第六章 ノエルとユーワン
わたしは初対面の剣聖になにか特別な印象を持っていなかった。自分が処刑されるか否かという瀬戸際に立たされていることも気づかなかった。
だから剣聖、ユーワン・アルティミトのことも村からわたしの知らない人が迎えに来てくれたのだと思っていた。
彼が命をかけてわたしを救うための決闘に臨んだことを知ったのもずいぶん後のことだった。
幼かった私は、それでも自分が何かこの地方の為政者によって検分を受けているのだという事だけはかろうじて理解した。
だから、それが終わって解放されたのだと単純に思った。数日の宿泊の間、ひどい扱いを受けることもなかったのは、領主ヴァイオラ公の計らいだと後に知る。
ヴァイオラ殿下に公女として拝謁が許されたのはずいぶん後のことだった。
解放されてわたしと剣聖は、元いた農家を訪れて村はずれの空き家に滞在した。わたしを連れ帰ると言い残した剣聖のために手入れをされていた。
農家の奥さんは、わたしが帰ってきたことを信じられないとばかりに強く抱擁して涙を流した。
ユーワン・アルティミトは父のすべき仕事、母のすべき仕事、そのほとんどを一人でこなした。最初の日から、わたしはたちは打ち解けることができた。それが、一国の筆頭騎士も務めたことのある剣士のカリスマ性なのかもしれない。
「サクヤ、よく無事に戻って。もうダメかとあきらめかけていたのよ」
「?」
世話になったおばさんに体をガクガクとゆさ振られてわたしは、彼女がなににそんなに感涙しているのかわからなかった。
「アルティミト様、もうサクヤは赦免されたのでしょう」
「はい」
「では、もうここで暮らしていても問題ないのですね」
「閣下からはそのようなお言葉をいただきました」
「よかった」
体格のいいおばさんはわたしを抱き上げてぐるぐると回った。
わたしが悪魔憑きとして捉えられたのは、この村を襲った盗賊をわたしが異能力で返り討ちにしたからだった。それまでは哀れな孤児として施しを受けていたが、それ以降は小さな英雄として崇められていた。そのために官憲に捕まったのだ。
わたしが捕縛されてすぐ後に剣聖がこの村を訪れた・。その訪問が数日早ければ、私は隠された力を行使することなく平和に暮らしていたのかもしれない。
そのような罪悪感もユーワン・アルティミトは抱いていた。
「ずっと、ここで暮らしなさいね、サクヤ」
「それはどうでしょうか」
ユーワンは疑問を口にした。




