#2
「なぜですか、閣下はサクヤに温情をかけてくださったのでしょう」
「おそらくは腹心の部下たちの身を案じたのではないかと」
「ユーワン殿は閣下の面子が立つように自決も覚悟したのでしょう。それが心を打ったのではありますまいか」
夫人の夫の言葉は正しい。
「 個人的感情では何ともならあります。国と国との関わりもあれば、何時事情が変わってしまうかもしれません」
早めにここを出立するのが安全なのかもしれない。
「行く宛はあるの? 剣聖殿」
「これから考えます」
ここを出ていくことが村人にも迷惑をかけない最良の方法だと考えていた。
「ここに留まればある日、官憲に暗殺される危険もあります。みなさんにも累が及ぶかもしれませんから、ここを出ようと考えています。我々が出て行ってしまえば、閣下の憂いもなくなることでしょう」
「しかし、あなたは御前試合で7剣士を打ち負かしたのだから、あなたにかなう剣士はこの国にはおりますまい」
「 1対1の決闘であればともかく、24時間隙を見せない人間なとおりません。時を選ばない暗殺であれば力量の差は埋めることができます」
「わたしは大丈夫だと思うのですが、ヴァイオラ姫殿下は人格者と噂されていますし、7剣士も人徳があり、領民の信頼を得ています」
「 わずかな時間ですが言葉も交わし交流を持ちました。おっしゃる通りの人たちだとは感じました。 明日までは身の振り方を考えたいと思います」
実際、この国を出てからどこへ向かうか、思案のしどころであった。 どこの国にも知己の者はいた。しかし、 この国を出ればまた同じことの繰り返しになるのではないだろうか。先々の国で迫害を受けることの繰り返しになりはしないか。
それを避けるためには、身元を偽って旅をしなければならない。 剣聖が悪魔憑きを連れている事はもう広く知られている。サクヤの名も偽ることはもとより、 自分ももうこれからは剣聖を名乗ることはできまい。
サクヤはそんなことをユーワン・アルティミトや村人たちが悩んでいることも知らず、夕食を摂るとすぐに眠りについた。
ユーワンは一睡もせず、ただソファーに背中を預け、屋外の物音に耳を傾けた。夜襲があるかもしれない。 ストーリーはいくつも考えられる。 今日の決闘の見届け人には他国の人間も多くいた。ヴァビロン国に悪魔憑きがいることを看過できない国もあるかもしれない。
ノエル・ヴァイオラの性格を知っていれば、それは要らぬ心配だと思えたはずだった。




