かったっけ?


「わ……わかまつ……くん」

 声が震えている。


「竹宮さん……! 来てくれてありがとう」

 私を見るなりぱっと笑顔になった若松くん。


 ――胸の奥で何かが大きく鳴り響いた。


「準決勝、勝ちたかったんだけどね」

 そう言って苦笑いをしている彼。


「そうだね、けど……」

 私は彼の目を見て言った。


「若松くん、すごくかっこよかったよ」


 こういう言い方で良かったのか、わからなくなってくる。彼も照れたような表情をしていた。

 少しの沈黙のあと、若松くんが口を開く。


「竹宮さんの声、聞こえてたから」


 そう言われてまた胸の奥がおかしい。

 私の声、届いてたんだ――。


 するとバッグに入れたスマホが鳴る。

 ちらっと見ると一緒に来た友達からだった。


『うちらは先帰ってるねー♡ ごゆっくり♡』


 私と若松くんのことを見ていたのだろうか。恥ずかしくなってくる。


「竹宮さん、あのさ」

「ん?」

 若松くんはバッグからスマホを取り出した。


「良かったら……チャットのID交換しない?」

 

「え……」


 一瞬、時間が止まったような感覚があった。

 若松くんとID交換……?


「うん……交換する」

「じゃあコード読み取るよ」

 彼と近づくだけで、スマホを触る指が震えて熱を帯びる。今日の私、一体どうしちゃったんだろう。


「……できた」

 私のチャット画面に「若松夏樹」と表示された、バレーボールのアイコン。それを見るだけで心があたたまる。


「じゃ、帰ろうか」

 若松くんに言われて私は「うん!」と言う。

 ふたりで並んで歩く帰り道は、前よりもずっと彼を近くに感じた。



 ※※※



「ただいま」

「おかえり、萌々香」

 お母さんが今日もニコニコしながら迎えてくれた。明らかに何か聞きたそうだったけど、私はすぐに自分の部屋に入った。


「はぁ……」

 若松くんの試合での姿が頭の中で蘇ってくる。全体を見ていたはずなのに、思い出すのは彼がプレーしていたシーンばかり。


 スマホのチャット画面を開いて、バレーボールのアイコンを見つめる。どうしてこんなにも、若松くんのことを思うのだろう。


「萌々香ーゼリー食べるー?」

 お母さんの声だ、ゼリーなら食べられそう。私はダイニングに行く。


「……で、若松くんどうだった?」

 思ったとおりそう聞かれた。

「準決勝で負けちゃったけど、すごく活躍してた」

「そっか……かっこよかったんじゃない?」


 ニヤッと笑うお母さん。

 私は顔を赤くしながら「うん……かっこよかった」と言った。

「良かったね、応援に行けて」

「うん」


 いつもよりおとなしい私に、お母さんは気づいているのだろうか。特にそれ以上は聞かれずに済んだ。

 

「ごちそうさま」

 そう言って私は再び自室にこもる。

 すると、机の上に置いたスマホが光っていた。まるでそこだけオーラを纏っているよう。


『今日はありがとう。竹宮さんが来てくれて本当に嬉しかった』


「わ……わかまつくん」

 彼から初めて来たメッセージ。三度見、いや五度見ぐらいしてから私は返事を打つ。


『私も若松くんを応援できて、嬉しかったよ』


 ――送信。


 こんな風に男の子とやり取りすることになるなんて……私は未だにおさまらない鼓動を感じながら、スマホを握りしめた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ