12. 夏休み
1学期の期末試験がやっと終わり、夏休みに入った。吹奏楽部は文化祭の練習を中心に、休み中でも活動がある。
「その前に花火フェスタがあった……」
「萌々香、疲れてる?」
「暑くて力が出ないよ」
私は吹奏楽部の友達と喋りつつ、個人練習をしている。蝉が遠くで鳴いているのを聞きながら、楽譜を確認していた。
夏の花火フェスタは、地域コミュニティ主催の花火大会で、うちの中学校で毎年開催される。キッチンカーも来たり、ステージプログラムもあって楽しいイベントだ。
私たちは花火の打ち上げ前にステージで演奏する。うちの中学の吹奏楽部はそこそこ伝統があるらしく、こういったイベントには熱心に参加している。
「花火、楽しみだね」
「あそこでさ、あの子とあの子が付き合ってるとか……わかるよね?」
友達がそう言うので少しドキッとする。
いや、私に相手はいないんだけど。
けれどそういうの、羨ましいな。
うちのお父さんとお母さんも同じ中学校出身で、2人は花火を一緒に見たって言ってたな。しかもその時、お父さんはお母さんの手を取って、2人っきりになれる場所まで連れていったとか。今と大して変わらないな……あの時から仲が良いなんて、改めて考えたらすごいことだ。
「萌々香はそういう人いないの?」
「ふぇ?」
変な声が出ちゃった。
一瞬、若松くんの顔が思い浮かんだけど、恥ずかしくなって頭の隅っこに追いやる。
「い、いるわけないじゃん」
「そっかぁー憧れるよね、花火デート」
その日の練習終わり、帰り道で聞き覚えのある声がした。
「竹宮さん!」
「……若松くん、お疲れ様!」
彼も部活終わりみたいだった。
「そうだ明日、あやめが一時退院するんだ」
「本当? 良かったね」
「夏休みだからって。主治医の先生が気を利かせてくれたらしい」
「それは嬉しいね」
あれからあやめちゃんは順調だと聞いていた。安心したような表情の若松くんを見て、私もほっとする。
「家族で出かけたりするの?」
「うーん、あやめの体力を考えたら近場かな。父さんもお盆には帰ってくるし」
「楽しみだね」
そういえば、バレー部って大会とかあるんだっけ。
「夏休み中に試合とかあるの?」
「うん、前の学校でもこの地域の大会には出てたから」
試合でスパイクを決めたら、迫力があるんだろうな。
そう思いながら私は、
「また若松くんがバレーしてるところ、見てみたい」と言った。
すると彼は、少し考えてから口を開く。
「……良かったら、大会見に来ない?」
「え……?」
ふたりの間を沈黙が流れた。
さっきまでうるさかった蝉の声も聞こえない。
「あ……ごめんいきなりで」
「ううん。私も行っていいの?」
「うん、来てもらえると嬉しい。基本自由に見れるから、誰か誘ってくれてもいいし」
「女子バレーも一緒?」
「そうだよ」
ということは、佳澄も出場しているのかも。
クラスの誰かを誘って行きたいな。
「じゃあ……見に行くね」
「ありがとう」
その“ありがとう”が、いつもより少しあたたかく聞こえた。
※※※
8月上旬に3日間かけて、バレー部の大会が行われる。
私はクラスの女子を誘って若松くんを見に行くことにした。
「ふぅーん。今まで私の大会、見に来なかったのにね」
電話で佳澄に言われる。
「えーと……若松くんに見に来ないかって言われて……その……」
「ふふふ、萌々香ったらわかりやすいな。私も隣のコートにいるけどさ。男子バレー側に座ってくれていいし」
佳澄にそう言われて「いいの?」と声が1トーンぐらい高くなる。
「いいに決まってるでしょ。若松くんも何か萌々香のこと……」
「ん?」
「いや、何でもない。しっかり応援してあげてね!」
電話を切ると「萌々香ーご飯だよー」とお母さんの声がしたので、ダイニングに行く。早速彼の大会のことを話した。
「へぇー若松くんの試合、楽しみね。私も卓球大会、行ってたな」
お父さんが卓球部だったので、お母さんはよく卓球大会に応援に行ってたみたい。
「おかげでうまくいったからな」とお父さんがお母さんと目を合わせると、「そう?」と言いながらも笑ってるお母さん。私と結翔は見て見ぬ振りをして、唐揚げを食べている。
「……萌々香は、若松くんとそういう仲なのか?」
お父さんがちらっとこっちを見る。
「え? いや……それは……ただのクラスメイトだから。友達と一緒に見に行くし」
「けど、今まで佳澄ちゃんの大会には行ってなかったじゃない」
お母さんも鋭く指摘してくる。
「いいなぁ、萌々香もそういう時期なのね」
お母さんは嬉しそうだけど、お父さんはちょっと微妙そう。この話はもうやめておこう。
「俺も若松くんに会いたいなー」と結翔も言っていたけど、サッカーの練習があってそれどころではなさそうだった。
夕食後、こっそりお母さんに聞いてみた。
「お父さんの卓球大会ってどんなのだった?」
お母さんは嬉しそうに話す。
「お父さんは中学の時は卓球部のエースだったの。誰よりも卓球がうまかったし、最後まで諦めてなかった」
そうなんだ。というかお母さんが少女に見えてきた。
こんなに愛されててお父さんも幸せ者である。
「私、バレーって直接見るの初めてだよ」
「そうね、頑張ってる姿ってきっと素敵だと思う。応援って何よりも力になるの。若松くんにも伝わるよ」
若松くん、という名前を聞いただけで顔が赤くなりそうだった。
「……お父さんの前ではあまり言わない方がいいかもね。何かあったら教えてね♪」
お母さんがニヤッと笑う。
「そ……そんなのじゃないもん」
こう言ったのに――心臓の音は響いていた。




