13. 大会
今日は若松くんのバレーボール大会。
「何か緊張してきちゃった……」
カジュアルな格好だけど、少し準備に時間をかけてみる。暑いから髪はポニーテール。
「気をつけてね」とお母さんが水筒を渡してくれた。隣にはお父さんもいる。
「行ってきまーす」
駅で友達と待ち合わせして、会場の体育館まで歩いていく。
「ねぇ萌々香ちゃんって、若松くんと仲良いよね?」
「ふぇ?」
朝から変な声が出てしまう。
仲は良い方かな……それ以上考えると恥ずかしくなりそうなので、どうにか抑える。
「だって今回も誘われたんでしょう? 嫌いな子をわざわざ大会に呼ばないよね」
「いいなぁ、若松くんって背が高くて大人みたい」
友人たちが盛り上がっている……そう言われると余計に意識しちゃうよ。
「……たまたま部活帰りに会って、流れでそうなっただけだから」
精一杯の照れ隠しのつもりだったけど、多分耳が赤くなってるんだろうな。
喋りながら歩いていると、体育館に到着した。こんなに広い体育館、初めて来た。若松くんでも緊張するっていうの、よくわかる。
「あ、若松くんだ」
「かっこいい!」
そこには紺色のユニフォームを着た若松くんがいた。いつもと違って大人っぽく見えるのは、ユニフォームのせいだけではなさそう。
ふと彼がこっちを向き、私たちを見つけて手を振ってくれた。それだけで私は嬉しくなってしまう。
予選リーグでは上位2校が決勝トーナメントに行ける。うちの中学のバレー部は、男子も女子もたまに決勝トーナメントに行くらしい。強い学校が多そうだ。
早速第1試合がスタートした。
男子の試合はスピードが速くて、ボールが空気を切る音が何度も響く。サーブを受ける音、ブロックの音、味方同士の声。全部が混ざって、胸がざわざわしてくる。
「若松くん、あんなに高く跳べるんだ」
「ね、動きかっこよすぎじゃない?」
友達の声がどんどん耳に入ってくるけれど、私の目は一瞬たりとも若松くんから離れない。
――だけど、試合は簡単じゃなかった。
相手校は予選リーグの中でも強いと噂のチームで、押されながらも耐えていた。思わず手をぎゅっと握りしめてしまう。
それでも若松くんは、落ち着いてボールをつないでいた。レシーブして、トスを上げて、スパイクを決めて……チームの誰よりも体を張っているのがわかる。
「すごい……」
気づくと声が漏れていた。
1セット目は取り、2セット目は落として、試合はフルセットにもつれ込んだ。
最後の一本は、若松くんが触ったボールが相手コートに落ちて――観客席が一気に沸く。
「勝った……!」
友達と顔を見合わせるだけで、涙が出そうなほど嬉しかった。
でも、そのあとが大変だった。
2試合目はさっきの疲れが残っているのか、ミスが重なった。相手は粘り強く、どれだけ攻めても拾ってくる。気づけばあっという間にセットを取られ、会場の空気が重くなる。
「頑張って……!」
思わず声が出たけれど、届いたかはわからない。
そのままストレートで負けてしまい、ベンチの空気は沈んで見えた。
「え、大丈夫かな……」
「これって、もしかして3位になったら終わり?」
友達が不安そうにささやく。私も不安でいっぱいになった。
でも、リーグのもう1試合がどうなるかで結果が決まるらしい。
時間が経つほど、心臓の鼓動が大きくなる。
こんなに緊張するなんて知らなかった。
そして――
「……やった! 2位だよ、ギリギリ通過!」
胸の奥から一気に熱いものが広がった。
若松くんたちのコートを見ると、選手たちは安堵の笑顔でコーチに深く頭を下げていた。
その輪の少し後ろで、若松くんがこっちに気づく。
汗で少し髪が濡れていて、小さく手を振ってくれた。
――どうしてだろう。
たったそれだけの仕草なのに、目がじんわり熱くなる。
「萌々香、明日は決勝トーナメントだよ!」
友達に肩を軽く叩かれ、私は大きく息を吸い込んだ。
次は負けたら終わりの決勝トーナメント。
若松くんの背中を、今度はもっとちゃんと見つめていたい。
※※※
家に帰って深呼吸した。
あんなに夢中になれるなんて思わなかった。
若松くんが一生懸命で、そして……
「……かっこいいなぁ」
まだ胸のドキドキがおさまらない。
こんなに誰かのことを考えたことなんて、なかった。
これまでに好きになった人はいたつもりだけど、漠然と守ってもらいたかっただけで、それ以外は特に何も思ってなかった。
「この気持ちは……まさか」
その時だった。
「萌々香ーアイス食べるー?」
お母さんに呼ばれて私はアイスを食べに行った。
「……で? 若松くんどうだった?」
きっとそれを聞きたいがためにアイスで釣ったのだろう、お母さんがニコニコしながら尋ねてくる。
ちなみにお父さんはお客さんの所に行ってて、結翔はサッカーの練習なのでお母さんとふたりっきり。
「うん……予選通過したよ。明日もあるから行ってくる」
「良かったね」
今日はお母さんしかいないし、聞いてみようかな。
「お父さんの卓球ってかっこよかった?」
こう聞くとお母さんは「もちろん」と言っていた。
「普段見られない姿だからね。キラキラしてて、素敵だった」
「ふぅん」
「……若松くんもカッコ良さそうだよね」
思わず顔が赤くなる。
「うん……ユニフォームが似合っててかっこよかった」
「きっと萌々香の応援が届いたのね」
「だと……いいな」
明日も彼の姿を見ることができる。
そう思うと、今から楽しみになってきた。




